【獣医師監修】犬の多頭飼いガイド|後悔しないための獣医師推奨「4つの壁」と失敗しない迎え方

犬が2匹、3匹と楽しそうに遊ぶ姿は、犬好きにとって最高の憧れです。しかし、その夢のような光景の裏側には、「費用が倍以上かかる」「先住犬との関係が悪化した」といった現実も潜んでいます。
最悪の場合、世話が追いつかず「多頭飼育崩壊」に至るケースも報告されており、安易な多頭飼いは、犬たちの幸福を奪いかねません。

この記事は、獣医師や行動学の専門的な知見に基づき、多頭飼いの「本当のメリット」と、多くの飼い主が直面する「4つの壁」、そしてそれを乗り越えて犬たちと幸せに暮らすための具体的な方法を徹底解説します。

 

【この記事でわかること】

  • 多頭飼いが犬にもたらす真のメリットとデメリット
  • 失敗しないために知っておくべき「相性の壁」「費用の壁」など4つの現実的な課題
  • 先住犬のストレスを最小限にする新入り犬の迎え方(分離・対面の手順)
  • 喧嘩や嫉妬といった問題行動が起きた際の対処法と予防策
  • 多頭飼いを始める前に確認すべき7つのチェックリスト

 

目次

1. 犬にとっての本当のメリットと多頭飼いの条件

 

「犬は群れで暮らす動物だから、多頭飼いのほうが幸せ」という考え方は、条件を整えてこそ初めてメリットが活かされます。すべての犬に当てはまるわけではありません。

犬にとってのメリット(社会性の向上とストレス軽減)

  • 社会性の向上とストレス耐性の強化
    犬同士でしか学べない「距離の取り方」や「遊び方」を日常的に経験できます。これにより、社会性が育まれ、他の犬に対する恐怖や不適切な攻撃性が減る傾向があります。
    実際、単独飼育の犬は多頭飼育の犬に比べ、他犬に恐怖を示す割合が約1.4倍高いという研究報告もあります。
  • 分離不安や退屈の軽減(条件付き)
    信頼できる仲間(犬)がいることで、飼い主の外出中も安心感を得やすくなり、破壊行動や無駄吠えなどのストレス行動が減る場合があります。
    ただし、これは犬同士の相性が非常に良い場合に限られます。相性が悪いと、互いにプレッシャーとなり、逆にストレスを増やしてしまうため注意が必要です。

 

飼い主にとってのメリット

  • 精神的な癒し
    犬同士が寄り添って眠る姿や、楽しそうに遊び合う姿は、飼い主にとって何物にも代えがたい癒しと喜びになります。
  • 学びと成長
    1頭目とは異なる性格や犬種を迎えることで、犬という動物の多様性や奥深さを改めて感じ、飼い主としての経験値と対応力を高めることができます。

 

2. 「後悔しない多頭飼い」への4つの壁と乗り越え方

 

夢のような多頭飼いも、現実には多くの課題(リソースの分配、健康管理、費用)が伴います。ここでは、多くの飼い主が直面し、後悔の原因となる「4つの壁」と、その具体的な乗り越え方を紹介します。

 

壁1:相性とストレスの壁(“先住犬ファースト”の徹底)

最も多い失敗が「相性の問題」です。「そのうち慣れるだろう」という安易な考えは非常に危険です。犬は食べ物・おもちゃ・そして飼い主の愛情という“資源(リソース)”をめぐって真剣に争うことがあります。

よくある失敗の原因

  • 初対面からいきなり接触させてしまう
  • ごはんや寝床、おもちゃといった資源を共有させる
  • 飼い主の注意や愛情の配分が新入り犬に偏る(先住犬が嫉妬する)
  • 先住犬の性格や習性を考慮せずに新入り犬を迎える

乗り越え方:絶対的な「先住犬ファースト」

  • 先住犬を最優先にする
    ごはん・おやつ・声かけ・散歩など、すべてにおいて先住犬を先にします。「自分の地位は変わらない」「飼い主の愛情は変わらない」と感じることで、先住犬は安心して新入り犬を受け入れやすくなります。
  • 食事と寝床は完全に分ける
    資源の奪い合いを防ぐため、ごはんは別室または仕切りを使って与え、食後はすぐに片付けます。寝床も「お互いが干渉しない安全地帯」として、それぞれのクレートやケージを確保します。
  • 1対1の時間をつくる
    飼い主の関心(スキンシップ、遊び)も大きな“資源”です。嫉妬やストレスを防ぐため、先住犬とだけ、新入り犬とだけ、それぞれの特別な時間を意識的に設けましょう。

 

壁2:健康と衛生の壁(感染症・重なる介護)

1頭が健康でも、もう1頭が病気になることは避けられません。また、犬同士の接触でうつる感染症(ケンネルコフ・皮膚病・ノミ/ダニなどの寄生虫)のリスクも高まります。
さらに、年齢が近い場合は、シニア期に入った際の介護の時期が重なるリスクも想定しておく必要があります。

乗り越え方:検疫期間と予防の徹底

  • 検疫期間(隔離期間)を設ける
    新しく迎えた子をすぐに先住犬と触れ合わせるのは厳禁です。まずは健康診断やワクチン接種、寄生虫対策を済ませ、最低1〜2週間ほど生活スペースを分けて様子を見る期間(検疫期間)を設けてください。
    これは体調管理だけでなく、お互いの匂いや気配に慣れさせ、心理的な慣らし期間としても非常に重要です。
  • 予防接種・予防薬の徹底
    フィラリア予防、ノミ・ダニ予防、混合ワクチン接種は、多頭飼いにおいては単独飼い以上に重要です。
    1頭が感染すると、またたく間に他の犬にもうつる可能性があるため、予防計画を徹底し、獣医師と密に連携を取りましょう。
  • 介護のシミュレーション
    「もし同時に介護が必要になったら?」「高額な治療費が重なったら?」──。
    こうした現実を具体的に想定し、経済的・時間的な備えを整えておくことが、後悔しないための絶対条件です。

 

壁3:費用の壁(想像以上の出費)

「ごはんはまとめ買いで割安になる」というメリットは一部ありますが、実際には費用は単純に倍、あるいはそれ以上になることがほとんどです。

多頭飼いの費用目安(年間)

項目1頭飼い(目安)2頭飼い(目安)備考
フード・おやつ代約65,000円約110,000円まとめ買いで単価を抑えられる可能性あり
日用品費(シーツ、消耗品)約30,000円約50,000円消耗ペースが単純に倍ではないためやや割安に
医療費(予防・健康診断)約50,000円約100,000円単純に2倍。治療費は不確定
トリミング・美容費約45,000円約90,000円単純に2倍
光熱費・空調費約25,000円約30,000円増加は限定的だが、留守番時の空調管理は必須
おもちゃ・服など約30,000円約40,000円共有可だが出費は増える
年間合計(最低)約245,000円約420,000円約1.7倍〜(ホテル代など除く)

特に、医療費やトリミング代は頭数分かかります。また、しつけの専門家(トレーナーや行動診療科)への相談費用が追加で発生する可能性もあります。
1頭が大きな手術を受ける際、「もう1頭の世話や費用があるから…」と治療を断念するケースも報告されています。経済的な覚悟と、万が一のための貯蓄は、多頭飼いを始める前の必須条件です。

 

壁4:多頭飼育崩壊の壁(飼い主の限界)

「多頭飼育崩壊」というと数十頭の犬を抱える異常な例を想像しがちですが、実際は2〜3頭の家庭でも起きています。環境省の調査でも、苦情が寄せられた世帯のうち、飼育頭数2〜10頭未満が過半数でした。

乗り越え方:計画的な出産管理とリスクヘッジ

  • 不妊・去勢手術の徹底
    「うっかり増えてしまった」ことが崩壊の始まりです。オス・メス同居はもちろん、同性同士でもマウンティングや喧嘩予防のため、手術は原則として必要不可欠なケアです。
  • 自分の限界を知る
    飼い主の病気や転職、家族の出産や転居などが引き金で、世話が困難になるケースは少なくありません。自分のキャパシティ(時間・体力・経済力)を超えて犬を迎えることは、犬たちを不幸にします。
  • 緊急時のバックアップ体制
    万が一、飼い主が入院するなど世話ができなくなった場合に、責任をもって世話を託せる家族・知人・後見人、または専門のペットホテルやシッターをあらかじめ決めておきましょう。

 

3. 失敗しない!新入り犬の迎え方と段階的な対面手順

 

多頭飼いの成否は、新しい犬を迎えた直後の手順でほぼ決まります。先住犬のストレスを最小限にし、両者の関係を円滑にするための段階的なステップを踏みましょう。

ステップ1:事前の準備と検疫(隔離)期間

  • 別々の生活空間を確保
    新入り犬が落ち着けるケージまたはクレートを用意し、先住犬とは物理的に隔離できる部屋やスペースを確保します。これは検疫安全地帯の確保のためです。
  • アイテムの匂い交換
    お互いのタオルやおもちゃを交換し、匂いに慣れさせます。この段階では姿を見せる必要はありません。
  • 先住犬の愛情を再確認
    新入り犬が来る直前まで、先住犬にいつも以上のスキンシップや遊びを提供し、たっぷり愛情を注ぎ、「自分の地位は安全だ」と感じさせます。

 

ステップ2:フェンス越し・クレート越しの対面

  • 物理的なバリア越しの対面
    検疫期間が終了し、両者の体調・精神状態が安定したら、室内でフェンスやケージ越しに対面させます。お互いの姿を見ることで、相手の存在を安全な場所から認識させます。
  • 短時間で終了する
    最初は5分程度とし、吠えや威嚇のサイン(唸り、硬直など)が見られたらすぐに終了します。
  • 食べ物・おもちゃは使わない
    最初の対面時や慣れないうちは、資源(食べ物、おもちゃ)をめぐる争いを誘発する可能性があるため、これらは与えないようにします。

 

ステップ3:リードをつけた状態での対面

  • 中立的な場所での対面
    可能であれば、お互いに縄張り意識が薄い屋外の中立的な場所(公園や庭など)で、リードをつけた状態で対面させます。
  • 飼い主は冷静に
    飼い主が興奮したり緊張したりすると、それが犬に伝わり不安を増幅させます。あくまで普段通りの態度で接し、威嚇や興奮が見られたらすぐにリードを引いて距離を取りましょう。
  • 散歩を一緒に行う
    並んで散歩をすることで、共通の目標に向かって行動する「群れ」としての意識が芽生えやすくなります。先住犬を内側、新入り犬を外側にして歩くなど、先住犬を優先する姿勢を保ちましょう。

 

4. 犬の多頭飼いに関するよくある質問(Q&A)

 

多頭飼いにおいて、飼い主さんが特に不安に感じやすい疑問について、獣医師監修のもと解説します。

Q1:2匹目を迎えるベストなタイミングと年齢差は?

A:ベストなタイミングは、先住犬のしつけ(おすわり・待て・呼び戻し)が確立し、飼い主との信頼関係が安定してからが理想です。
精神的に安定した先住犬は、新しい犬を受け入れる余裕があります。年齢差は、2〜5歳差が推奨されます。先住犬が若すぎるとしつけが崩れやすく、老犬すぎると環境の変化自体が大きなストレスになるためです。

 

Q2:先住犬がストレスサイン(嫉妬や不安)を見せたらどうすればいい?

A:以下のような行動が見られたら要注意です。まずは空間を分けて距離を取り、安心感を回復させましょう。

  • 自分の体をしつこく舐め続ける(常同行動)
  • あくびや顔をそらす行動、地面の匂いを嗅ぐ(カーミングシグナル)が増える
  • 食欲不振・下痢・粗相をする
  • 飼い主を避ける、または過剰に甘える(要求行動)
  • 新入り犬から目をそらす、または睨む(威嚇の初期サイン)

これらのサインが出たら、「先住犬ファースト」を徹底し、特に先住犬が新入り犬の存在を気にせずリラックスできる「安全地帯」を確保してあげることが重要です。

 

Q3:犬同士の喧嘩が始まったら素手で止めてもいいですか?

A:素手で止めようとするのは絶対に避けてください。興奮している犬は、反射的に飼い主にも噛みつき、大怪我を負うおそれがあります。

対処法としては、大きな音(手を叩く、缶を鳴らす)で驚かせる、水をスプレーする、クッションや段ボールを間に入れるなどで一時的に注意を逸らします。喧嘩が頻発する場合は、相性か環境設定に問題がありますので、早めにドッグトレーナーや行動診療科の獣医師に相談してください。

 

Q4:オスとメス、同性(オス同士、メス同士)で相性に違いはありますか?

A:一般的にはオスとメスの組み合わせが最も相性が良いとされます。これは繁殖という本能的な役割が異なるため、競争心(リソース・メイトの奪い合い)が働きにくいからです。

オス同士はマウンティング(優位性の主張)をめぐって、メス同士は縄張りや資源をめぐって、激しい喧嘩に発展しやすい傾向があります。同性同士で多頭飼いをする場合は、より慎重な導入と、不妊・去勢手術の徹底が不可欠です。

 

Q5:新入り犬の犬種を選ぶ際、何を考慮すべきですか?

A:最も重要なのは、先住犬の犬種や性格との「活動量」「体格」「遊び方」の相性です。例えば、小型犬と遊び方が激しい大型犬、あるいは静かなシニア犬と活発な子犬といった組み合わせは、先住犬に大きな負担をかけます。同じくらいの運動量や性格、あるいは遊び方が似ている犬種を選ぶと、関係が良好になりやすいです。

 

5. まとめ:あなたの家は「多頭飼い」の準備ができていますか?

 

多頭飼いは、犬にとっても飼い主にとっても大きな喜びを与えてくれます。しかしそれは、すべての犬を平等に、個別に、質の高いケアができる「覚悟」があってこそ成立するものです。
新しい犬を迎える前に、獣医師や専門家が推奨する以下のチェックリストを、家族全員で確認しましょう。一つでもチェックが付けられない項目があれば、まだ準備が整っていないサインかもしれません。

 

多頭飼いを始める前の7つの最終チェックリスト

カテゴリチェック項目
先住犬しつけ(待て・呼び戻し)が完了しているか
先住犬健康で、精神的にも安定しているか
家族家族全員が賛成しているか
環境距離を取れる空間(別室・クレート)があるか
時間検疫期間・段階的な対面に時間を取れるか
費用医療費・トリミング代など倍の出費を想定できるか
覚悟相性が悪い場合でも分離飼育を続ける覚悟があるか

 

多頭飼いは、1+1が2ではなく、3にも4にもなる幸せをくれる一方で、責任も同じだけ増えます。
まずは今そばにいる愛犬との関係を深め、その子の幸福を最優先に考えることが、未来の“理想の多頭飼い”への最初の一歩です。

 

 

 

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