【獣医師監修】犬の肥満対策完全ガイド|運動だけでは痩せない理由と効果的な食事管理

「最近、うちの子太ってきたかも…?」と感じていませんか。愛犬のぽっちゃりした姿は可愛いものですが、肥満はさまざまな病気のリスクを高める見過ごせない健康問題です。

この記事では、犬の肥満の原因から、ご家庭で実践できる具体的な食事管理と運動のコツまで、獣医師の視点から網羅的に解説します。大切な愛犬の健康寿命を延ばすために、正しい知識を身につけていきましょう。

 

この記事でわかること

  • ご家庭でできる愛犬の肥満度チェック方法(BCS)
  • 犬の肥満が引き起こす具体的な病気のリスク
  • 食事、運動、体質など肥満になる本当の原因
  • 獣医師が推奨する効果的な食事管理の3ステップ
  • 無理なく続けられる運動の工夫と注意点
  • 動物病院を受診すべき症状の目安

 

もしかして肥満?まずは愛犬の体型をチェックしよう

 

対策を始める前に、まずは愛犬が本当に肥満なのかを客観的に評価することが重要です。その指標となるのが「ボディ・コンディション・スコア(BCS)」です。これは、見た目と触った感覚で犬の体型を評価する方法で、多くの動物病院で使われています。

 

BCSは一般的に5段階で評価されます。

  • BCS 1(痩せすぎ)
    肋骨、背骨、骨盤がくっきりと浮き出て見える。脂肪がほとんどなく、筋肉量も少ない。
  • BCS 2(痩せぎみ)
    肋骨がわずかな脂肪越しに容易に触れる。上から見ると腰のくびれがはっきりしている。
  • BCS 3(理想体型)
    肋骨が薄い脂肪越しに触れる。きつすぎない、なだらかな腰のくびれがある。横から見て、腹部が吊り上がっている。
  • BCS 4(太りぎみ)
    脂肪が厚く、肋骨に触れるのが難しい。腰のくびれがほとんどなく、背中が平らに見える。
  • BCS 5(肥満)
    厚い脂肪に覆われ、肋骨に触れるのが困難。腰のくびれがなく、腹部が垂れ下がっている。

ご家庭では、BCS4以上であれば肥満対策が必要と考えて良いでしょう。判断に迷う場合は、かかりつけの獣医師に相談してください。

 

放置は危険!犬の肥満が引き起こす怖い病気

 

「少し太っているくらいが可愛い」と軽く考えてはいけません。肥満は万病のもとであり、以下のような深刻な病気のリスクを高めます。

  • 関節への負担: 体重が増えることで関節に過度な負担がかかり、椎間板ヘルニアや関節炎などを引き起こしやすくなります。
  • 心臓・呼吸器疾患: 首周りの脂肪が気道を圧迫し、呼吸が苦しくなることがあります。また、心臓にも負担がかかり、心不全のリスクが高まります。
  • 糖尿病: 肥満はインスリンの働きを悪くするため、糖尿病を発症しやすくなります。一度発症すると生涯にわたる治療が必要です。
  • 皮膚病: 皮膚のシワに汚れが溜まりやすく、細菌が繁殖して皮膚炎を起こしやすくなります。
  • 麻酔のリスク増加: 手術が必要になった際、肥満の犬は麻酔が効きにくかったり、覚醒が遅れたりするリスクが高まります。

愛犬に長生きしてもらうためにも、肥満は早期に解消してあげることが大切です。

 

なぜ太るの?犬が肥満になる主な原因

 

愛犬が肥満になる原因は一つではありません。複数の要因が絡み合っていることがほとんどです。主な原因を理解し、愛犬に合った対策を見つけましょう。

 

原因1:消費カロリー < 摂取カロリー

肥満の最も基本的な原因は、消費するカロリーよりも摂取するカロリーが多いことです。これは主に「運動不足」と「食べすぎ」によって引き起こされます。

  • 運動不足: 散歩の時間が短い、室内での活動が少ないなど、加齢や生活環境によって運動量が減ると消費カロリーも減少します。動かなくなるとますます太り、太ると動くのが億劫になるという悪循環に陥りがちです。
  • 食べすぎ: フードの量を測らずに目分量であげたり、ご家族がそれぞれおやつをあげてしまったりしていませんか?犬は与えられれば食べてしまうことが多い動物です。良かれと思ってあげているおやつや人の食べ物が、カロリーオーバーの主な原因になっているケースは非常に多いです。

 

原因2:避妊・去勢手術による体質の変化

避妊・去勢手術後は、性ホルモンの分泌が変化し、基礎代謝が低下するため、以前と同じ食事量でも太りやすくなることが知られています。また、食欲が増す傾向も見られます。手術を受けた場合は、より一層の食事管理が必要です。

 

原因3:病気の可能性

適切な食事管理と運動を心がけているのに太ってしまう場合、病気が隠れている可能性もあります。特に、以下の内分泌系の病気は肥満を症状の一つとして示します。

  • 甲状腺機能低下症: 甲状腺ホルモンの分泌が減少し、体の代謝が落ちることで太りやすくなります。元気消失や脱毛などの症状を伴うこともあります。
  • 副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群): 副腎皮質ホルモンが過剰に分泌される病気です。食欲が異常に増し、お腹が膨らんで見える(ポットベリー)のが特徴です。多飲多尿の症状もよく見られます。

病気が疑われる場合は、自己判断でダイエットを進めず、必ず動物病院を受診してください。

 

獣医師が教える!犬の肥満対策【食事編】

 

犬のダイエットにおいて、最も重要なのは食事管理です。運動だけで体重を減らすのは非常に困難です。以下のステップに沿って、食事内容を見直してみましょう。

 

ステップ1:愛犬の適切なカロリーを知る

まずは、愛犬が1日に必要とするカロリー(エネルギー要求量)を把握することから始めます。これは犬の現在の体重、目標体重、年齢、活動レベル、避妊・去勢の有無などによって変わります。

正確なカロリー計算は複雑なため、かかりつけの獣医師に相談し、目標体重とそれに合った1日の摂取カロリーを決めてもらうのが最も安全で確実です。

 

ステップ2:フードの選び方と与え方

カロリーが分かったら、それに合わせてフードを選び、与え方を工夫します。

  • ダイエット用フードを活用する: 獣医師の指導のもと、低カロリー・高繊維質のダイエット用療法食に切り替えるのが効果的です。同じ量でも満腹感を得やすく、栄養バランスも整っています。
  • 必ず計量する: 「だいたいこのくらい」という目分量はやめ、毎回必ず計量カップやスケールで正確に測りましょう。
  • 食事回数を増やす: 1日の給与量を2〜3回に分けることで、空腹の時間を減らし、満足感を持続させることができます。
  • 早食いを防止する: 早食い防止用の食器(凹凸のあるフードボウルなど)を使うと、食べるのに時間がかかり、満腹中枢が刺激されやすくなります。

 

ステップ3:おやつのルールを徹底する

おやつはコミュニケーションに有効ですが、ダイエットの妨げになりやすい最大の要因です。以下のルールを家族全員で共有し、徹底しましょう。

  • おやつの量は1日の総摂取カロリーの10%以内に厳守する。
  • おやつを与えた分、主食のフードを減らしてカロリーを調整する。
  • ボーロやクッキーよりも、茹でたブロッコリーやキャベツ、犬用のデンタルガムなど低カロリーなものを選ぶ。
  • 「欲しがるから」ではなく、トレーニングのご褒美など、特別な時にだけ与えるようにする。

 

無理なく続ける!犬の肥満対策【運動編】

 

食事管理と並行して、適度な運動を取り入れ、消費カロリーを増やしていきましょう。ただし、肥満の犬にとって急激な運動は心臓や関節に大きな負担をかけます。焦らず、少しずつレベルアップしていくことが大切です。

 

散歩の質を高める工夫

  • 時間を少しずつ延ばす: まずはいつもの散歩時間を5分〜10分延ばすことから始めてみましょう。
  • コースに変化をつける: 坂道や階段をコースに取り入れると、平地を歩くよりも運動負荷が高まります。
  • 歩くペースを変える: 早歩きとゆっくり歩きを交互に行うインターバル速歩も効果的です。
  • 新しい道を冒険する: 知らない道を歩くと、犬は匂いを嗅いだり周囲を警戒したりと、精神的にも刺激を受け、より多くのエネルギーを消費します。

【散歩時間の目安】
※あくまで一般的な目安です。犬種や個体差に合わせて調整してください。

  • 小型犬: 20~30分を1日2回
  • 中型犬: 30~40分を1日2回
  • 大型犬: 60分以上を1日2回

 

室内でもできる楽しい遊び

雨の日や暑い日など、外に出られない時でも室内でできる運動を取り入れましょう。

  • 知育トイ: フードやおやつを隠せるおもちゃを使い、頭と鼻を使わせることで、楽しくカロリーを消費できます。
  • かくれんぼ: 飼い主さんが隠れて犬に探させる遊びは、良い運動になります。
  • もってこい遊び: 廊下などのスペースを使って、ボールやおもちゃを投げて持ってこさせる遊びも定番です。

老犬や関節に不安がある場合は、坂道や段差を避け、犬のペースに合わせて平坦な道をゆっくり歩かせてあげてください。無理は禁物です。

 

こんな時は動物病院へ!受診を検討すべきサイン

 

ご家庭での対策も重要ですが、時には専門家の助けが必要です。以下のようなサインが見られたら、早めに動物病院を受診しましょう。

  • 食事制限や運動をしても、全く体重が減らない、あるいは増え続ける。
  • 急激に太り始めた。
  • 水をたくさん飲み、おしっこの量が増えた(多飲多尿)。
  • 食欲が異常にある、または全くない。
  • 元気がない、すぐに疲れてしまう。
  • 毛が抜ける、皮膚の状態が悪い。

これらの症状は、前述したような内分泌系の病気が隠れているサインかもしれません。獣医師による正確な診断と治療が必要です。

 

犬の肥満対策に関するよくある質問(Q&A)

 

Q1. ダイエットを始めてから、どのくらいの期間で効果が出ますか?

A. 犬のダイエットは、1週間に体重の1〜2%程度の減量が理想的とされています。急激な減量は体に負担をかけるため、数ヶ月単位の長期的な計画で臨むことが大切です。焦らず、根気よく続けましょう。

 

Q2. 避妊・去勢手術をすると、本当に太りやすくなるのですか?

A. はい、その傾向はあります。手術によって性ホルモンのバランスが変化し、基礎代謝が約20〜30%低下すると言われています。そのため、手術前と同じ食事を続けているとカロリーオーバーになりがちです。手術後はフードの量を見直したり、避妊・去勢後用のフードに切り替えたりするなどの対策が必要です。

 

Q3. 人間の食べ物を与えてもいいですか?

A. 基本的に与えるべきではありません。人間の食べ物は犬にとって塩分や脂肪分が多すぎることが多く、肥満の原因になるだけでなく、犬にとって有毒な成分(玉ねぎ、チョコレートなど)が含まれている危険性もあります。おやつは犬用に作られたものを選びましょう。

 

まとめ:愛犬の健康は飼い主さん次第!二人三脚で頑張ろう

 

犬の肥満対策は、運動と食事管理の両輪で行うことが不可欠です。特に食事管理はダイエットの成功を左右する最も重要な要素です。

いきなり全てを完璧に行うのは難しいかもしれません。まずは、

  • フードの量を正確に測ること
  • おやつのルールを家族で守ること
  • いつもの散歩を5分だけ長くしてみること

など、できることから始めてみましょう。
愛犬の健康を守れるのは、飼い主さんだけです。焦らず、愛犬のペースに合わせて、楽しみながら無理なく続けていくことが成功の秘訣です。困ったときには、いつでもかかりつけの獣医師に相談してくださいね。

 

 

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