犬との災害時の行動マニュアル|同行避難の原則、避難所での注意点、そしてトラブル対策

日本は地震や台風などの自然災害が多い国です。大切な愛犬の命を守るためには、日頃からの備えだけでなく、実際に災害が発生したときにどう行動するかを知っておくことが不可欠です。しかし、予期せぬ事態に直面すると、冷静な判断が難しくなります。

この記事では、犬との災害時の行動に焦点を当て、発災直後から避難生活まで、飼い主さんが取るべき具体的な行動、国の推奨する「同行避難」の現状と課題、そして避難所で起こりがちなトラブルとその対策について、網羅的に解説します。

この記事を読むとわかること

  • 災害発生直後に飼い主が最優先で取るべき行動
  • 犬との避難における「同行避難」と「同伴避難」の違いと現状
  • 避難所でのトラブルを防ぐための具体的なルールとマナー
  • 愛犬と避難所に入れない場合の代替避難方法(車中、自宅など)
  • 災害時に役立つ日頃からのしつけと準備

 

災害発生から避難までの初動行動

 

災害に見舞われた際、人間と犬の安全を確保するための初動は非常に重要です。この初動で冷静に行動できるかが、その後の展開を大きく左右します。

 

最優先事項:人間の安全確保と愛犬の保護

  1. 人間の安全確保:何よりもまず、飼い主さん自身の安全を確保しましょう。飼い主さんが怪我をしてしまうと、愛犬を守ることも、助けを求めることもできなくなります。
  2. 愛犬の保護:身の安全を確保できたら、すぐに愛犬を探し、安全を確保します。パニックになった犬は予期せぬ場所に隠れたり、興奮して飼い主を認識できない場合があります。

 

避難時の具体的な行動

  • リードの着用と確認:避難する際は、必ず首輪やハーネスが緩んでいないか確認し、伸縮しないタイプのリードを装着しましょう。パニック状態の犬は普段想像できないほどの力で引っ張り、逃げ出してしまう危険性があります。
  • キャリーバッグ・クレートの活用:小型犬・中型犬はキャリーバッグやクレートに必ず入れましょう。大型犬も避難経路によっては口輪が必要になる場合があります。キャリーは犬にとって「安全な自分の居場所」となり、避難所でのストレス軽減にも繋がります。
  • 持ち出し品の確認:最低5日分(推奨7日分)のフード、水、常備薬、ワクチン証明書、飼い主と愛犬の写真などの非常用持ち出し袋(防災リュック)を忘れずに持ち出します。

<愛犬が見つからない場合>
愛犬が見つからない、または外に逃げてしまった可能性がある場合、心配でもいったん人間の安全を優先して避難しましょう。命の危険がある状況で探すのは非常に危険です。避難後に再捜索するか、地域の動物保護団体や役場に協力を求めます。

 

災害時のペットとの「同行避難」の原則と現状

 

環境省は、災害時に原則としてペットとの「同行避難」を推奨しています。

 

同行避難と「同伴避難」の違い

国が推奨する「同行避難」とは、ペットを連れて避難所まで移動することを指します。しかし、避難所でのペットの受け入れ態勢については、各自治体や避難所ごとの判断に委ねられています。

  • 同行避難:ペットと一緒に避難所まで移動すること。(原則推奨)
  • 同伴避難:避難所の居住スペースでペットと一緒に過ごすこと。(愛犬と同室とは限らない)

多くの避難所では、衛生面やアレルギーへの配慮から、ペットは人間とは別のスペース(屋外のテント、指定された建物の一部など)で管理されるのが現状です。一部の自治体では「ペット飼育者専用の避難所」や、ペットと区切られた空間で過ごせる避難所もありますが、まだまだ少数派です。

 

避難所での受け入れ拒否と備え

残念ながら、避難所の現場で犬の受け入れを拒否されるケースは今も発生しています。この事態を避けるためにも、「避難所に入れないかもしれない」という覚悟と、その場合の代替案の準備が必要です。

<事前の確認事項>

お住まいの自治体のホームページを確認し、以下の点を把握しておきましょう。

  • 指定避難所でのペット受け入れの可否と場所(隔離スペースの有無)
  • ペット専用の避難所や一時預かり施設の有無
  • 災害時のペット関連情報の入手方法(HP、SNSなど)

 

愛犬と避難所に入れない場合の代替避難方法

 

同行避難をしても、避難所での生活が困難な場合や、受け入れ拒否された場合に備え、以下の代替避難方法を検討しておきましょう。

 

1. 車中避難

自家用車やキャンピングカーなどで生活する方法です。プライベート空間が確保され、愛犬も落ち着きやすいメリットがあります。しかし、燃料の確保、エコノミークラス症候群、夏場の熱中症など、健康面でのリスク管理が不可欠です。

 

2. 自宅避難

自宅が安全である場合に、自宅にとどまって生活する方法です。愛犬のストレスは最小限に抑えられますが、ライフラインの途絶、余震、防犯対策が必要になります。危険な場合は、人間だけ避難し、定期的に自宅へお世話に通うという方法も考えられます。

 

3. 信頼できる預け先の確保

近隣の親戚や知人、普段から利用している信頼できるペットホテルや動物病院に、事前に災害時の緊急預かりについて相談しておきましょう。

注意:災害発生時は、高額請求や、ずさんな管理による愛犬の怪我・逃走などのトラブルが発生しやすいため、預け先は実績と信頼のある団体・施設を厳選することが非常に重要です。

 

避難所で起こりがちなトラブルと具体的な対策

 

避難所は集団生活の場であり、犬嫌いな人や動物アレルギーを持つ人もいます。愛犬の存在が他の避難者の迷惑にならないよう、以下の点に細心の注意を払い、マナーを守りましょう。

 

避難所での4大トラブルへの対策

トラブル具体的な対策・日頃のしつけ
鳴き声クレートやキャリーバッグに慣れさせ、「ハウス」で静かに待つトレーニングをしておく。むやみに吠えないように、日頃から「待て」「おすわり」などの基本の指示に従えるようにしておく。
におい避難前にウェットティッシュなどでこまめに体を拭く。犬の寝床やトイレ周りの清掃を徹底し、排泄物が出たらすぐににおいのもれない袋に入れて密閉する。
毛の飛散こまめなブラッシングと清掃を心がけ、抜け毛が飛び散らないよう細心の注意を払う。タオルやシーツで覆うなどして、毛の飛散を最小限に抑える。
排泄物の放置排泄物の処理は飼い主の責任。避難所指定の場所に捨てるか、持ち帰りが原則。排泄の失敗を減らすためにも、普段から決められた場所でのトイレトレーニングを徹底しておく。

 

<衛生管理の徹底>
愛犬のお世話をした後は、必ず手洗い・消毒を行い、他の避難者への配慮を怠らないようにしましょう。ノミ・ダニの駆除やワクチン接種も、事前に済ませておくべき重要な備えです。

 

よくある質問(FAQ)

 

Q1:災害時、愛犬の迷子を防ぐために何をすべきですか?

A1:迷子を防ぐには、マイクロチップの装着が最も有効です。また、首輪には連絡先を記入した迷子札を必ずつけておきましょう。興奮して逃げ出さないよう、日頃から「待て」の指示や、人混みでの落ち着いた行動のトレーニングをしておくことも重要です。

 

Q2:避難中に犬の病気や怪我が発生したら、どうすればいいですか?

A2:かかりつけの獣医師の連絡先と、常備薬、ワクチン接種証明書を必ず防災リュックに入れましょう。避難所には獣医師が常駐していない場合がほとんどです。自治体によっては災害時動物救護センターが開設されることがありますので、情報収集に努めてください。

 

Q3:普段からクレート(キャリーバッグ)に慣れさせるには?

A3:クレートを「閉じ込められる場所」ではなく「安心できる自分の部屋」と認識させることが大切です。普段からクレート内でご飯を食べさせる、おやつを与える、中で休ませる時間を設けるなど、ポジティブな経験を積み重ねるトレーニングをしましょう。災害に備え、最低でも2〜3時間は静かに過ごせるようにしておくと安心です。

 

Q4:災害時、複数の犬や猫を飼っている場合の避難は?

A4:頭数が多い場合は、避難所での受け入れがさらに難しくなる可能性があります。犬と猫はそれぞれ別のクレートに入れ、動物同士の接触を避けることが重要です。また、避難所に入れない場合の分散避難(一部の犬を親戚に預けるなど)の計画も立てておく必要があります。

 

Q5:愛犬の防災リュックには何を入れるべきですか?

A5:最低限、5日分のフードと水、常備薬、リード・首輪・ハーネス、排泄物処理用品、タオルや毛布、愛犬の最新の写真(迷子対策)、そしてワクチン証明書(コピー)は必ず入れておきましょう。さらに、お気に入りのおもちゃや、飼い主さんの匂いがついたタオルがあると、愛犬のストレス軽減に役立ちます。

 

【まとめ】災害はいつ起こるかわからない—今すぐできる備え

 

犬との災害時の行動は、人間の安全確保を最優先としつつ、愛犬の命と心を守るための準備が不可欠です。国は同行避難を原則としていますが、避難所の状況は地域や災害の規模によって大きく異なります。

「まさか」の事態に備え、非常用持ち出し品の準備はもちろんのこと、愛犬がクレートで落ち着いて過ごせるしつけ、そして自治体の災害時対応の確認を今のうちにしておきましょう。事前準備と冷静な判断が、愛犬とあなたの命を救います。

 

 

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