「うちの子、あまり水を飲んでいない気がする…」
「最近、ガブガブ水を飲むようになったけど大丈夫?」
愛犬の「水を飲む量」を、きちんと把握できていますか?
実は、飲水量の変化は病気の初期サインであることも多く、日々の健康状態を知るための非常に重要なバロメーターです。
しかし、「どれくらいが適正なのか分からない」「どうやって測ればいいの?」と感じている飼い主さんも少なくありません。この記事では、愛犬の健康を守るための「飲水量チェック」の全てを、獣医師が分かりやすく解説します。
この記事でわかること
- フードの種類(ドライ・ウェット)を考慮した、本当に必要な水分量
- 今日から誰でも簡単にできる、正確な飲水量のチェック方法
- 「飲まない」「飲みすぎる」場合に考えられる原因と、隠れた病気の可能性
- 水をあまり飲まない子に試したい、効果的な水分補給の工夫
- 飲水量の変化で動物病院を受診すべき具体的な目安
愛犬の「いつもと違う」にいち早く気づくために、正しい知識を身につけていきましょう。
【食事タイプ別】愛犬の1日に必要な水分量の目安
まず、健康な成犬が1日に必要とする総水分量の目安を知っておきましょう。
基本の計算式:「体重1kgあたり50〜60mL」
一般的に、犬が必要とする水分量は「体重1kgあたり50〜60mL」とされています。例えば、体重5kgの犬であれば、1日に250〜300mLの水分が必要です。
重要ポイント:必要な水分量 ≠ 飲む水の量
ここで最も大切なポイントは、犬は飲み水だけでなく食事からも水分を摂取しているということです。そのため、「必要な水分量」と、実際に「器から飲む水の量」はイコールではありません。
- ドライフード:水分含有量は約10%。食事から摂れる水分が少ないため、多くの量を飲み水で補う必要があります。
- ウェットフード:水分含有量は約75%以上。食事から多くの水分が摂れるため、飲み水が少なくても足りている場合があります。
愛犬が主にどちらのタイプのフードを食べているかによって、チェックすべき飲水量は大きく変わるのです。
【具体例】フードから摂れる水分量を計算してみよう
体重5kgの犬(1日の必要水分量:約250mL)を例に見てみましょう。
●ドライフード100gを食べる場合
食事から摂れる水分:100g × 10% = 約10mL
飲み水で補うべき量:250mL – 10mL = 約240mL
●ウェットフード300gを食べる場合
食事から摂れる水分:300g × 75% = 約225mL
飲み水で補うべき量:250mL – 225mL = 約25mL
このように、食事内容によって必要な飲水量が10倍近くも変わることがあります。「うちの子、あまり水を飲まない」と感じていても、ウェットフードが中心なら心配ないケースもあるのです。
今日からできる!愛犬の飲水量を正確にチェックする方法
「じゃあ、実際にどれくらい飲んでいるの?」を把握するための簡単な方法をご紹介します。毎日でなくても、まずは2〜3日続けて計測し、普段の平均量を知っておくことが大切です。
準備するもの
- 計量カップ
- いつも使っている水飲みボウル
- メモ帳やスマホのメモ機能
チェックの手順
- 朝、決まった時間に、計量カップで測った一定量の水(例:500mL)をボウルに入れます。
- 24時間後、翌日の同じ時間にボウルに残っている水の量を計量カップで測ります。
- 「最初に入れた量」から「24時間後に残った量」を引いた数が、1日の飲水量です。
- 数日間記録して、平均値を出してみましょう。
自動給水器などで目盛りがついている場合は、減った分をメモするだけでも大丈夫です。この“ざっくり把握”が、愛犬の健康変化に気づく第一歩となります。
【要注意】飲水量の変化は病気のサインかも?
飲水量をチェックする最大のメリットは、病気の早期発見につながることです。「いつもより少ない」「異常に多い」という変化は、体が発している重要なサインかもしれません。
水が少ない(飲水低下)場合に考えられる原因
元気や食欲もあるのに水を飲む量が減った場合、以下のような原因が考えられます。
- 環境の変化:寒さ、運動不足、フードの変更(ドライ→ウェットへ)など
- 加齢による活動量の低下
- 口の中の異常:歯周病や口内炎などで、水を飲むときに痛みを感じている
- 体のどこかの痛み:関節炎などで水飲み場に行くのが億劫になっている
- 病気の初期症状:様々な病気で元気や食欲が落ち、それに伴い飲水量も減ることがあります。
水が多い(多飲)場合に考えられる原因
明らかに飲む量が増え、おしっこの量も増えた状態を「多飲多尿」と呼び、病気の代表的なサインです。体重1kgあたり100mL以上飲む状態が続く場合は、注意が必要です。
- 腎臓病:尿を濃縮する機能が低下し、薄い尿をたくさんするため、失われた水分を補おうと水をたくさん飲みます。
- 糖尿病:血液中の糖を尿として排出しようとする際に、水分も一緒に排出されるため喉が渇きます。
- クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症):ホルモンの異常により多飲多尿を引き起こします。
- 子宮蓄膿症:メス犬で、細菌の毒素が腎臓に影響を与え、多飲多尿になることがあります。緊急性の高い病気です。
飲水量の異常に気づいたら、元気そうに見えても自己判断せず、記録した飲水量のデータを持って動物病院で相談しましょう。
愛犬が水を飲まない…効果的な水分補給の工夫5選
病気ではないけれど、愛犬の飲水量が少ないのが気になる…という場合は、以下の方法を試してみてください。
- 水飲み場を増やす・場所を変える:生活動線上に複数箇所設置すると、飲む機会が増えます。
- 常に新鮮で清潔な水に:1日に数回、水を交換し、ボウルも清潔に保ちましょう。
- ウェットフードやふやかしフードを活用:食事から水分を補給する最も効果的な方法です。ドライフードをぬるま湯でふやかして与えるのもおすすめです。
- 風味付けをする:鶏肉の茹で汁(味付けなし・冷ましたもの)や、犬用のミルクを少量水に加えると、喜んで飲むことがあります。
- 氷や野菜・果物を与える:夏場は氷を浮かべたり、おやつとしてキュウリやスイカなど水分の多いものを少量与えたりするのも良いでしょう。(与えすぎには注意)
犬の飲水量チェックに関するよくある質問(Q&A)
Q1. 水飲み器の種類で飲む量は変わりますか?
A1. 変わることがあります。犬にも好みがあり、ステンレス製、陶器製、プラスチック製などの素材や、ボウルの深さ、循環式の給水器など、器を変えたら飲むようになったというケースは少なくありません。愛犬が飲みやすそうにしているか観察してみましょう。
Q2. 飲水量を測ったら、日によってバラバラです。大丈夫?
A2. 多少の変動は自然なことです。運動した日、暑かった日、塩分のあるおやつを食べた日などは飲水量が増えます。数日間の平均を見て、その平均値から大きく外れた状態が何日も続く場合に注意が必要です。
Q3. 老犬(シニア犬)になったら飲水量は変わりますか?
A3. 変化することが多いです。活動量が落ちて飲む量が減る一方、腎機能の低下などにより逆に増える(多飲)こともあります。シニア期に入ったら、より意識的に飲水量をチェックし、変化に気づけるようにしてあげることが大切です。
まとめ:毎日の飲水チェックを愛犬の健康管理に役立てよう
愛犬の飲水量を把握することは、体重測定と同じくらい大切な健康管理の一つです。食事内容を考慮したうえで愛犬の「基準量」を知っておけば、日々の小さな変化に気づき、病気の早期発見・早期治療につなげることができます。
まずは難しく考えず、3日間だけ飲水量を測ってみることから始めてみませんか?そのひと手間が、愛犬の健康寿命を延ばすための大きな一歩になります。