「うちの子、最近あまり水を飲まないけど大丈夫?」
「暑い日のお散歩後、ぐったりしているのは脱水かも?」
愛犬の些細な変化は、飼い主さんにとって大きな心配事ですよね。特に「脱水」は、進行すると命にも関わる非常に危険な状態です。しかし、犬は言葉で不調を訴えることができません。
そこでこの記事では、愛犬を脱水から守るために、飼い主さんが知っておくべき全ての情報を獣医師の視点から網羅的に解説します。
この記事でわかること
- 見逃してはいけない犬の脱水の初期サインと危険な症状
- 自宅で今すぐできる、脱水症状の簡単チェック方法
- 犬が脱水を起こしてしまう主な原因
- もしもの時の家庭での応急処置と、すぐに病院へ行くべき判断基準
- 今日から実践できる効果的な脱水予防策と水分補給の工夫
正しい知識を持つことが、愛犬の命を救う第一歩になります。大切な家族を守るために、一緒に学んでいきましょう。
犬の体にとって「水」がいかに重要か
犬の体の約60~70%は水分でできています。これは単なる“飲み物”ではなく、生命活動を維持するための根幹をなす、最も重要な“栄養素”です。
水が果たす4つの重要な役割
- 体温調節:パンティング(ハッハッと浅く速い呼吸)によって唾液を蒸発させ、体温を下げるために大量の水分を消費します。
- 栄養素の運搬と老廃物の排出:血液の主成分として、体中に酸素や栄養を届け、不要になった老廃物を尿として排出します。
- 消化と吸収のサポート:食べたフードを分解し、栄養を吸収しやすくします。便秘の予防にも不可欠です。
- 臓器や関節の保護:体内の水分は、衝撃から脳や臓器を守り、関節の動きを滑らかにするクッションの役割も果たしています。
このように、水分が不足する「脱水」は、体の基本的な機能を揺るがす一大事なのです。
【簡単セルフチェック】愛犬の脱水サインを見分ける3つの方法
「もしかして脱水かも?」と感じた時に、自宅で簡単に確認できる方法があります。異常を見つけたら、すぐに動物病院に相談しましょう。
1. 皮膚の弾力(ツルゴールテスト)
最も代表的なチェック方法です。愛犬の首の後ろや背中の皮膚を優しくつまみ上げ、パッと離します。
- 正常な場合:すぐに元の状態に戻ります。
- 脱水の疑いがある場合:皮膚がテントのように立ったまま、元に戻るのに2秒以上かかります。これは皮膚の水分が失われ、弾力が低下しているサインです。
2. 歯茎の状態
愛犬の上唇をそっとめくり、歯茎の色と湿り気を確認します。
- 正常な場合:ピンク色で、唾液でしっとりと濡れています。指で軽く押すと白くなり、離すとすぐにピンク色に戻ります。
- 脱水の疑いがある場合:色が白っぽかったり、粘り気があってネバネバしていたりします。指で押した跡が白く残り、ピンク色に戻るのに時間がかかります。
3. 尿の色と量
排泄の様子も重要な健康のバロメーターです。
- 正常な場合:薄い黄色(レモン色)の尿を十分な量します。
- 脱水の疑いがある場合:尿の色が濃い黄色やオレンジ色になり、量が極端に少なくなります。体が水分を外に出さないようにするためです。
危険度別・犬の脱水の症状|こんな様子ならすぐに病院へ
脱水は進行度によって症状が異なります。特に赤字で示した症状が見られる場合は、命に関わる可能性があるため、夜間や休日であってもすぐに動物病院を受診してください。
軽度の脱水症状(5%程度の水分喪失)
- 口の中が少し乾いている、唾液がネバネバする
- 落ち着きがなく、ウロウロする
- なんとなく元気がない
- 尿の色が濃くなる
中度〜重度の脱水症状(10%以上の水分喪失)
- ぐったりして動かない、呼びかけへの反応が鈍い
- 目が落ちくぼんでいるように見える
- 呼吸が速い、または浅い
- ふらつき、立てない
- 嘔吐や下痢を繰り返す
- 体が冷たい
体重の15%以上の水分を失うと、ショック状態に陥り、非常に危険な状態となります。
犬が脱水を起こす主な原因とは?
脱水は、単純に水を飲まないことだけで起こるわけではありません。様々な要因が引き金になります。
- 水分摂取量の不足:飲水量が少ない、新鮮な水が飲める環境にない、口の中に痛みがあるなど。
- 過剰な水分喪失:嘔吐や下痢、糖尿病による多尿、腎臓病など病気が原因で体から水分が失われます。
- 環境要因:夏の暑さによる熱中症、過度な運動によるパンティングの増加、暖房の効いた乾燥した室内なども原因となります。
- 特定の病気:腎臓病、糖尿病、クッシング症候群、消化器系の病気などは脱水を引き起こしやすいため特に注意が必要です。
【獣医師が解説】愛犬の1日に必要な水分量の目安
では、具体的にどのくらいの水分が必要なのでしょうか。健康な成犬の一般的な目安を知っておきましょう。
基本的な計算方法
最も簡単な目安は、「体重1kgあたり50〜60mL/日」です。
- 体重3kgの場合:約150〜180mL
- 体重5kgの場合:約250〜300mL
- 体重10kgの場合:約500〜600mL
より正確な計算式として、安静時のエネルギー要求量(RER)から算出する方法もあります。
RER(kcal/日) = 70 × (体重kg)0.75
この計算で出た数値が、そのまま1日に必要な水分量(mL)の目安となります。
(例:体重5kgの場合、RERは約234kcalなので、必要な水分量も約234mL)
食事内容による調整も忘れずに
この必要水分量には、食事に含まれる水分も含まれます。
- ドライフード:水分含有量は約10%
- ウェットフード(缶詰など):水分含有量は約75%以上
ドライフードを主食にしている子は飲水量をしっかり確保する必要がありますが、ウェットフードを食べている子は食事から多くの水分を摂取できているため、飲水量が少なく見えることがあります。
今日からできる!愛犬を脱水から守る効果的な予防策
脱水は予防が何よりも大切です。日々の生活の中で、愛犬が自然と水分を摂れる環境を整えてあげましょう。
- 新鮮な水をいつでも飲めるように:家の複数箇所に清潔な水飲みボウルを設置し、常に新鮮な水が飲めるようにしましょう。
- ウェットフードの活用:ドライフードにウェットフードをトッピングしたり、主食の一部をウェットフードに切り替えたりするだけで、食事から摂れる水分量が大幅にアップします。
- フードをふやかす・スープを加える:ドライフードをぬるま湯でふやかしたり、肉や野菜の茹で汁(味付けなし)をスープとして加えたりするのも効果的です。
- 氷や凍らせた果物:夏場など、遊び感覚で氷を与えたり、水分量の多い果物(スイカやキュウリなど ※与えすぎに注意)を少量おやつにしたりするのも良いでしょう。
- 運動後や暑い日のケア:散歩後や暑い日には、通常より多くの水分が必要です。こまめな水分補給を促しましょう。
もし愛犬が脱水かも?家庭でできる応急処置と注意点
軽度の脱水で、犬に意識があり、自力で水が飲める状態であれば、応急処置として水分補給を試みます。ただし、あくまで応急処置であり、自己判断は禁物です。少しでも様子がおかしいと感じたら、必ず動物病院に連絡し、指示を仰いでください。
注意点:
意識が朦朧としている、ぐったりしている、嘔吐を繰り返すといった場合は、無理に水を飲ませないでください。誤って気管に入り、肺炎(誤嚥性肺炎)を引き起こす危険があります。このような場合は、すぐに動物病院へ連れて行きましょう。
犬の脱水に関するよくある質問(Q&A)
Q1. 犬用の経口補水液やスポーツドリンクは与えてもいいですか?
A1. 自己判断で与えるのは避けるべきです。人間用のスポーツドリンクは糖分や電解質濃度が犬に適しておらず、かえって下痢などを引き起こす可能性があります。動物病院で処方される犬用の経口補水液が理想ですが、緊急時はまず動物病院に電話で相談し、指示に従ってください。
Q2. 水を全く飲まないのですが、どうすればいいですか?
A2. まずは水が新鮮か、器が汚れていないかを確認しましょう。それでも飲まない場合は、ささみの茹で汁などで風味をつけたり、ウェットフードを与えたりしてみてください。24時間以上水を飲まない、または他の症状(元気消失、食欲不振など)を伴う場合は、病気のサインかもしれないのですぐに動物病院を受診してください。
Q3. 冬でも脱水になりますか?
A3. はい、なります。冬は空気が乾燥しており、暖房器具の使用によって室内は思った以上に乾燥しています。また、寒さで飲水量が減る傾向があるため、冬でも脱水への注意は必要です。加湿器を使用するなど、室内の湿度管理も心がけましょう。
Q4. 子犬や老犬は特に脱水に注意が必要ですか?
A4. はい、その通りです。子犬は体内の水分量の割合が高く、下痢や嘔吐などで急速に脱水が進行しやすいです。また、老犬は腎機能が低下していることが多く、体内の水分バランスを保つ能力が衰えているため、脱水を起こしやすくなります。どちらも特に注意深い観察が必要です。
まとめ:愛犬の脱水サインに気づき、早めの対策を
犬の脱水は、日常に潜む身近な危険です。しかし、そのサインや原因、正しい予防法を知っておくことで、未然に防いだり、早期に対処したりすることが可能です。
日頃から愛犬の飲水量や体調をよく観察し、「いつもと違うな」という小さなサインを見逃さないことが何より重要です。この記事を参考に、愛犬との健やかな毎日を守るため、水分補給の大切さを見直すきっかけにしていただければ幸いです。