「最近、愛犬の抜け毛がすごく多い気がする…」「これって普通なの?それとも病気のサイン?」
愛犬との暮らしの中で、抜け毛はつきものですが、その量や抜け方によっては注意が必要な場合があります。生理的な現象である「換毛期」なら心配いりませんが、中には病気やストレスが原因で脱毛しているケースも隠れています。
この記事では、犬の抜け毛の様々な原因について、獣医師が「心配ない抜け毛」と「危険な抜け毛」の見分け方、そして考えられる病気や対処法まで詳しく解説します。
この記事でわかること
- 換毛期など、心配のいらない生理的な抜け毛の原因
- 皮膚病やホルモン異常など、病気が原因で起こる危険な抜け毛
- ストレスや栄養不足など、病気以外の抜け毛の原因
- 「換毛期」と「病気」を簡単に見分けるためのチェックポイント
- 飼い主さんができる対処法と、動物病院を受診すべき症状の目安
その抜け毛、大丈夫?まずは生理的な原因を知ろう
犬の抜け毛のすべてが、問題であるわけではありません。まずは、心配のいらない生理的な原因について理解しておきましょう。
① 換毛期による自然な生え変わり
犬の抜け毛の最も一般的な原因は「換毛期」です。これは、季節の変化に対応するために被毛が新しく生え変わる、いわば“衣替え”のことで、主に春と秋の年2回訪れます。
- 春:冬用の保温性の高いアンダーコート(下毛)がごっそり抜け、通気性の良い夏毛になる。
- 秋:夏毛が抜け、寒さに備えるための冬毛が生えてくる。
この時期に抜け毛が大幅に増えるのはごく自然な現象です。特に、柴犬やゴールデン・レトリーバー、ポメラニアンなどの「ダブルコート」と呼ばれる犬種は、アンダーコートが密集しているため、換毛期の抜け毛が非常に多くなります。
② ライフステージの変化
子犬から成犬になる過程で、フワフワした子犬の毛(パピーコート)から、硬くてしっかりした大人の毛に生え変わる時期にも、一時的に抜け毛が増えることがあります。また、メス犬の場合は出産後や発情期(ヒート)後にホルモンバランスの変化で抜け毛が増えることもあります。
【要注意】病気が原因で起こる犬の抜け毛
生理的な範囲を超えて毛が抜けたり、皮膚に異常が見られたりする場合は、病気のサインかもしれません。かゆみの有無で、考えられる原因がある程度推測できます。
【かゆみを伴う場合】皮膚の感染症やアレルギー
体を頻繁に掻いたり、舐めたり、噛んだりしている場合、皮膚に炎症が起きている可能性があります。
- アレルギー性皮膚炎:アトピーやノミ、食べ物などが原因でアレルギー反応が起こり、強いかゆみと共に脱毛や皮膚の赤み、湿疹などが見られます。
- 細菌性皮膚炎(膿皮症):皮膚の常在菌であるブドウ球菌などが異常増殖し、赤いブツブツ(丘疹)や膿のたまった水疱(膿疱)、フケ、脱毛などが起こります。
- 真菌性皮膚炎:皮膚糸状菌(カビの一種)やマラセチア(酵母様真菌)の感染によって起こります。円形の脱毛や大量のフケ、ベタつき、独特の臭いなどが特徴です。皮膚糸状菌症は人にもうつる可能性があるため特に注意が必要です。
- 寄生虫:ノミやヒゼンダニ(疥癬)、ニキビダニ(アカラス)などが皮膚に寄生することで、激しいかゆみと脱毛を引き起こします。
【かゆみを伴わない場合】ホルモンや内臓の病気
かゆみがないのに毛が抜ける場合、ホルモンバランスの乱れや内分泌系の病気が疑われます。
- クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症):副腎からホルモンが過剰に分泌される病気です。体を守るように左右対称に毛が抜け、お腹が張る、水をたくさん飲む(多飲多尿)などの症状が見られます。
- 甲状腺機能低下症:甲状腺ホルモンの分泌が低下する病気です。元気消失、体重増加、寒がるなどの症状と共に、尻尾がネズミの尾のように脱毛したり(ラットテイル)、体幹部が左右対称に脱毛したりします。
【特定の部位が抜ける場合】遺伝性・その他の疾患
- パターン脱毛症:耳や首、お腹、太ももの後ろ側など、特定の部位の毛が薄くなります。原因は明確にはなっていませんが、ダックスフンドやチワワなどで見られることがあります。
- 淡色被毛脱毛・黒色被毛形成異常症:特定の毛色(ブルーやフォーン、ブラック)に起こりやすい遺伝性の脱毛です。
病気以外にもある!犬の抜け毛を引き起こす4つの原因
病気ではなくても、日々の生活の中に抜け毛の原因が潜んでいることもあります。
① 精神的なストレス
引っ越しや長時間の留守番、家族構成の変化など、強いストレスを感じると、自分の足先や尻尾などを執拗に舐め続けてしまうことがあります(舐性皮膚炎)。これにより、その部分の毛が抜けて皮膚がただれてしまうことがあります。
② 栄養バランスの偏り
被毛の主成分は「ケラチン」というタンパク質です。食事に含まれるタンパク質の質や量が不足していたり、皮膚や被毛の健康に必要なビタミン、ミネラル、必須脂肪酸などが欠乏したりすると、毛ヅヤが悪くなり、毛が抜けやすくなることがあります。
③ 加齢(シニア犬)による変化
シニア犬になると、新陳代謝や血行が悪くなるため、毛が細くなったり、毛周期(毛が生え変わるサイクル)が乱れたりして、全体的に毛が薄くなることがあります。また、ホルモンバランスの変化も影響します。
④ 不適切なシャンプーやケア
洗浄力の強すぎるシャンプーを使ったり、すすぎが不十分でシャンプー剤が皮膚に残ったりすると、皮膚が乾燥してダメージを受け、抜け毛の原因になることがあります。また、ブラッシングの際に毛を無理に引っ張ることも切れ毛や脱毛につながります。
換毛期と病的な抜け毛の【見分け方チェックリスト】
愛犬の抜け毛が心配な時は、以下のポイントをチェックしてみてください。
| チェック項目 | 正常な換毛期 | 病気の可能性あり |
|---|---|---|
| 抜け方 | 体全体から均一に抜ける | 一部分だけハゲている、左右対称に抜ける |
| かゆみ | 基本的にはない | 体を頻繁に掻く、舐める、噛む |
| 皮膚の状態 | 健康なピンク色 | 赤み、湿疹、フケ、ベタつき、黒ずみがある |
| 毛質 | 毛ヅヤは悪くならない | パサパサしている、切れやすい |
| その他の症状 | 元気で食欲もいつも通り | 元気がない、食欲不振、水をよく飲むなど |
※一つでも「病気の可能性あり」に当てはまる場合は、動物病院の受診をお勧めします。
愛犬の抜け毛で困ったら…飼い主ができること
家庭でできる基本的な抜け毛ケア
生理的な抜け毛や、病気の予防のためには、日々のケアが重要です。
- こまめなブラッシング:抜け毛を取り除き、皮膚の血行を促進します。
- 定期的なシャンプー:皮膚を清潔に保ち、余分な抜け毛を洗い流します。
- バランスの取れた食事:皮膚と被毛の健康をサポートする栄養をしっかり摂りましょう。
- ストレスのない環境作り:安心して過ごせる環境を整え、適度な運動や遊びを取り入れましょう。
こんな症状ならすぐ病院へ!受診のタイミング
上記のチェックリストに当てはまる場合や、原因が分からず心配な場合は、早めに動物病院を受診しましょう。特に、急に大量の毛が抜け始めた、地肌が見えるほどの脱毛がある、かゆみが強い、元気や食欲がないといった場合は、早急な対応が必要です。
犬の抜け毛の原因に関するよくある質問(Q&A)
Q. 老犬になると抜け毛が増えるのはなぜですか?
A. 加齢により、新陳代謝の低下、ホルモンバランスの変化、皮膚の乾燥などが起こりやすくなるため、毛周期が乱れて抜け毛が増えたり、新しい毛が生えにくくなったりします。全体的に毛が薄くなるのはある程度生理的な変化ですが、急な脱毛や皮膚の異常がある場合は、甲状腺機能低下症などの病気が隠れている可能性もあるため、一度診察を受けると安心です。
Q. 抜け毛対策におすすめの食べ物やサプリはありますか?
A. まずは、良質なたんぱく質を含む総合栄養食を基本とすることが大切です。その上で、皮膚のバリア機能や被毛の健康をサポートする「オメガ3・オメガ6脂肪酸」を豊富に含むオイル(サーモンオイルや亜麻仁油など)や、亜鉛、ビタミン類を含むサプリメントの活用も有効な場合があります。ただし、与える前には必ずかかりつけの獣医師に相談してください。
Q. 病院ではどんな検査や治療をしますか?
A. 原因を特定するために、まず視診や触診、飼い主さんからの詳しい聞き取りを行います。皮膚病が疑われる場合は、セロハンテープで皮膚表面の細胞や微生物を採取する検査、毛を抜いて毛根の状態を調べる検査、皮膚の一部を削り取る検査、ウッド灯(カビを検出する特殊な光)検査などを行います。ホルモン疾患が疑われる場合は、血液検査を行います。治療は原因によって異なり、内服薬や外用薬(塗り薬、薬用シャンプー)、食事療法、寄生虫の駆除など多岐にわたります。
まとめ
犬の抜け毛には、心配のない生理的なものから、治療が必要な病気のサインまで、様々な原因があります。大切なのは、日頃から愛犬の被毛や皮膚の状態をよく観察し、「いつもと違う」という変化に気づいてあげることです。
この記事を参考に、抜け毛の原因を正しく見極め、適切なケアにつなげてください。少しでも不安な点があれば、迷わず獣医師に相談しましょう。