「あれ、今日もうんちしてないな…」「何度もいきんでいるのに、少ししか出ない…」愛犬のそんな様子に、心を痛めている飼い主さんは多いのではないでしょうか。犬の便秘はよくあるトラブルですが、単なる不調だけでなく、病気のサインが隠れていることもあります。
この記事では、犬の便秘のサインや原因、ご家庭で安全にできる解消法から、すぐに動物病院へ行くべき危険な症状まで、獣医師の視点から詳しく解説します。正しい知識で、愛犬のつらい便秘をスッキリ解消してあげましょう。
この記事でわかること
- 犬の便秘を判断する具体的なサイン(回数や様子)
- 便秘を引き起こす7つの主な原因(食事・ストレス・病気など)
- 自宅でできる食事や運動による安全な便秘解消法
- 飼い主が絶対にやってはいけない危険なNGケア
- すぐに動物病院を受診すべき症状の目安と治療法
もしかして便秘?まず確認したい5つのサイン
「便秘」といっても、どの状態からを指すのか判断に迷いますよね。まずは、以下のサインが愛犬に見られないかチェックしてみましょう。
- 2日以上排便がない:健康な犬は通常1日に1〜3回排便します。丸2日以上出ていない場合は便秘の可能性が高いです。
- 排便ポーズをしても出ない、少量しか出ない:何度もいきんだり、踏ん張ったりしているのに、便が出ないか、硬くてコロコロした少量の便しか出ない状態です。
- 排便時に痛がる・鳴く:いきむと同時に「キャン!」と鳴き声をあげる場合、痛みを感じているサインです。
- 便が硬く、乾燥している:水分が少なく、パサパサしていたり、石のように硬かったりする便は、腸内に長く留まっていた証拠です。
- お腹を触ると嫌がる、元気・食欲がない:お腹の張りや不快感から、触られるのを嫌がったり、ぐったりして食欲がなくなったりすることもあります。
これらのサインが1つでも見られたら、便秘の可能性があります。特に複数のサインが当てはまる場合は注意が必要です。
なぜ?犬が便秘になる7つの主な原因
便秘の解消・予防には、原因を知ることが不可欠です。愛犬の生活習慣に当てはまるものがないか、振り返ってみましょう。
- 水分不足:飲水量が少ないと便が硬くなり、腸内をスムーズに移動できなくなります。特にドライフードが主食の犬は意識的な水分補給が重要です。
- 食事内容の偏り:食物繊維が不足していたり、逆に不溶性食物繊維(穀物や豆類などに多い)が多すぎたりすると、便の量や硬さのバランスが崩れ、便秘の原因になります。
- 運動不足:運動は腸の蠕動(ぜんどう)運動、つまり便を押し出す動きを活発にします。散歩の時間が短い、室内で寝てばかりいる、といった状態は便秘を招きやすくなります。
- ストレス:引っ越しやペットホテル、家族構成の変化などの環境の変化は、犬にとって大きなストレスとなり、自律神経が乱れて腸の動きが鈍くなることがあります。
- 加齢による機能低下:シニア犬になると、筋力の低下でいきむ力が弱くなったり、消化機能が衰えたりして便秘になりやすくなります。
- 排便の我慢:トイレが汚れていたり、散歩に行けなかったり、あるいは排便時に痛み(関節痛など)があったりすると、犬は排便を我慢してしまい、便秘につながることがあります。
- 病気のサイン:最も注意すべき原因です。椎間板ヘルニアなどの痛み、会陰ヘルニア、前立腺肥大、消化管内の腫瘍や異物などが、物理的に排便を妨げている可能性があります。
自宅でできる!犬の便秘を解消する3つの応急ケア
ぐったりしているなどの異常がなく、軽度の便秘と思われる場合は、ご家庭で以下のケアを試してみましょう。
①食事の工夫:便通を助ける食材を取り入れる
いつものフードに、便秘解消に役立つ食材を少量トッピングしてみましょう。
- 水溶性食物繊維が豊富な食材:
便を軟らかくする効果があります。加熱して柔らかくしたさつまいも、かぼちゃ、りんご、キャベツなどを、いつものフードの1割程度を目安に混ぜて与えます。 - 適度な油分:
オリーブオイルや亜麻仁油などを数滴フードにかけると、便の滑りを良くする効果が期待できます。ただし、与えすぎは下痢の原因になるので、小型犬なら1〜2滴から試してください。 - 水分が多い食事:
ドライフードをお湯でふやかしたり、ウェットフードを取り入れたりするだけで、手軽に食事からの水分摂取量を増やせます。 - 善玉菌:
無糖のプレーンヨーグルトや犬用の乳酸菌サプリは、腸内環境を整えるのに役立ちます。ヨーグルトは小さじ1杯程度から始めましょう。
注意:新しい食材は、アレルギーや体質に合わない可能性もあります。必ずごく少量から試してください。
②水分補給を促す工夫
いつでも新鮮な水が飲めるように、水飲みボウルを複数箇所に設置しましょう。お肉のゆで汁(味付けなし)を冷まして与えたり、水に少量のヤギミルクを混ぜたりして、飲む意欲を刺激するのも良い方法です。
③適度な運動で腸を刺激する
特別な運動は必要ありません。いつもの散歩の時間を少し長くしたり、コースに坂道を取り入れたりするだけでも、腸の動きは活発になります。ドッグランなどで思い切り走らせてあげるのも、ストレス解消と便秘改善の両方に効果的です。
これは危険!飼い主が絶対にやってはいけないNGケア
愛犬を想うあまり、間違ったケアをしてしまうと、かえって症状を悪化させたり、怪我をさせてしまったりする危険があります。
- 綿棒での肛門刺激:
非常に危険です。肛門や直腸の粘膜は非常にデリケートで、傷つけてしまうと大出血や感染症につながる恐れがあります。絶対にやめてください。 - 人間用の便秘薬や浣腸の使用:
人間と犬では体のつくりも薬の適量も全く異なります。中毒を起こしたり、腸に穴が開いたりする危険性があり、命に関わります。 - 無理なマッサージ:
お腹を「の」の字に優しく撫でる程度ならリラックス効果がありますが、強く押したり揉んだりすると、内臓を傷つけたり、犬に痛みや不快感を与えたりする可能性があります。嫌がる素振りを見せたらすぐにやめましょう。
迷わず動物病院へ!受診すべき危険な症状とは
ご家庭でのケアで改善しない場合や、以下の症状が見られる場合は、病気が隠れている可能性があります。様子を見ずに、すぐに動物病院を受診してください。
緊急性の高い症状のサイン
- 3日以上排便がない
- 嘔吐を繰り返す
- ぐったりして動かない、震えている
- 食欲が全くない
- お腹がパンパンに張っている
- いきむと激しく痛がったり、叫んだりする
動物病院ではどんな治療をするの?
動物病院では、まず問診や触診、レントゲン検査などで便秘の原因を探ります。治療法は原因や重症度によりますが、一般的には以下のような処置が行われます。
- 緩下剤(かんげざい)の処方:便を軟らかくして排出しやすくする飲み薬です。
- 浣腸:肛門からぬるま湯や薬剤を入れ、腸を刺激して排便を促します。
- 摘便(てきべん):獣医師が肛門から指や器具を入れ、硬くなった便を直接かき出す処置です。麻酔が必要になる場合もあります。
犬の便秘に関するよくある質問(Q&A)
Q1. 子犬や老犬の便秘で特に気をつけることはありますか?
A. 子犬の場合は、異物の誤飲が便秘の原因になっていることがあります。おもちゃの破片などを飲み込んでいないか注意しましょう。老犬(シニア犬)は、筋力や消化機能の低下、関節の痛みなど、便秘になりやすい要因が多くあります。食事を消化の良いシニア用に切り替えたり、散歩の負担を軽くしたりする配慮が必要です。どちらも体力がないため、便秘が続くと衰弱しやすいので早めに獣医師に相談してください。
Q2. 便秘解消に効くサプリメントは与えてもいいですか?
A. 乳酸菌や酵素、食物繊維などのサプリメントは、腸内環境を整える補助として有効な場合があります。ただし、効果には個体差があり、合わないとかえって下痢や便秘が悪化することも。使用する際は、まずかかりつけの獣医師に相談することをおすすめします。
Q3. うんちは出たけど、すごく硬くてコロコロです。これも便秘ですか?
A. はい、それも便秘のサインの一つです。「兎糞(とふん)」と呼ばれる状態で、腸内で水分が過剰に吸収された結果、便が硬く小さくなっています。水分不足や食物繊維のバランスが悪い可能性が考えられるため、食事や飲水量を見直してみましょう。
まとめ:日々の観察と早めの対処で愛犬のお腹を守ろう
犬の便秘は、食事や運動、水分補給といった日々の生活習慣を見直すことで予防・改善できることがほとんどです。まずはご家庭でできるケアを試してみてください。
しかし、便秘は時に深刻な病気のサインでもあります。「たかが便秘」と軽視せず、愛犬の様子がいつもと違う、ぐったりしているなど、心配な症状があれば、迷わず動物病院を受診しましょう。
毎日の排便チェックは、愛犬から送られる大切な健康のメッセージです。しっかりと受け止めて、快食快便の毎日をサポートしてあげてください。