愛犬が突然「ワオーン」と遠吠えを始めると、飼い主さんは驚いたり、少し心配になったりするかもしれません。遠吠えは犬にとって自然な行動ですが、その裏にはさまざまな理由が隠されていることがあります。
この記事では、犬が遠吠えをする考えられる理由から、具体的な対策、そして動物病院への受診を検討すべきサインまで、獣医師監修のもと詳しく解説します。
この記事でわかること
- 犬が遠吠えをする代表的な7つの理由
- 遠吠えの状況に応じた具体的な対策方法
- 病院への受診を検討すべき遠吠えのサイン
- 遠吠えの予防やしつけのポイント
犬が遠吠えする7つの理由と対処法
犬の遠吠えは、その子の性格、育った環境、体の状態によってさまざまなパターンがあります。ここでは、特によく見られる7つの理由と、それぞれの状況に合わせた対処法をご紹介します。
1. 本能的な行動(祖先からの遺伝)
理由
犬の祖先であるオオカミは、遠吠えを使って群れの仲間とコミュニケーションを取り、自分の居場所を知らせたり、他の群れへの警告を発したりしていました。この本能的な行動が、現代の犬にも残っています。特に、飼い主さんが不在の時や、一人でいる時に寂しさや仲間への呼びかけとして遠吠えすることがあります。
対処法
- 留守番中に安心できる環境(毛布や飼い主さんの匂いのついたものなど)を整える
- 分離不安の兆候が見られる場合は、少しずつ留守番の時間を延ばすなど、専門家のアドバイスも検討する
2. 特定の音への反応
理由
救急車や消防車のサイレン、パトカーの音、工事の音、楽器の音、テレビの特定の効果音など、人には気にならないような高音や特定の周波数の音に反応して遠吠えすることがあります。これは、その音が「遠吠え」に似ていたり、犬にとって不快な音に聞こえたりするためと考えられます。
対処法
- どんな音に反応しているのかを注意深く観察する
- 音が聞こえるときに、カーテンを閉める、窓を二重にするなどの環境音対策を行う
- テレビやラジオをつけ、他の音で紛らわせる「サウンドマスキング」を試す
3. 不安や分離不安
理由
お留守番中に一人になることへの心細さや不安から遠吠えすることがあります。これは「分離不安」と呼ばれる行動問題の一つで、「飼い主さんがいなくなると、自分は置き去りにされるのではないか」という強い不安を感じています。また、かまってほしい気持ちから遠吠えをする「要求吠え」の一種であることもあります。
対処法
- 日頃から愛犬とのコミュニケーションを十分に取る
- 安心できる居場所(クレートやベッドなど)を用意し、そこが安全な場所であることを教える
- 外出前のルーティンを短くし、犬に不安を察知させない工夫をする
- 帰宅時も大げさに歓迎せず、落ち着いてから構うようにする
- 重度の分離不安の場合は、獣医師や動物行動学の専門家へ相談する
4. ストレスの発散と運動不足
理由
運動不足や遊びが足りていない、または退屈しているなど、心身のエネルギーが満たされていない場合に、そのストレスを遠吠えで発散することがあります。特に、室内飼いの犬や散歩の時間が短い犬に見られやすい傾向があります。
対処法
- 毎日の散歩の時間を十分に確保し、内容に変化をつける(嗅覚を使った遊びを取り入れるなど)
- ドッグランなどで思い切り体を動かす機会を作る
- 知育玩具やおやつを使ったゲームなど、頭を使う遊びを取り入れる
5. 体の不調や痛み
理由
犬は体調が悪いときや、どこかに痛みを感じているときに、その不快感や苦痛を遠吠えで訴えることがあります。内臓の疾患、関節炎、歯の痛み、外傷などが原因となることがあります。普段と異なる遠吠え方をしている、元気がない、食欲がないなど、他の体調不良のサインも見られる場合は注意が必要です。
対処法
- 遠吠え以外に、食欲不振、下痢、嘔吐、跛行(びっこ)、震えなどの体調の変化がないか確認する
- 「いつもと違う」と感じたら、すぐに動物病院を受診する
6. 認知症などの高齢犬の変化
理由
高齢の犬の場合、遠吠えが認知機能不全症候群(いわゆる犬の認知症)のサインであることがあります。特に夜中に突然遠吠えを始める「夜鳴き」は、方向感覚の喪失、不安、混乱などが原因で起こりやすい症状です。
対処法
- 夜間の不安を軽減するため、寝室を明るくしたり、飼い主さんの近くで寝かせたりする
- 規則正しい生活リズムを心がける
- 必要に応じて、獣医師と相談し、認知症の進行を遅らせるサプリメントや薬の利用を検討する
- 定期的に動物病院で健康チェックを受ける
7. 周囲の犬への呼びかけ(縄張り意識)
理由
近所の犬の鳴き声や遠吠えに反応して、つられるように鳴くことがあります。これは「ここにいるよ」と自分の存在を知らせたり、縄張りを主張したり、群れの一員としてコミュニケーションを取ろうとしたりする行動です。特に、犬が集まる場所や散歩中に他の犬と出会った際に見られることがあります。
対処法
- 他の犬の鳴き声が聞こえるときは、窓を閉めるなどして音を遮断する
- 外での遠吠えの場合は、リードを短く持ち、飼い主さんに注目させるトレーニングを行う
遠吠えをやめさせたいときの具体的なしつけと工夫
遠吠えをやめさせるためには、感情的に叱るのではなく、その原因に合わせた対策を冷静にとることが重要です。ここでは、よくあるケースに合わせた具体的な工夫をご紹介します。
音への反応には「環境づくり」と「慣れさせる」工夫
- 音の遮断: 救急車のサイレンなど、特定の音に反応して吠える場合は、厚手のカーテンを閉める、窓に防音シートを貼るなどして、音の侵入を軽減します。
- サウンドマスキング: 静かな環境よりも、テレビやラジオ、クラシック音楽などを小さく流しておくことで、気になる音を紛らわせ、犬を安心させることができます。
- 音に慣れさせるトレーニング: 小さな音量でサイレンなどの音源を流し、徐々に音量を上げていくことで、犬がその音に慣れるように誘導するトレーニングも効果的です。吠えずにいられたら褒めてあげましょう。
かまって遠吠えには「無視」と「適切なタイミングでの褒め」
- 要求を無視する: 吠えている時に「どうしたの?」「やめなさい」などと声をかけたり、見つめたりすると、「吠えればかまってもらえる」と犬が学習してしまいます。吠えている間は徹底して無視し、吠えやんだ瞬間に褒めてご褒美を与えるようにします。
- 気をそらす: 吠え出しそうなタイミングで、好きなおもちゃを投げたり、「おすわり」などのコマンドを出して意識をそらしたりすることも有効です。
- 吠える前に褒める: 犬が吠える前に、落ち着いているときに積極的に褒めてあげることで、吠えない行動を強化します。
夜中の遠吠え(夜鳴き)には「生活リズムの調整」と「病院受診」
- 規則正しい生活: 昼間に十分な運動をさせ、夜はぐっすり眠れるような規則正しい生活リズムを心がけましょう。
- 寝る前の工夫: 寝る前にトイレを済ませ、軽く遊んで疲れさせることで、夜中に起きるのを防ぎやすくなります。
- 安心できる環境: 夜間に不安を感じやすい場合は、寝床を飼い主さんの近くに置く、柔らかい毛布を用意するなど、安心できる環境を整えてあげましょう。
- 獣医師への相談: 高齢犬の夜鳴きや、急に遠吠えが増えた場合は、認知症や体の不不調が原因になっている可能性も。早めに動物病院を受診し、適切な診断と治療を受けることが大切です。必要に応じて、サプリメントや投薬、行動療法なども検討されます。
こんな遠吠えは要注意!病院に連れて行くべきサイン
以下のような遠吠えが見られる場合は、病気のサインである可能性が高いため、すぐに動物病院を受診することをおすすめします。
- 急に遠吠えが増えた、または始まった: 特に以前は遠吠えをしなかった犬が突然遠吠えを始めた場合。
- 痛みを伴うような遠吠え: 体を触ると嫌がる、特定の姿勢で痛がる、うずくまっているなど、痛みのサインが見られる場合。
- 他の体調不良のサインと併発: 食欲不振、下痢、嘔吐、震え、ぐったりしている、呼吸が荒い、歩き方がおかしいなど、遠吠え以外にも気になる症状がある場合。
- 高齢犬の夜間の遠吠え(夜鳴き)がひどい: 認知症の進行や、夜間の不安が強くなっている可能性があるため。
- 遠吠え以外の異常行動: 徘徊、壁に頭を押し付ける、ぼーっとしているなど、普段と明らかに異なる行動が見られる場合。
これらのサインは、犬が何らかの身体的・精神的な苦痛を抱えていることを示しているかもしれません。早期に獣医師の診察を受けることで、適切な治療やケアにつながります。
よくある質問
犬の遠吠えについて、飼い主さんからよくある質問とその回答をまとめました。
Q1: 犬の遠吠えは放置しても大丈夫ですか?
A: 遠吠えの理由にもよります。本能的な行動や、一時的な音への反応であれば、すぐに問題になることは少ないかもしれません。
しかし、不安、ストレス、痛み、病気が原因である場合は、放置すると犬の心身に悪影響を及ぼす可能性があります。
また、近所迷惑になることも考えられるため、原因を特定し、適切な対処をすることが大切です。
Q2: 子犬も遠吠えしますか?
A: はい、子犬も遠吠えをすることがあります。特に、親兄弟と離れて寂しい時や、新しい環境に慣れていない時に不安から遠吠えすることが多いです。
また、甘えたい気持ちや、飼い主さんを呼ぶための遠吠えをすることもあります。
子犬の場合、早期に適切なトレーニングを行うことで、問題行動への発展を防ぐことができます。
Q3: 遠吠えしている犬を叱ってもいいですか?
A: 感情的に叱るのは避けるべきです。
犬はなぜ叱られているのかを理解できず、かえって飼い主さんへの不信感を抱いたり、不安を増大させたりする可能性があります。
特に、不安や痛みからくる遠吠えを叱ると、犬はさらにストレスを感じてしまいます。
大切なのは、遠吠えの原因を見極め、それに応じた適切な対処法を行うことです。
Q4: 遠吠えのしつけは、どんな犬でも効果がありますか?
A: 適切な方法で行えば、多くの犬に効果が期待できます。しかし、犬の性格、年齢、遠吠えの原因、これまでの学習経験などによって、効果が出るまでの期間や難易度は異なります。
根気強く、一貫した態度でトレーニングを続けることが重要です。
もし、自分での対処が難しいと感じたら、動物行動学に詳しい獣医師やドッグトレーナーに相談することをおすすめします。
Q5: 留守番中の遠吠えが心配です。対策はありますか?
A: 留守番中の遠吠えは、分離不安や退屈が原因であることが多いです。
対策としては、安心できる環境づくり(クレートトレーニング、飼い主さんの匂いのついたものを用意するなど)、十分な運動と刺激(お出かけ前に散歩や遊びでエネルギーを発散させる、知育玩具を与えるなど)、そして外出時のルーティンの工夫(静かに家を出る、帰宅時もすぐに構わないなど)が挙げられます。
状況が改善しない場合は、獣医師や専門家のアドバイスを受けましょう。
まとめ
犬の遠吠えは、一見「困った行動」に見えるかもしれませんが、そのほとんどが愛犬からの「気持ちのサイン」です。
「どうしてかな?」と一歩立ち止まって、その背景にある理由を理解しようとすることが、愛犬との信頼関係を深める第一歩になります。
日々の観察を通して、遠吠えがどのような状況で起こるのか、他に体調の変化がないかなどを注意深く見守りましょう。
少しの工夫や、適切な対応、そして必要であれば専門家の助けを借りることで、愛犬も飼い主さんも安心して暮らせるようになるはずです。
もし「もしかしてうちの子も?」と感じたら、ぜひ今日からできることを一つ試してみてくださいね。
愛犬が「わかってくれる存在」がそばにいると感じることが、何よりの安心材料となるでしょう。