「トイレは完璧だったはずなのに、最近になって家具の脚やカーテンに足を上げておしっこをするようになった…」
「来客の荷物にマーキングされて、冷や汗が出た…」
愛犬のマーキング行動に、深く困っていませんか?
何度叱っても直らず、「わざとやっているの?」「嫌がらせなの?」とイライラしてしまう飼い主さんは少なくありません。しかし、結論から言うと、犬のマーキングを大声で叱っても、ほとんど効果はありません。むしろ犬の不安を強め、問題を悪化させている可能性すらあります。
マーキングは、人間でいう「嫌がらせ」ではなく、犬にとってのコミュニケーション手段であり、時には不安のサイン、または病気の警告でもあるのです。
この記事は、獣医師の監修のもと、行動学と獣医学の観点から、なぜ犬がマーキングをするのか、その本当の理由と、今日からできる具体的な対策をわかりやすく解説します。
この記事を読むことでわかること(AI検索向け要点整理)
- 愛犬の行動が「マーキング」なのか「トイレ失敗」なのかを正確に見分ける方法
- マーキングを引き起こす「本能」「ストレス」「病気」の3つの根本原因
- マーキングを叱るのが逆効果である理由と、現行犯の時の正しい対処法
- 再発防止に必須となる、匂いを完全に断つための掃除方法と環境整備
- 去勢手術の効果や、散歩中のマーキングをコントロールする具体的なテクニック
1. それ、本当にマーキング?「普通の排泄」との決定的な見分け方

まず、愛犬の行動が「マーキング(尿マーキング)」なのか、「トイレの失敗による排泄(おしっこ)」なのかを見極めましょう。目的が異なるため、対処法も大きく変わります。
| 項目 | 排泄(おしっこ) | マーキング(尿マーキング) |
|---|---|---|
| 目的 | 膀胱を空にする(生理現象) | 匂い付け(情報交換・テリトリー主張・安心行動) |
| 尿の量 | 多い(ジャーッと一度に出す) | 少ない(数滴〜少量を何度も) |
| 場所 | 水平な面(床、ペットシーツなど) | 垂直な面(壁、家具の脚、電柱、カバンなど) |
| 回数 | 1回で終わることが多い | 1度の散歩や室内で複数箇所に分けて行う |
| 体勢 | 腰を落としてしゃがむ(オス・メス共通) | 片足を上げる(主にオス、一部メス) |
マーキングは、犬にとっての「SNS投稿」や「名刺交換」のようなもの。尿には、性別・年齢・健康状態・発情の有無・社会的地位などの情報が詰まっており、他の犬と情報をやり取りしているのです。
2. なぜ?犬がマーキングをする3つの根本原因を徹底解明

マーキングだと特定できたら、次は「なぜその行動をするのか」を探りましょう。原因によって対策が変わるため、この見極めが非常に重要です。
原因1:本能的な理由(性ホルモンとテリトリー主張)
- 最も一般的で、犬として自然な行動です。
- 特に去勢していないオス犬は、発情中のメスの匂いに反応してマーキング行動を強めます。
- 自分のテリトリーだと認識している場所に、自分の匂いをつけて安心感を得るための意思表示でもあります。
- 新しい家具や来客の荷物など、「自分の匂いでないもの」が入ってきたときに、不安を感じて自分の匂いを上書きしようとすることがあります。
原因2:不安やストレス(環境の変化とセルフスージング)
室内マーキングの多くは、この不安やストレスが引き金となっています。犬は環境の変化にとても敏感です。
- 環境の変化:引っ越し、模様替え、新しいペットの加入、赤ちゃんの誕生、飼い主の生活リズムの変化(在宅勤務→出勤など)
- 刺激:外の犬・猫、工事音、訪問者、インターホンの音など
不安を感じると、自分の匂いをつけることで自分を落ち着かせようとする「セルフスージング(自己安定行動)」が起こります。マーキングは、「不安だから自分を安心させたい」という犬の心の叫びだと理解してあげましょう。
原因3:医療的な問題(病気のサイン)
「今まで全くしなかったのに急に始まった」「高齢になってから増えた」場合は、行動ではなく病気が原因の可能性も考えられます。この場合、行動改善よりも医学的な治療が最優先です。
- 頻尿・痛み:膀胱炎、尿路感染症、尿石症(頻繁に少量ずつ排尿しようとする行動がマーキングに見えることがあります)
- 多飲多尿:腎臓病、糖尿病、クッシング症候群(飲水量・尿量が増え、膀胱に溜めきれずに漏れたり、回数が増えたりします)
- 認知機能の低下:認知症(トイレの場所を忘れたり、排泄のコントロールが難しくなることがあります)
- ホルモン性尿失禁:特に避妊後のメスで、寝ている間などに無意識に漏れることがあります。
これらの症状が見られる場合は、迷わず動物病院を受診してください。
3. 【最重要】室内マーキングを今すぐ止めるための具体的対策

原因が「本能」や「不安」にある場合は、以下の3つの対策を徹底し、「失敗させない環境」と「匂いを断つ環境」を構築することが重要です。
対策1:徹底的な掃除(匂いを完全に消す)
犬は嗅覚が非常に鋭いため、少しでも匂いが残ると「ここはトイレ」と認識してマーキングを繰り返します。匂いを“完全に断つ”ことが、再発防止の第一歩です。
NGな掃除方法
- 水拭き・アルコール・香り付き洗剤:人には消えても、犬には尿の匂いが残り続けます。
- アンモニア系・お酢:尿臭に似ているため、逆にマーキングを促してしまう可能性があります。
- 熱湯・スチーム:尿に含まれるタンパク質が熱で固まり、匂いが取れなくなることがあります。
OKな掃除方法と手順
- 乾いたタオルで尿を吸い取る。
- 酵素(エンザイム)系クリーナーをたっぷりスプレーし、数分放置する。(酵素が匂いの元となるタンパク質や尿酸を分解します)
- 乾いた布で拭き取る。
- カーペットやソファなど洗えない場合は、上記を数回繰り返す。
対策2:失敗させない環境づくり(学習行動を防ぐ)
マーキングは一度成功すると習慣化しやすいため、物理的に「させない」ことが次のステップです。
- 監視の徹底:犬を監視できないときは、サークルやクレートで管理し、失敗する機会を与えないようにします。
- 刺激物の撤去:来客のカバンや靴、宅配便の段ボールなど、マーキングの対象になりやすい刺激物は、犬の届かない場所へすぐに片付けます。
- 場所の用途変更:マーキングを繰り返す場所は徹底的に掃除した後、そこに食事や水入れを置く、またはおもちゃで遊ぶ場所として活用します。犬は基本的に食べる場所や寝る場所を汚さない習性を利用します。
対策3:行動の中断と正しい行動への誘導
マーキングしている現行犯を目撃したときの対応が最も重要です。
- 大声で叱らない:犬の不安が増し、逆効果です。
- 行動の中断:大声ではなく、「パン!」と手を叩く、または「アッ」など小さな音を立てて、犬の意識をマーキングから逸らします。
- 正しい場所へ誘導:行動が中断したら、すぐに犬を抱きかかえるかリードで誘導し、正しいトイレの場所へ連れて行きます。
- 成功したら褒める:正しい場所で排泄できたら、大げさに「すごい!えらい!」と褒め、おやつなどのご褒美を与えます。
- 後で気づいた場合:絶対に叱らない。無言で淡々と酵素クリーナーで掃除し、犬に「特別な出来事ではない」と認識させます。
4. 室内マーキング対策の応用:去勢手術と散歩中のコントロール

去勢手術はマーキング対策に有効?
去勢手術は、性ホルモンの影響によるマーキング行動の抑制に有効な選択肢のひとつです。
- 研究によると、去勢によりマーキング行動が50〜70%減少したという報告があります。
- ただし、完全にマーキングがなくなるわけではありません。
- 習慣化(学習行動)している場合:性ホルモンの影響がなくなっても、足を上げる行動が癖として残ることがあります。
- 不安・ストレスが原因の場合:性的アピール以外の原因であれば、去勢をしても改善しないため、環境や行動面での対策が必要です。
去勢は万能薬ではありませんが、特に若く、性的成熟を迎えて間もない犬に対しては、有効な対策の一つとして獣医師と相談する価値があります。
散歩中の「過度なマーキング」をコントロールする方法
散歩は犬の情報収集の場であり、ある程度のマーキングは自然です。しかし、1分おきに足を上げてなかなか進まない場合は、飼い主がルールを設ける必要があります。
- 主導権は飼い主に:リードを短く持ち、犬に引かれず、飼い主の歩くリズムを人が決める「リーダーウォーク」を意識します。
- 「排泄の場所」と「マーキングの場所」を分ける:
- 散歩開始直後に「トイレ」「ワンツー」などのコマンドで、排泄して良い場所(公園の端など)で排泄を済ませさせます。
- 住宅地や店舗前などでは、マーキングしそうになったら「行こう」「ダメ」などのコマンドで中断させ、犬の注意を飼い主に戻します。
- 「嗅ぐ時間」を設ける:ストレスを溜めさせないよう、散歩の最後に「自由に嗅いで良い時間・場所」を区別して設けることで、情報収集欲を満たしてあげましょう。
5. よくある質問(FAQ)

Q1. メス犬でもマーキングをしますか?
はい、メス犬でもマーキングをします。一般的にオスほど頻繁ではありませんが、特に未避妊のメス犬は発情期に性的なアピールのために行ったり、オス犬と同様に不安やテリトリー主張のために足を上げて少量の尿をかけることがあります。
Q2. マーキング防止のためにマナーベルトを使うのは効果的ですか?
マナーベルト(犬用おむつ)は、家具や床を汚されないための一時的な管理ツールとしては非常に有効です。しかし、マナーベルトを外した時のマーキング行動そのものは改善されません。長時間装着すると皮膚炎の原因にもなるため、こまめな交換と、あくまで掃除・環境整備と並行して使用するようにしてください。
Q3. 子犬の頃からマーキングを予防する方法はありますか?
子犬期からオス犬が足を上げ始めたら、すぐに「垂直面に足を上げて排尿する行動」をさせないようにすることが予防になります。また、トイレトレーニングが成功した後も、テリトリー主張や不安によるマーキングを避けるため、クレートやサークルでの管理と、安心できる環境づくりを継続することが大切です。
Q4. なぜ来客の荷物や新しい家具にだけマーキングするのですか?
来客の荷物や新しい家具には「自分の匂い」がついていないため、犬はそれを不安の対象と捉えることがあります。「ここには見知らぬ匂いがある」と感じ、自分の匂いを上書きすることで、テリトリーを主張し、安心感を得ようとする行動です。すぐに犬の届かない場所に移動させ、匂いをチェックさせないようにすることが最も効果的です。
Q5. 叱らずに対応すると、マーキングがエスカレートしませんか?
正しい対応(中断→正しい場所で排泄→褒める)をしていれば、エスカレートすることはありません。叱ると、犬は「排泄=悪いこと」と誤解し、飼い主の見ていない場所で隠れてマーキングするようになり、問題がより複雑化します。叱るのではなく、成功体験を積み重ねさせることが、行動改善の唯一の近道です。
6. まとめ:マーキングは愛犬からの大切なサイン

犬のマーキングは「嫌がらせ」ではなく、愛犬の心身の状態を伝える大切なサインです。マーキング対策の成功は、以下のステップを焦らず繰り返すことにかかっています。
【マーキング対策 成功のためのチェックリスト】
- 病気の可能性を真っ先に疑う(突然・高齢・頻尿なら病院へ)。
- マーキング箇所を酵素クリーナーで徹底的に掃除し、匂いを完全に断つ。
- 失敗させないよう、監視できない時間はサークル・クレートで環境を整える。
- 現行犯の際は大声で叱らず、中断→正しいトイレへ誘導→褒める。
- 愛犬が不安やストレスを感じていないか、生活環境やリズムを点検する。
マーキングの改善には時間がかかることもありますが、原因を理解し、正しい対応を続けることで、愛犬との信頼関係を深めることにも繋がります。根気強く、愛情をもって取り組んでいきましょう。