【獣医師監修】犬の認知症の初期症状・原因・治療法を徹底解説|飼い主ができる対策とは

愛犬が長寿になるにつれ、見た目だけでなく、行動にも変化が見られるようになります。特に高齢期に入ってから「夜中に吠えるようになった」「部屋をぐるぐる回っている」といった行動は、もしかすると犬の認知症(認知機能不全症候群)のサインかもしれません。単なる老化と見過ごさず、正しい知識を持つことが大切です。

 

この記事では、犬の認知症の基礎知識から、見逃してはいけない初期症状、原因、そして治療法や予防・対策について、獣医師監修のもと詳しく解説します。

この記事を読むとわかること

  • 犬の認知症の具体的な症状(初期・進行期)
  • 犬の認知症の主な原因と発症しやすい犬種
  • 動物病院での診断方法と治療の選択肢
  • 家庭でできる認知症の予防と進行を遅らせる対策
  • 愛犬の異変に気づいたときの受診の目安

 

犬も認知症になる—そのメカニズム

 

犬の認知症は、人間でいうアルツハイマー型認知症と似た症状を示すことが知られています。これは、老化に伴う脳の変化によって引き起こされる病気です。

主な原因として、脳の神経細胞の変性・脱落、そして脳内に「アミロイドβ」と呼ばれる異常なタンパク質が蓄積し、神経細胞を破壊することが挙げられます。この変化により、記憶力、学習能力、判断力といった認知機能が徐々に低下し、様々な行動異常となって現れます。

症状の進行には個体差があり、治療法も確立されていませんが、早期に気づき、適切に対応することで、進行を遅らせ、愛犬の生活の質(QOL)を維持することが可能です。

 

<注意が必要な年齢と犬種>

  • 発症しやすい年齢:10歳ごろから見られ始め、12歳以上で発症率が大幅に上がります。大型犬は8歳ごろ、小型犬は10歳ごろから特に注意が必要です。
  • 好発犬種:柴犬や秋田犬などの日本犬、および日本犬の雑種に多いとされ、症状が強く出る傾向があります。もちろん、すべての犬種で発症の可能性はあります。

 

見逃さないで!犬の認知症の主な症状

 

高齢の愛犬に以下のような行動が複数見られるようになったら、認知症を強く疑い、動物病院を受診しましょう。症状は単独ではなく、複合的に現れることが多いです。

 

初期から見られるサイン

  • 昼夜逆転:昼間は寝てばかりで、夜になると急に活発になり、徘徊や夜鳴きをする
  • 方向感覚の喪失:部屋の中の家具や壁にぶつかる、見慣れた場所で立ち止まる、または狭い場所(角や家具の隙間)に入り込んで出られなくなる
  • トイレの失敗:これまで完璧にできていた場所で失敗する回数が増える。
  • 無関心・反応の低下:飼い主さんの呼びかけや、好きだったおもちゃに反応しなくなる

 

進行期に見られやすい症状

  • 旋回運動(徘徊):目的もなく、同じ方向にぐるぐると円を描くように歩き続ける
  • 異食・異常な食欲:ご飯を食べたことを忘れて何度も催促する。あるいは、異常なものを食べようとする(異食)。
  • 夜鳴き(吠え):抑揚がなく、遠吠えのように昼夜問わず鳴き続ける。不安や見当識障害(自分がどこにいるかわからなくなる状態)からくることが多いです。
  • 性格の変化:活発だった子がぼんやりと無気力になる、または神経質で攻撃的になるなど、性格が変わる。

<重要>これらの症状は、認知症以外にも脳腫瘍や脳炎などの神経疾患が原因である場合もあります。「単なる老化」と決めつけず、必ず獣医師の診察を受けましょう。

 

犬の認知症の診断と治療の選択肢

 

認知症を疑う症状が見られたら、まずは動物病院を受診し、他の病気(甲状腺機能低下症、糖尿病、関節炎など)を除外するための検査を行います。診断には、飼い主さんからの詳しい問診(愛犬の行動の変化)が非常に重要になります。

 

主な治療アプローチ

残念ながら、犬の認知症を完治させる特効薬はありません。しかし、薬物療法、サプリメント、生活環境の改善を組み合わせることで、症状の緩和と進行の遅延を目指します。

1. 薬物療法

  • 脳機能改善薬:脳の血流を改善したり、神経細胞の代謝を促進したりすることで、認知機能の低下を緩やかにする薬が用いられます。初期段階であれば、効果が見られることもあります。
  • 対症療法薬:夜鳴きや激しい徘徊、不安が強い場合には、鎮静剤や抗不安薬を使用することがあります。ただし、副作用もあるため、獣医師とよく相談し、最小限の使用にとどめることが一般的です。

2. サプリメント・食事療法

  • 抗酸化物質:DHA・EPA(オメガ3脂肪酸)、ビタミンE・C、ポリフェノールなど、脳の酸化ストレスを軽減し、神経細胞の損傷を防ぐ効果が期待される成分を積極的に摂取します。
  • 中鎖脂肪酸(MCT):脳のエネルギー源として利用されやすいMCTオイルなどのサプリメントが、認知機能のサポートに用いられることがあります。

3. 環境整備と生活習慣の改善(介護・予防)

次のセクションで詳しく解説しますが、日々の生活で脳に適度な刺激を与えることと、安全で安心できる環境を整えることが最も重要です。

 

認知症の進行を遅らせる!飼い主ができる具体的な対策

 

認知症は予防が難しい病気ですが、日々の小さな積み重ねが、発症を遅らせ、進行を緩やかにする鍵となります。

 

脳を活性化する「知的刺激」の工夫

脳の老化スピードを遅らせるためには、「新しい刺激」を与えることが効果的です。

  • 知育玩具の活用:中にフードを隠して探させるパズルやおもちゃなどで遊び、「考える時間」を作ってあげましょう。
  • 新しいルートの散歩:いつもと違う道を歩いたり、様々な匂いを嗅がせたりすることで、五感を刺激します。ただし、見当識障害がある場合は、愛犬が混乱しないよう、慣れた場所も適度に組み合わせてください。
  • 簡単なトレーニング:「おすわり」「待て」などの簡単な指示を復習するなど、脳を使う機会を継続的にもつことが大切です。

 

安全で安心できる居住環境の整備

徘徊や方向感覚の喪失といった症状に対応するため、愛犬が怪我なく安心して過ごせる環境を整えましょう。

  • 危険箇所の除去:家具の角には保護カバーをつけたり、コード類を隠したりして、ぶつかったり、絡まったりする危険を排除します。
  • 段差の解消:スロープを設置するなどして、転倒による怪我を防ぎます。特に認知症犬はバックができなくなることが多いため、行き止まりをなくす配慮も必要です。
  • 安全な居場所の確保:夜間や留守番の際は、サークル(柵)の中で過ごさせることが最も安全です。排泄スペースと寝床を分け、落ち着ける空間を作りましょう。

 

よくある質問(FAQ)

 

Q1:犬の認知症の検査はどのように行うのですか?

A1:犬の認知症を診断する特別な血液検査などはありません。主に、飼い主さんからの行動の変化に関する詳細な問診と、血液検査、レントゲン、MRIなどの画像診断を用いて、認知症と同じような症状を引き起こす他の病気(脳腫瘍、肝不全、内分泌疾患など)を慎重に除外していくことで診断されます。

 

Q2:夜鳴きが近所迷惑にならないか心配です。どう対処すればいいですか?

A2:夜鳴きは認知症の症状の中でも特に大きな問題です。まずは日中の活動量を増やして夜間の睡眠を促す工夫をしましょう。それでも改善しない場合は、獣医師に相談し、鎮静作用のあるサプリメントや薬の使用を検討してください。また、愛犬が安心できるよう、寝床を暖かい場所に移動したり、やさしく声をかけたりする対応も効果的です。

 

Q3:うちの犬は徘徊で壁にぶつかってばかりいます。どうすればいいですか?

A3:徘徊による怪我を防ぐためには、室内の環境整備が必須です。家具の配置を変えて愛犬が歩きやすい円形の動線を作る、壁や家具の角にクッション材を貼る、夜間や留守番時は安全なサークル内で過ごさせるといった対策を取りましょう。また、転倒防止のために床に滑り止めマットを敷くことも重要です。

 

Q4:認知症の愛犬のトイレの失敗が増えました。叱るべきですか?

A4:絶対に叱ってはいけません。認知症により場所や排泄行為自体を忘れているため、叱っても理解できませんし、不安を増幅させてしまいます。対処法としては、部屋のあちこちにペットシーツを敷く、おむつやマナーベルトを着用する、そして排泄のタイミングを予測してこまめに誘導してあげることが基本となります。

 

Q5:愛犬が高齢で食欲が落ちてきました。認知症と関係ありますか?

A5:認知症が直接の原因で食欲が落ちることは少ないですが、認知症で食欲が増進(何度も催促)するケースはあります。逆に食欲不振の場合は、別の病気(内臓疾患、歯周病など)や嗅覚の衰えが原因である可能性が高いです。食欲不振は体力低下に直結するため、すぐに獣医師に相談してください。

 

【まとめ】

 

認知症の介護は長期戦になります。飼い主さんが心身ともに健康でいることが愛犬の幸せにつながりますので、無理をせず、獣医師や専門家のサポートも活用しながら進めていきましょう。

 

 

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