狂犬病は、人を含むすべての哺乳類に感染し、一度発症するとほぼ100%の致死率を誇る、非常に恐ろしい病気です。幸い、日本では長らく発生が確認されていませんが、だからこそ「本当に必要なの?」と疑問に思う飼い主さんもいるかもしれません。
この記事では、狂犬病に感染した場合の治療法、そして何よりも大切な「予防」について、獣医領域の専門家が監修し、正確な情報をお伝えします。
このコンテンツを読み進めることで、以下の内容が理解できます。
- 狂犬病に有効な治療法が存在しない理由
- 感染してしまった際の、唯一の対抗策とは?
- なぜ日本の犬は年に一度のワクチン接種が義務なのか
- 狂犬病の症状や潜伏期間について
狂犬病の正しい知識を身につけ、愛犬の命を守るための行動にお役立てください。
狂犬病とは?発症後の治療法がない理由
狂犬病は、狂犬病ウイルスによって引き起こされる人獣共通感染症(ズーノーシス)です。感染した動物に咬まれたり、引っかかれたりすることで、唾液に含まれるウイルスが体内に侵入し、神経を伝わって脳に達することで発症します。
発症してしまうと有効な治療法はない
狂犬病に感染した場合、犬では平均1ヶ月、人では通常1〜3ヶ月の「潜伏期間」を経て発症します。この潜伏期間中は目立った症状は現れませんが、ウイルスが神経を徐々に上り、脳に到達すると発症します。
発症してしまった後では、残念ながら有効な治療法は存在しません。ウイルスが脳神経を侵食してしまうと、呼吸困難や麻痺、意識障害といった重篤な症状を引き起こし、ほぼ100%の確率で死に至ります。このため、発症後の犬は苦痛を長引かせないためにも安楽死が選択されるのが一般的です。
人が発症した場合も、対症療法(痛みや不快感を取り除く治療)が行われますが、生命を救うことは極めて困難です。
発症前の対策:曝露後処置(PEPS)が唯一の希望
発症前の段階であれば、狂犬病の進行を防ぐことは可能です。これを「曝露後処置(PEPS:Post-Exposure Prophylaxis)」と呼びます。
万が一、狂犬病が疑われる動物に咬まれてしまった場合、以下の応急処置と医療機関での治療を速やかに行う必要があります。
- 応急処置:傷口を石鹸と流水で十分に洗い流します。ウイルスの量を減らすことが目的です。ただし、傷口を口で吸い出したり、刺激を与えたりすることは避けてください。
- 医療機関でのワクチン接種:できるだけ早く医療機関を受診し、狂犬病ワクチンを複数回にわたって接種します。これにより、体内に侵入したウイルスに対する抗体を作り出し、ウイルスの増殖を抑えて発症を予防します。
この処置は、発症前の潜伏期間中に行うことが重要です。発症してしまってからでは手遅れになってしまうため、少しでも狂犬病感染の可能性がある場合は、ためらわずに医療機関を受診してください。
狂犬病の唯一の対抗策は「予防」
発症したら助からない狂犬病から身を守る、唯一の方法が「ワクチンによる予防」です。
なぜ日本は狂犬病清浄国なのにワクチンが必要?
日本は世界でも数少ない狂犬病の「清浄国」(発生がない国)です。しかし、この状態を維持するために、狂犬病予防法によって、生後91日以上の犬は年に一度の狂犬病予防接種が義務付けられています。
これは、海外から感染動物が侵入するリスクに備えるためです。もし、狂犬病ウイルスを持った動物が日本に入り込んだとしても、多くの犬がワクチンを接種していれば、犬の間でウイルスが広まることを防ぎ、人や他の動物への感染リスクを抑えることができます。つまり、すべての犬を守るためだけでなく、社会全体を狂犬病から守るための大切な公衆衛生対策なのです。
海外では、犬からの感染が狂犬病の主要な原因となっています。日本が狂犬病清浄国でいられるのは、飼い主さん一人ひとりの義務的な予防接種によって支えられていることを忘れてはなりません。
狂犬病に関するよくある質問
Q1. 狂犬病ワクチンを打たないとどうなりますか?
法律違反となり、20万円以下の罰金が科せられる可能性があります。また、ワクチン未接種の犬は、万が一狂犬病が国内で発生した場合に、感染リスクが非常に高まります。愛犬を守るため、そして社会を守るために、必ず予防接種を受けさせましょう。
Q2. 狂犬病は犬以外も感染しますか?
はい。狂犬病は、人を含むすべての哺乳類に感染します。犬、猫、アライグマ、コウモリ、キツネなどが感染源となることが多く、特に海外ではこれらの野生動物との接触には注意が必要です。
Q3. 日本で狂犬病が発生する可能性はありますか?
可能性はゼロではありません。海外からの渡航者や、ペットとして密輸入された動物がウイルスを運んでくるリスクが常に存在します。そのため、日本が清浄国であり続けるためには、国民全体の予防意識と、犬への義務的なワクチン接種の徹底が不可欠なのです。
Q4. 猫にも狂犬病ワクチンは必要ですか?
日本では猫への狂犬病ワクチン接種は法律で義務付けられていません。しかし、猫も犬と同様に狂犬病に感染するリスクがあります。特に、外に出る機会の多い猫は、ウイルスを持った動物に接触する可能性を考慮し、任意でワクチン接種を検討することをお勧めします。詳細はかかりつけの獣医師に相談してください。
まとめ
狂犬病は、発症してしまうと治療法がなく、ほぼ確実に死に至る恐ろしい病気です。この病気から愛犬の命を守り、社会全体を守るための唯一の対抗策は「予防」です。幸い、日本では法律で定められた犬へのワクチン接種が徹底されているため、安心して暮らせています。
「自分には関係ない」と思わず、愛犬への年に一度のワクチン接種が、私たちと動物たちの命を守るための大切な義務であることを再認識しましょう。この小さな行動が、日本を狂犬病から守る大きな力となります。