「うちの犬、あまり水を飲まない日があるけど、大丈夫かな?」
「急に水をまったく飲まなくなった。もしかして病気?」
愛犬の飲水量について不安を感じる飼い主さんは少なくありません。朝起きた時や散歩の後など、決まったタイミングで水を飲む犬もいれば、あまり水を飲まない子もいます。
しかし、犬にとって水は、生命を維持し健康な毎日を送るために欠かせないものです。体内の水分量が不足すると、さまざまな体調不良や深刻な病気を引き起こす可能性があります。
愛犬が水を飲まない原因は、老化や水飲み場の問題といった比較的軽度なものから、ストレス、さらには重篤な病気が隠れているケースまで多岐にわたります。
この記事では、愛犬が水を飲まない時に考えられる主な理由、水分不足が引き起こす健康リスク、脱水症状の具体的なサイン、そして愛犬の健康状態を把握するための1日の適切な水分摂取量の目安について、獣医領域の専門家が詳しく解説します。愛犬の飲水量と健康状態を見極めるヒントを見つけていきましょう。
この記事を読むとわかること
- 犬が水を飲まない時に考えられる主な原因(老化、病気、ストレス、環境など)
- 水分不足が愛犬の体に及ぼす深刻なリスクと脱水症状の具体的なサイン
- 犬の1日の適切な水分摂取量の目安と、飲みすぎの注意点
- すぐに動物病院を受診すべき緊急性の高い症状
犬が水を飲まない主な原因と健康への影響
愛犬が水を飲まない、または飲む量が減った場合、その背後には様々な理由が隠されています。原因を正しく理解することが、適切な対応に繋がります。
1. 老化による変化
犬も人間と同じように、加齢とともに体の機能が変化します。これが飲水量に影響を与えることがあります。
- 活動量の低下と必要水分量の減少:
老犬になると活動量が減り、基礎代謝も低下します。それに伴い、体内で消費される水分量も少なくなるため、自然と喉の渇きを感じにくくなり、必要な水分量自体が減る傾向にあります。 - 渇感(のどの渇きを感じる感覚)の低下:
加齢によって、脳の喉の渇きを感じる機能が鈍くなることがあります。これにより、体が水分不足の状態であっても、水を飲むという行動に繋がりにくくなることがあります。 - 関節の痛みなどによる飲水姿勢の困難:
関節炎などで体が痛む場合、頭を下げて水を飲む姿勢が辛く、飲水をためらうことがあります。
2. 体調不良や病気
犬が水を飲まない場合、体調不良や何らかの病気が原因である可能性も高く、特に注意が必要です。
- 口内の痛み・不快感:
- 歯周病、口内炎: 口の中に痛みや炎症があると、水を飲む際に不快感を感じ、飲水を避けるようになります。
- 歯の破折(はせつ): 歯が折れたり欠けたりしていると、水がしみて痛むことがあります。
- 消化器系の問題:
- 胃腸炎、嘔吐、下痢: 体調が悪く、吐き気や下痢がある場合、食欲だけでなく飲水欲も低下することがあります。しかし、これらの症状は脱水を招くため、水分摂取はより重要になります。
- 全身性の病気:
- 腎臓病、糖尿病: これらの病気は、通常は多飲多尿(水をたくさん飲み、おしっこもたくさん出る)になることが多いですが、病状が進行したり、著しい脱水が進んだりすると、かえって水を飲まなくなることがあります。
- 発熱: 体調が悪く、発熱していると元気や食欲が低下し、水を飲まなくなることがあります。
- 癌などの重篤な病気: 全身状態の悪化により、飲水行動が困難になることがあります。
- 薬の副作用:
特定の薬の副作用として、喉の渇きを感じにくくなったり、食欲・飲水欲が低下したりすることがあります。
3. 水飲み場や飲み水に問題がある場合
比較的軽度な原因ですが、愛犬が水を飲まない理由として非常に多く見られます。
- 水の種類や鮮度:
- 塩素の匂い: 水道水の塩素臭を嫌がる犬もいます。
- 古い水、汚れた水: 水が長時間置きっぱなしで古くなったり、器が汚れていたりすると、雑菌が繁殖したり匂いが気になったりして飲まなくなることがあります。
- 水の温度: 冷たすぎる水や、逆にぬるすぎる水を嫌がることがあります。犬は少し冷たい水を好む傾向があります。
- 器の素材や形:
- プラスチック、ステンレス、陶器など、器の素材によって口当たりや匂いが異なり、好みが分かれることがあります。プラスチックの器は匂いがつきやすい傾向があります。
- ヒゲが当たるのを嫌がる犬には、口が広く浅い器が適しています。
- 水飲み場の位置:騒がしい場所、人通りの多い場所、トイレのすぐ近くなど、犬が落ち着いて水を飲めない環境にあると、飲水を避けるようになります。
4. 飲水量が十分だと感じている場合
犬によっては、見かけ上水をあまり飲んでいないように見えても、必要な水分量を満たしていることがあります。
- ウェットフード中心の食事:
ドライフードに比べてウェットフードは水分含有量が非常に高いため、食事から十分な水分を摂取しており、別途水を飲む量が減っているだけかもしれません。 - 活動量の少ない日:
雨の日で散歩に行かなかった、家でほとんど寝て過ごしたなど、活動量が少ない日は当然ながら必要な水分量も少なくなります。
5. ストレスや心理的な要因
環境の変化などによるストレスも、犬の飲水量に影響を与えることがあります。
- 環境の変化:
引っ越し、来客、家族構成の変化(新しいペットや赤ちゃんが来たなど)は、犬にとって大きなストレスとなり、食欲や飲水量の減少につながることがあります。 - 分離不安:
飼い主がいない時に水を飲まない、といった分離不安の症状として現れることもあります。 - 過去の嫌な経験:
水を飲んでいる最中に驚かされた、痛みを感じたなどの嫌な経験があると、水を飲むこと自体に抵抗を感じることがあります。
愛犬が水を飲まない理由を探る際は、これらの可能性を一つずつ検討し、愛犬の様子を注意深く観察することが重要です。
水を飲まないことで起こるリスクと脱水症状のサイン
犬が水を飲まない状態が続くと、体内で様々な問題が起こり、最終的には命に関わる危険性もあります。脱水症状のサインを早期に発見し、適切に対応することが重要です。
水分不足が引き起こす健康リスク
犬の体の約60〜70%は水分でできており、この水分は生命維持に不可欠な多くの役割を担っています。水分が不足すると、以下のような健康リスクが生じます。
- 脱水症状:体内の水分量が体重の5%失われると軽度の脱水症状が現れ、元気がなくなったり、ふらついたりするようになります。10%失われると重度の脱水症状で命に関わる危険性が出てきます。さらに水分量が減ると、臓器の機能不全を引き起こし、最悪の場合は死に至ります。
- 腎臓への負担:水分が不足すると、血液が濃くなり、腎臓は老廃物を排出するために多大な労力を必要とします。これにより腎臓に負担がかかり、腎臓病の悪化や急性腎不全を引き起こすリスクが高まります。
- 尿路疾患のリスク増大:尿量が減り、尿が濃縮されると、尿路結石(膀胱結石、尿道結石など)や膀胱炎、尿道炎などの尿路疾患になりやすくなります。これらは強い痛みを伴い、排尿困難を引き起こすこともあります。
- 便秘:体内の水分が不足すると、便から水分が過剰に吸収され、便が硬くなります。これにより便秘になりやすくなり、排便時に苦痛を伴うことがあります。
- 熱中症:体温調節のために水分は不可欠です。特に夏場など高温環境下では、水分不足は熱中症の危険性を大幅に高めます。
- 血液循環の悪化:血液中の水分が減ると、血液がドロドロになり、全身への酸素や栄養素の運搬が滞ります。これにより、臓器の機能低下や倦怠感を引き起こします。
脱水症状の具体的なサインと受診の目安
これらのさまざまなリスクを避けるには、愛犬の水分不足のサインをいち早く見つけ、体がダメージを受ける前に対応することです。以下のサインが見られる場合は、愛犬が水分不足の状態にある可能性が高いです。
- 皮膚の弾力性低下(スキンテスト):首の後ろや肩甲骨の間の皮膚を軽くつまんで持ち上げ、離してみてください。正常な状態であればすぐに元の位置に戻りますが、脱水している場合は元の位置に戻るまでに時間がかかります(5秒以上かかるようだと要注意)。皮膚が硬く、しわが寄ったままになることもあります。
- 鼻や舌、歯茎の乾燥・べたつき:通常、犬の鼻は少し湿っていますが、脱水すると鼻が乾燥してカサカサになります。また、舌や歯茎も乾いてべたつくようになります。歯茎を指で押してみて、白くなった部分がなかなか元のピンク色に戻らない場合も脱水のサインです。
- 尿の回数・量の減少、色の変化:脱水すると、体内の水分を温存しようとするため、尿の回数や量が減ります。また、尿の色がいつもより濃い黄色やオレンジ色になることがあります。
- 便の硬さ:水分が不足すると、便から水分が吸収されすぎて便が硬くなり、コロコロとしたり、排便時に苦しそうにしたりすることがあります。
- 目の状態の変化:目が窪んで見える、目やにが増える、涙が出にくくなるなどの症状が見られることがあります。
- 元気や食欲の低下:脱水が進行すると、元気がない、ぐったりしている、食欲がない、といった全身症状が現れます。散歩を嫌がる、遊びたがらないなどの行動変化もサインです。
- 嘔吐・下痢:これらの症状がある場合は、体内の水分が大量に失われている可能性があるため、特に注意が必要です。
もし、これらの症状が一つでも見られる場合は、水分不足の状態に陥っている可能性が高いため、早めに動物病院を受診することをおすすめします。特に、嘔吐や下痢を伴う場合、ぐったりしている場合、呼びかけに反応しないなど、重篤なサインが見られる場合は、迷わずすぐに動物病院へ連れて行きましょう。
犬の1日の水分摂取量の目安と飲水量の把握方法
愛犬が適切に水分を摂取できているかを知るために、1日の水分摂取量の目安を知っておくことは大切です。ただし、個体差が大きいため、あくまで参考として活用し、愛犬の様子を注意深く観察しましょう。
犬の1日の水分摂取量の目安
犬が1日に必要とする水分量の目安は、一般的に「体重(kg)×50〜70ml」とされています。
例:体重5kgの成犬の場合、250〜350ml/日
この計算式はあくまで目安であり、以下の要因によって必要な水分量は大きく変動します。
- 活動量: 運動量の多い犬はより多くの水分が必要です。
- 気温・湿度: 暑い日や湿度の高い日は、体温調節のために水分消費量が増加します。
- 食事内容: ウェットフード中心の食事であれば、ドライフード中心の食事よりも別途水を飲む量は少なくなります。
- 年齢: 子犬や授乳中の犬は、成犬よりも多くの水分を必要とすることがあります。老犬の場合は、活動量低下により必要量が減ることもあります。
- 健康状態: 発熱、下痢、嘔吐などがある場合は、より多くの水分が必要です。
愛犬の飲水量を把握する方法
「うちの子、どのくらい水を飲んでいるんだろう?」と疑問に思う飼い主さんも多いでしょう。愛犬の飲水量を把握するには、以下のような方法があります。
- 計量カップを活用する:朝、決まった量の水を器に入れ、翌朝残っている水の量を計量カップで測ることで、1日の飲水量を把握できます。毎日継続することで、愛犬の平均的な飲水量がわかります。
- 自動給水器の目盛りを利用する:自動給水器の中には、残量が一目でわかる目盛りがついているものもあります。定期的に補充する際に、どのくらい減っているかを確認することで、飲水量を把握できます。
- ウェットフードやスープの水分量も考慮する:ウェットフードを与えている場合は、そのパッケージに記載されている水分含有量を参考に、食事からの水分摂取量も考慮に入れましょう。ドライフードをふやかしている場合は、加えた水の量も計算に含めます。
もし、愛犬がこの目安量よりも極端に水を飲んでいない、または逆に飲みすぎていると感じたら、気になる症状がないか注意深く観察し、必要であれば獣医師に相談してください。
水を飲みすぎ(多飲)にも注意
愛犬の飲水量が、目安の「体重(kg)×100ml」以上になる場合は、「多飲」と判断されることがあります。例えば体重5kgであれば、1日に500ml以上水を飲んでいる場合は多飲の可能性があります。
多飲は、以下のような病気のサインであることがあります。
- 腎臓病
- 糖尿病
- クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)
- 甲状腺機能亢進症
- 子宮蓄膿症(メス犬の場合)
- 尿崩症
- 特定の薬剤の副作用(ステロイドなど)
水を異常に多く飲んでいると感じたら、それらの病気が隠れている可能性があるため、速やかに動物病院を受診しましょう。
よくある質問(Q&A)
Q1: 犬が水を飲まないとき、無理やり飲ませてもいいですか?
A1: 無理やり飲ませるのは、愛犬に精神的なストレスを与えたり、誤嚥(ごえん)のリスクを高めたりする可能性があるため、おすすめできません。まずは、飲み水の種類や器、水飲み場を変える、フードに水分を混ぜるなど、愛犬が自ら進んで飲めるような工夫を試みましょう。どうしても飲んでくれない場合は、脱水のサインがないか確認し、獣医師に相談してください。
Q2: 冷たい水の方が犬は好むと聞きましたが、どのくらいの温度が適切ですか?
A2: 一般的に、犬は人間が「少し冷たい」と感じる程度の水を好む傾向があります。冷たすぎるとお腹を壊す可能性もあるため、夏場は器に氷を1〜2個浮かべる程度が目安です。冬場は、常温の水で十分ですが、あまりにも冷え込む場合は、少しだけぬるま湯を混ぜてあげるのも良いでしょう。
Q3: 犬用のミルクやスポーツドリンクで水分補給できますか?
A3: 犬用のミルクやスポーツドリンクは、嗜好性が高く、水分補給に役立つ場合があります。特に食欲がない時や、病気回復期などには有効です。ただし、これらはあくまで補助的なものであり、常用するとカロリー過多になったり、特定の成分の過剰摂取になったりする可能性があります。必ず「犬用」と表示されたものを与え、与えすぎには注意し、獣医師に相談してから使用することをおすすめします。人間のミルクやスポーツドリンクは、犬には不向きですので絶対に与えないでください。
Q4: 多頭飼いの場合、それぞれが水を飲めているかどうかがわかりにくいです。どうすればいいですか?
A4: 多頭飼いの場合、個々の飲水量を把握するのは難しいことがあります。対策としては、
- 複数の水飲み場を設置する: それぞれの犬がお気に入りの場所で自由に飲めるようにします。
- 異なる器を使用する: 素材や色を変えることで、どの犬がどの器で飲んだか把握しやすくなります。
- 自動給水器を活用する: 一定量の水を常に供給してくれるため、全体的な消費量は把握しやすくなります。
- 観察を強化する: 特に注意が必要な犬がいれば、特定の時間帯に個別に飲水させるなどの工夫も考えられます。
いずれにしても、各犬の健康状態を個別に注意深く観察することが重要です。
Q5: 旅行中など、環境が変わると水を飲まなくなることがあります。どうすればいいですか?
A5: 環境の変化は犬にとってストレスになることがあり、飲水量の減少につながることがあります。旅行先でも安心して水を飲んでもらうために、
- 普段使っている水飲み器を持参する: 慣れた匂いや感触で安心感を与えられます。
- 普段与えている水(例:浄水器の水)を持参する: 水道水が変わると飲まなくなる犬もいます。
- 水分量の多い食事を準備する: ウェットフードやふやかしたフードなど、食事から水分を補給できるようにしましょう。
- 落ち着ける場所を確保する: 人通りや物音の少ない、安心できる場所に水飲み場を設置しましょう。
無理に飲ませようとせず、愛犬が落ち着いて飲める環境を整えることが大切です。
まとめ
愛犬が水を飲まない時、その理由は様々です。老化による変化、水飲み場や水の好みの問題、そしてストレス、さらには深刻な病気が隠れている可能性も考えられます。
水分は犬の生命維持に不可欠であり、不足すると脱水症状をはじめ、腎臓病や尿路結石、熱中症など、様々な健康リスクが高まります。日頃から愛犬の飲水量を把握し、皮膚の弾力性、歯茎の湿り気、尿の状態など、脱水症状のサインを見逃さないように注意しましょう。
もし愛犬の飲水量が極端に少ない、あるいは脱水症状のサインが見られる場合は、自己判断せずに速やかに動物病院を受診してください。早期の診断と治療が、愛犬の健康と命を守ることに繋がります。
愛犬がいつでも新鮮な水を安全に飲める環境を整え、健康で快適な毎日を過ごせるよう、飼い主としてできることを一緒に実践していきましょう。