愛犬が突然「オエッ」と吐く姿を見ると、誰でも心配で動揺してしまいますよね。「何か悪いものを食べた?」「病気だったらどうしよう…」と不安になるのは当然のことです。
犬は人間と比べて吐きやすい動物ですが、その嘔吐の中には、様子を見ても良い生理的なものから、一刻を争う病気のサインまで様々です。大切なのは、飼い主さんが慌てずに愛犬の状態を観察し、適切に対処すること。
この記事では、犬が吐いた時にまず確認すべきことから、吐いたものの色や内容物でわかる原因、ご家庭での正しい対処法、そしてすぐに動物病院へ行くべき危険な嘔吐の見分け方まで、獣医師が網羅的に解説します。
この記事でわかること
- 生理的な嘔吐と病的な嘔吐の違い
- 吐いたものの【色・内容物別】に考えられる原因
- 自宅で様子を見る場合の正しい応急処置と食事の再開方法
- 命に関わる危険な嘔吐の具体的なサイン
- 嘔吐を予防するために日頃からできる対策
慌てないで!まずは「嘔吐」か「吐出(としゅつ)」かを見極めよう
犬が口から食べたものを出す行為には、実は「嘔吐」と「吐出」の2種類があります。この2つは原因が異なるため、見分けることが適切な対処の第一歩となります。
- 嘔吐(おうと):
お腹を大きく動かし「オエッ、ゲーッ」という前触れの後に、胃の中のものを吐き出す行為。吐瀉物は消化がある程度進んでおり、黄色い液体(胆汁)が混じることも。胃や腸、あるいは全身性の病気が原因の可能性があります。 - 吐出(としゅつ):
前触れなく、食べたものが食道から逆流して出てくる行為。食べた直後に起こることが多く、吐瀉物は未消化のフードがそのままの形で出てきます。食道の病気などが考えられます。
どちらか判断に迷う場合も多いですが、お腹を大きく動かす動作があったかどうかが一つの目安になります。
【色・内容物でチェック】吐いたものからわかる愛犬の健康状態
吐瀉物は愛犬の体からのメッセージです。色や内容物をよく観察し、写真を撮っておくと、動物病院での診断に非常に役立ちます。
- 黄色い液体・泡
- 胆汁が逆流したもので、空腹時に吐くことが多いです。長時間の空腹が原因の「胆汁嘔吐症候群」が考えられます。1回の食事量を減らし、回数を増やすなどの対策が有効な場合があります。
- 白い泡・透明な液体
- 胃液や唾液です。空腹やストレス、乗り物酔いなどで見られますが、胃炎や誤飲の初期症状の可能性もあります。
- 未消化のフード
- 食後すぐに吐いた場合は、早食いや食べ過ぎ、食後の過度な運動が原因かもしれません。吐出の可能性も考えられます。
- 茶色い液体・固形物
- 消化されたフードの色の場合が多いですが、胃や十二指腸からの出血が酸化して茶色く見えることもあります。便のような臭いがする場合は腸閉塞など重篤な病気の可能性があり、非常に危険です。
- 赤色・ピンク色の液体
- 血液が混じっています。口の中、食道、胃など消化管のどこかから出血しているサインです。鮮やかな赤色ほど口に近い場所からの出血が疑われます。すぐに動物病院を受診してください。
- 異物(おもちゃの破片、草、ビニールなど)
- 誤飲が原因です。吐き出せたからと安心せず、体内に残っていたり、消化管を傷つけていたりする可能性があるので、必ず動物病院を受診しましょう。
すぐに動物病院へ!命に関わる危険な嘔吐のサイン
嘔吐の中には、緊急性の高い病気が隠れているものもあります。以下のサインが見られたら、様子を見ずにすぐに動物病院を受診してください。
【緊急受診のチェックリスト】
- 1日に3回以上、何度も繰り返し吐いている
- 吐きたそうにするが、何も出てこない(胃拡張・胃捻転の可能性)
- 嘔吐と同時に下痢もしている
- 吐瀉物に血や異物が混じっている、便の臭いがする
- 元気がない、ぐったりしている、震えている
- 食欲が全くない
- お腹が張っている、触ると痛がる
- 呼吸が荒い、よだれが大量に出る
特に、子犬や高齢犬、持病のある犬は、一度の嘔吐でも脱水症状に陥りやすく、急激に状態が悪化することがあります。迷わず獣医師に相談しましょう。
自宅で様子を見る場合の正しい対処法
「吐いた後にケロッとしていて元気」「嘔吐は1回だけで繰り返さない」など、上記の危険なサインに当てはまらない場合は、半日〜1日ほど自宅で慎重に様子を見ることができます。その際の正しいケア方法をご紹介します。
- 半日〜1日ほど絶食させる:
すぐに食事を与えると、弱った胃腸をさらに刺激してしまいます。まずは胃腸を休ませるために、フードやおやつを一旦ストップしましょう。 - 水分は少量ずつ与える:
脱水は心配ですが、一度にガブガブ水を飲むと再び吐いてしまうことがあります。スプーン1杯程度の水を30分〜1時間おきに与え、吐かないことを確認しながら少しずつ量を増やしていきましょう。 - 食事を再開する:
半日以上吐き気がなければ、食事を再開します。いつものフードをぬるま湯でふやかし、消化しやすい状態にしたものを、普段の1/4程度の少量から与えてみてください。問題なければ、数日かけて徐々に元の量に戻していきます。 - しっかり観察・記録する:
様子を見ている間も、いつ、何回、何を吐いたか、他にどんな症状があるかをメモしておきましょう。万が一悪化して病院へ行く際に、非常に重要な情報になります。吐瀉物の写真を撮っておくことも忘れないでください。
犬の嘔吐に関するよくある質問(Q&A)
Q1. 吐いた後、ケロッとしていて元気です。本当に様子を見て大丈夫?
A. はい、嘔吐が1回きりで、その後も元気や食欲が普段と変わらない場合は、一過性のものの可能性が高いです。早食いや空腹などが原因と考えられます。ただし、翌日以降も嘔吐を繰り返す、少しでも元気がないなどの変化があれば、動物病院を受診してください。
Q2. 草を食べて吐くのは問題ないですか?
A. 犬が草を食べる理由は明確にはわかっていませんが、胸やけなどをスッキリさせるために意図的に行っているという説もあります。食べた草と一緒に胃液などを吐き、その後ケロッとしているなら、過度に心配する必要はないでしょう。ただし、除草剤などがかかっている草は非常に危険なので、散歩中の拾い食いには十分注意してください。
Q3. 病院に連れて行く時、吐いた物も持っていくべきですか?
A. 可能であれば、ぜひ持参してください。現物を見ることで、獣医師はより多くの情報を得ることができます。ラップに包んだり、ビニール袋に入れたりして持っていきましょう。持参が難しい場合は、色や内容物、量などが鮮明にわかる写真を複数枚撮っておくだけでも診断の大きな助けになります。
Q4. 嘔吐を防ぐために、普段からできる対策はありますか?
A. 全ての嘔吐を防ぐことはできませんが、食事の工夫でリスクを減らすことは可能です。早食いの子には、一気食いを防ぐ凹凸のある食器(早食い防止フードボウル)を使うのが効果的です。また、空腹で吐きやすい子には、食事の回数を1日2回から3〜4回に増やし、空腹時間を短くしてあげるのも良い対策です。
まとめ:飼い主の冷静な観察が愛犬を守る「最善の対策」
犬の嘔吐は、飼い主さんにとって非常に心配な出来事です。しかし、慌ててしまうと、重要なサインを見逃してしまうかもしれません。
最も大切な「対策」は、まず飼い主さんが冷静になり、「吐瀉物の状態」と「嘔吐以外の全身状態」をしっかりと観察することです。そして、この記事のチェックリストを参考に、様子を見るか、すぐに病院へ行くべきかを判断してください。
少しでも判断に迷ったり、不安を感じたりした場合は、ためらわずに獣医師に相談しましょう。それが愛犬の健康を守るための最も確実で安全な選択です。