【獣医師監修】犬の歯磨き習慣はなぜ必要?嫌がる子もOK!正しいやり方と習慣化の全ステップ

「うちの子、最近口が臭うかも…」「歯に黄色い石みたいなものが付いてきた…」

愛犬の口の健康について、このような悩みを抱えている飼い主さんは少なくありません。特に「犬に歯磨きなんて本当に必要なの?」と疑問に思うこともあるでしょう。

結論から言うと、犬の歯磨き習慣は、愛犬の健康寿命に直結する非常に重要なケアです。

データによれば、3歳以上の犬の約8割が歯周病またはその予備軍であると言われています。歯周病を放置すると、口の痛みや口臭、歯が抜けるだけでなく、細菌が全身に回り、心臓病、腎臓病、肝臓病などの深刻な病気を引き起こす可能性もあるのです。

 

この記事で分かること

  • 犬の歯磨き習慣がなぜ絶対に必要なのか
  • 歯磨きを嫌がる子を「歯磨き好き」にするための具体的な7ステップ
  • 獣医師が教える「正しい歯の磨き方」と磨き残しポイント
  • 犬用歯磨きグッズの正しい選び方と補助ケアの活用法
  • 動物病院での歯科検診や歯石除去(スケーリング)の目安

 

この記事では、獣医師の監修のもと、犬の歯磨き習慣の必要性から、嫌がる子への具体的なトレーニング方法、正しい磨き方、病院でのケアまで、飼い主さんのあらゆる疑問に答えます。

 

目次

犬の歯磨きはなぜ必要?放置が招く深刻なリスク

 

「うちの子は元気だし、ドッグフードしか食べてないから大丈夫」と思っていませんか? 実は、犬の口内環境は人間よりもデリケートで、歯周病になりやすい特徴があります。

 

歯垢はわずか3~5日で歯石に!犬の口内環境

犬の口の中はアルカリ性です。そのため、人間の口内(酸性)で起こりやすい「虫歯」にはなりにくいという利点があります。

しかしその反面、アルカリ性の環境は「歯石」が作られやすいという大きな欠点があります。

食事の食べかすなどが歯に付着すると、細菌の温床である「歯垢(プラーク)」(ネバネバした白い汚れ)になります。この歯垢は、犬の場合、わずか3~5日という短期間で、歯ブラシでは取れないカチカチの「歯石」に変化してしまいます。(人間は約25日かかります)

歯石の表面はザラザラしているため、さらに歯垢が付着しやすくなる悪循環に陥り、細菌が爆発的に増殖していきます。

 

歯周病が引き起こす4つの怖いこと

歯垢や歯石に潜む細菌が歯茎に炎症を起こすのが「歯周病」です。初期の「歯肉炎」から、進行すると歯を支える骨(歯槽骨)まで溶かしてしまう「歯周炎」へと悪化します。

歯周病がもたらすリスクは口の中だけにとどまりません。

 

  • 深刻な口臭:歯周病菌が発するガスにより、生臭い、腐敗臭のような強いにおいが出ます。
  • 痛みと歯の喪失:歯茎が腫れ、出血し、歯を支える骨が溶けることで強い痛みを伴います。食欲不振になったり、最終的には歯がグラグラになって抜け落ちてしまいます。
  • 全身疾患のリスク:炎症を起こした歯茎から細菌や毒素が血管内に侵入し、血流に乗って全身へ運ばれます。その結果、心臓病(心内膜炎)、腎臓病、肝臓病などを引き起こすことが知られています。
  • 顔の変形・穴が開く:特に小型犬では、上の奥歯の歯周病が進行すると、目の下に膿が溜まったり、皮膚に穴が開いて膿が出てくること(外歯瘻)があります。

 

年齢別にみる歯周病のリスク

年齢 歯周病の罹患率(目安) 特徴
1歳未満 低い(ほとんど見られない) 乳歯から永久歯に生え変わる時期。歯磨き習慣のスタートが重要。
1〜2歳 約50% 歯垢・歯石の蓄積が始まる時期。口臭などのサインが出やすい。
3歳以上 約80% 多くの犬が何らかの歯周病を抱える。重症化しやすい。
7歳以上 非常に高くなる 重度の歯周病が多く、全身疾患との関連も強まる。

 

チェックリスト:歯周病の進行ステージと症状

愛犬の口をチェックし、どの段階に近いか確認してみましょう。初期段階であれば、日々の歯磨き習慣で改善が期待できます。

 

進行ステージ 主な症状 ケア方法
ステージ0:正常 歯茎はピンク色で引き締まっている。口臭もほぼない。 毎日の歯磨き習慣で維持。
ステージ1:歯肉炎 歯茎が赤く腫れる。歯磨きで軽く出血することがある。口臭が少し気になる。 この段階なら歯磨きで改善可能。習慣化を徹底する。
ステージ2:初期歯周炎 歯茎の腫れが悪化。歯と歯茎の溝(歯周ポケット)が深くなり始める。口臭が強くなる。 自宅ケアに加え、動物病院でのスケーリング(歯石除去)推奨。
ステージ3:中度歯周炎 歯を支える骨が溶け始め、歯が少しぐらつく。強い口臭。痛みで食事がしづらそうにする。 早急に動物病院へ。スケーリングと、状態により抜歯が必要。
ステージ4:重度歯周炎 骨が大きく溶け、歯がグラグラ。自然に抜けることも。常に痛みを伴う。全身疾患のリスクが非常に高い。 緊急性が高い。全身麻酔下での抜歯や外科処置が必要。

 

今日から始める!犬の歯磨き習慣化「7つのステップ」

 

歯磨きの必要性は分かっていても、「嫌がってできない」と悩む飼い主さんは多いです。大切なのは、歯磨きを「嫌なこと」ではなく「楽しいスキンシップの時間」と愛犬に認識させることです。

無理やり押さえつけるのは逆効果。以下のステップを参考に、数週間かけるつもりで焦らずに進めましょう。

 

ステップ1:口周りを触る(スキンシップ)

まずはリラックスしている時に、優しく声をかけながら頬やマズル(鼻先から口元)を撫でます。これができたら、大好きなおやつをあげて、大げさに褒めましょう。「口を触られる=良いことがある」と関連付けます。

 

ステップ2:唇をめくる(歯をチェック)

ステップ1に慣れたら、優しく唇をめくり、歯や歯茎を見る練習をします。まずは前歯から。奥歯は少し難しいですが、ゆっくりと。これもできたら褒めてご褒美をあげます。

 

ステップ3:歯や歯茎に触れる(指で)

飼い主さんの指に犬が好む味の歯磨き粉やジェル(チキン味など)を少量つけ、歯や歯茎に優しく触れます。「指=美味しいもの」と認識させます。この時、指を噛まないように注意してください。

 

ステップ4:歯磨きシート・ガーゼで拭う

指で触れることに慣れたら、指に歯磨きシートや濡らしたガーゼを巻き付け、歯の表面を優しくこすってみます。まずは簡単な前歯や犬歯(牙)から。奥歯は頬の外側から指を入れて拭います。

 

ステップ5:歯ブラシを「おもちゃ」として認識させる

いきなり口に入れず、まずは歯ブラシの匂いを嗅がせたり、歯磨き粉をつけて舐めさせたりします。「歯ブラシ=美味しいおもちゃ」と認識させ、恐怖心を取り除きます。

 

ステップ6:歯ブラシを歯に当てる(短時間から)

歯ブラシを口に入れることに抵抗がなくなったら、まずは歯ブラシを歯に「当てる」だけ。1秒でも当てられたらOK。奥歯の外側など、比較的嫌がりにくい場所から始めます。

 

ステップ7:少しずつ磨く範囲を広げる

歯ブラシを当てることに慣れたら、シャカシャカと小さく動かしてみます。「1か所を3秒」など、ごく短時間からスタートし、徐々に磨く本数や時間を延ばしていきます。

 

習慣化のためのポジティブトレーニングの秘訣

  • 毎日5秒でもOK:「完璧に磨く」ことより「毎日続ける」ことが重要です。
  • ご褒美は必須:歯磨きが終わったら必ず大好きなおやつをあげ、「歯磨きが終われば最高のご褒美がもらえる」と学習させます。
  • 大げさに褒める:「えらい!」「すごい!」と飼い主さんが嬉しそうにすることが、愛犬のモチベーションになります。
  • 嫌がったら即中断:無理強いはトラウマになります。嫌がる素振りを見せたら、その日は潔く諦め、次の日に簡単なステップに戻って再挑戦します。

 

【図解】獣医師が教える「正しい歯の磨き方」

 

歯ブラシに慣れてきたら、次は「磨き方」の質を高めていきましょう。歯垢が溜まりやすいポイントを意識することが大切です。

 

準備するもの:歯ブラシと歯磨き粉

  • 歯ブラシ:犬の口のサイズに合った、ヘッドが小さく、毛先が柔らかい「犬用歯ブラシ」を選びます。人間の子供用でも代用できますが、犬専用の方が磨きやすい設計になっています。
  • 歯磨き粉:犬が好むフレーバー(チキン、ビーフ、バニラなど)の「犬用歯磨き粉」を使います。泡立たず、飲み込んでも安全な成分で作られています。人間用はキシリトール中毒や発泡剤のせいで絶対に使用しないでください。

 

基本の磨き方:角度、力加減、順番

  1. 歯ブラシの角度:歯と歯茎の境目(歯周ポケット)を狙い、歯ブラシの毛先を45度の角度で当てます。
  2. 力加減:ゴシゴシ擦る必要はありません。「豆腐が崩れない程度」の優しい力で、歯ブラシを小刻みに動かします。
  3. 磨く順番:
    1. 奥歯の外側(頬側):最も歯石が付きやすい場所。まずはここから。
    2. 前歯・犬歯の外側:比較的磨きやすい場所です。
    3. 歯の内側(舌側):難易度が高いですが、唾液である程度浄化されるため、まずは外側を優先して完璧にしましょう。慣れてきたら挑戦します。

目標は「すべての歯の外側を磨き終えること」です。内側まで完璧に磨くのは理想ですが、まずは外側の歯垢を毎日リセットすることを最優先にしてください。

 

犬用歯磨きグッズの正しい選び方と使い方

 

歯磨き習慣をサポートするグッズは多数あります。それぞれのメリット・デメリットを理解し、愛犬の状態に合わせて使い分けましょう。

 

グッズの種類 特徴とメリット デメリット・注意点
歯ブラシ 【メインケア】

歯垢除去効果が最も高い。歯周ポケットのケアも可能。

慣れるまでに時間がかかる。愛犬の口のサイズに合ったものを選ぶ。
歯磨きシート・ガーゼ 【導入期に】

歯ブラシを嫌がる子の第一歩として有効。歯の表面の汚れを拭き取れる。

歯周ポケットの奥の汚れは取れない。あくまで「慣れるため」と割り切る。
歯磨き粉(ペースト) 【補助ケア】

犬が好む味で歯磨きの抵抗感を減らす。酵素入りは歯垢を付きにくくする効果も。

人間用は絶対NG。飲み込んでも安全な犬用を選ぶ。
デンタルジェル

デンタルスプレー

【補助ケア】

塗るだけ、スプレーするだけで口内環境を整え、口臭予防が期待できる。

物理的な歯垢除去効果は限定的。歯磨きの代わりにはならない。
デンタルガム

デンタルフード

【補助ケア】

噛むことで物理的に歯垢をこすり取る。VOHC(米国獣医口腔衛生協議会)認定マークが目安。

硬すぎる製品(ヒヅメ、骨など)は歯が割れる(破折)リスク大。カロリーオーバーにも注意。

 

年齢や犬種別で見る「歯磨きケア」のポイント

 

犬の状態によって、ケアで重視すべきポイントも変わってきます。

 

ライフステージ別

ライフステージ ケアのポイント
子犬 生後3〜6か月頃から口を触られる練習を開始。乳歯が抜け、永久歯が生えそろう7〜8か月頃から本格的に歯磨きをスタート。この時期の習慣化が長期的な健康の土台に。
成犬 毎日の歯磨きを習慣化し、歯周病予防を徹底。年1回は動物病院で口腔チェックを。
老犬(シニア犬) 歯周病が進んでいるケースが多く、心臓病や腎臓病など全身疾患との関連も強い。体力や麻酔リスクを考慮し、獣医師と相談しながら無理のないケアを。

 

特に注意が必要な犬種

以下の犬種は、骨格や歯並びの特性から、特に歯周病になりやすいため注意が必要です。

  • 小型犬(チワワ、トイ・プードル、ミニチュア・ダックスフンドなど):
    体が小さく、顎も小さいため、歯と歯の間隔が狭く汚れが溜まりやすいです。
  • 短頭種(パグ、フレンチ・ブルドッグ、シーズーなど):
    顎が短いため、歯が重なって生えたり(不正咬合)、斜めに生えたりしやすく、非常に磨き残しが出やすいです。
  • 乳歯遺残(乳歯が抜けずに残る)が多い犬種:
    小型犬全般に見られます。残った乳歯と永久歯の間に歯垢が溜まり、重度の歯周病の原因となります。

 

自宅ケアの限界は?動物病院での専門的ケア

 

毎日の歯磨きは「歯垢」を落とすためのもの。一度付いてしまった「歯石」は、自宅の歯ブラシでは絶対に取れません。

 

受診のサイン:こんな症状はすぐに病院へ

以下のような症状が見られたら、すでに歯周病が進行している可能性が高いです。早めに動物病院を受診してください。

  • 我慢できないほどの強い口臭がする
  • 歯の表面に黄土色~茶色の歯石がびっしり付いている
  • 歯茎が真っ赤に腫れ上がり、頻繁に出血する
  • 歯がグラグラしている、または抜けた
  • 片方の歯でしかご飯を食べない、よだれが多い
  • 口や顔の周りを触られるのを極端に嫌がる

 

病院で行う「歯石除去(スケーリング)」とは?

動物病院では、「全身麻酔」をかけて、専門的な歯石除去(スケーリング)を行います。

なぜ全身麻酔が必要かというと、犬は処置中にじっとしていられず、歯周ポケットの奥深くや歯の裏側など、見えない部分の歯石まで安全かつ完全に取り除くことができないためです。超音波スケーラーという器具で歯石を粉砕し、除去した後は、歯の表面を滑らかにする「ポリッシング(研磨)」を行い、歯垢の再付着を防ぎます。

状態によっては、グラグラになった歯の抜歯が必要になることもあります。

 

飼い主さんがやりがちなNG行動

  • 人間用の歯磨き粉を使う:キシリトール中毒や消化器症状の原因になります。
  • 骨やヒヅメなど硬すぎるものを与える:歯石は取れません。逆に歯が割れるリスクが非常に高いです。
  • 無麻酔での歯石除去:見える表面の歯石しか取れず、肝心な歯周ポケット内の処置ができません。犬に恐怖心を与えるだけで、根本的な治療にならないため推奨されません。
  • スケーラー(歯石取り器具)で自宅で取る:器具で歯の表面を傷つけ、エナメル質を破壊してしまい、逆に歯垢が付着しやすくなります。

 

犬の歯磨き習慣に関するよくある質問(Q&A)

 

Q1. 歯磨きは毎日しないとダメですか? 理想の頻度は?

A1. 理想は「毎日」です。

犬の歯垢は3~5日で歯石に変わってしまうため、最低でも「3日に1回」は歯ブラシで歯垢をリセットする必要があります。しかし、習慣化するためにも、ご褒美とセットで「毎日」行うのが最も効果的です。

 

Q2. 歯磨きガムやデンタルフードで代用できますか?

A2. 代用はできません。あくまで「補助」です。

ガムやフードは、噛むことで歯の表面の汚れをある程度落とす助けにはなりますが、歯と歯茎の境目(歯周ポケット)の歯垢を完全に取り除くことは不可能です。歯ブラシによるケアをメインとし、それらの製品は補助として使いましょう。

 

Q3. 歯石がついてしまったら、自宅で取れますか?

A3. 自宅では取れません。絶対に無理に剥がそうとしないでください。

歯石は非常に硬く、歯の表面に強固に付着しています。爪や器具で無理に取ろうとすると、歯のエナメル質を傷つけ、歯周病を悪化させる原因になります。歯石が付いたら、動物病院で全身麻酔下でのスケーリングを受けるしかありません。

 

Q4. シニア犬(老犬)ですが、今からでも歯磨きは必要ですか?

A4. 必要です。ただし、無理のない範囲で行いましょう。

シニア犬は歯周病が進行していることが多く、全身疾患への影響も懸念されます。今からでも、歯磨きシートで拭ったり、ジェルを塗ったりするだけでも口内環境の悪化を防ぐ助けになります。体調や麻酔リスクについては、かかりつけの獣医師とよく相談してください。

 

Q5. 人間用の歯磨き粉を使ってもいいですか?

A5. 絶対にダメです。

人間用の歯磨き粉に含まれる「キシリトール」は、犬にとって少量でも低血糖や肝障害を引き起こす猛毒です。また、泡立つ成分(発泡剤)も犬は吐き出せないため、消化器に負担をかけます。必ず「犬用」の安全な製品を使用してください。

 

まとめ:愛犬の健康寿命は毎日の歯磨き習慣から

 

犬の歯磨き習慣は、飼い主さんにとって根気のいるケアかもしれません。しかし、歯周病がもたらす痛みや全身疾患のリスクを考えれば、これほど愛犬の健康寿命に貢献できるケアは他にありません。

大切なのは、完璧を目指すことではなく、「楽しみながら毎日続けること」です。

まずは今日、愛犬の口を優しく触ることから始めてみませんか?

もし習慣化が難しい、あるいは愛犬の口の状態が心配な場合は、決して一人で悩まず、いつでも動物病院に相談してください。獣医師や動物看護師が、その子に合った最適なケア方法を一緒に見つけてくれるはずです。

 

 

 

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