犬のニオイはなぜする?【獣医師が解説】考えられる7つの原因と病気のサインの見分け方

愛犬と暮らしていると、ふとした瞬間に「あれ、なんだか臭うな」と感じることはありませんか?シャンプーしたばかりなのに、なぜか独特のニオイがする…その原因が何なのか、気になっている飼い主さんは多いでしょう。

犬のニオイは、単に不衛生だからというわけではなく、犬自身の生理現象や、時には体調不良を知らせる重要なサインである場合もあります。

この記事では、「犬のニオイはなぜするのか?」という根本的な疑問に、獣医師が専門的な視点から分かりやすくお答えします。ニオイの原因を知ることで、愛犬の健康管理に役立てていきましょう。

 

この記事でわかること
  • 犬特有のニオイが発生する基本的な仕組み
  • 考えられる7つの主なニオイの原因(生理現象から病気まで)
  • 「いつもと違うニオイ」で気づける病気の危険なサイン
  • 犬のニオイに関するよくある疑問と回答

 

まず理解しよう!犬特有のニオイが発生する基本メカニズム

 

犬のニオイの主な原因は、皮膚から分泌される「皮脂」です。犬の皮膚は人間よりも薄くデリケートですが、その表面は皮脂によって作られた保護膜で覆われ、乾燥や外部の刺激から守られています。

この皮脂を分泌するのが、毛穴の根元にある「脂腺(しせん)」と、全身に分布する「アポクリン汗腺」です。

  • アポクリン汗腺:人間ではワキの下などにしかない汗腺ですが、犬は全身に存在します。ここから出る分泌物が、その子特有のニオイのもとになります。
  • 脂腺(皮脂腺):アポクリン汗腺とつながっており、分泌物と一緒に皮脂を出します。

分泌されたばかりの皮脂や分泌物はほとんど無臭ですが、時間とともに皮膚の常在菌によって分解されたり、空気中の酸素で酸化したりすることで、あの独特な“犬臭さ”が発生するのです。これは、犬が健康な皮膚を保つために必要な、ごく自然な生理現象です。

 

雨に濡れると特に臭くなるのはなぜ?

雨などで体が濡れると、皮膚の水分が蒸発する際に、ニオイの原因物質も一緒に気化して拡散されます。さらに、湿った環境は細菌が繁殖しやすいため、ニオイがより一層強くなるのです。

 

そのニオイ、どこから?考えられる7つの原因

 

犬のニオイは、生理的な皮脂だけが原因ではありません。体の様々な部位から発生し、それぞれに特有の原因が隠されています。

 

原因① 皮膚:ベタつく脂っぽいニオイ

皮膚は最も一般的なニオイの発生源です。アレルギーやホルモンバランスの乱れなどで皮脂が過剰になると、細菌やマラセチア(酵母菌の一種)が異常繁殖し、ニオイが強くなります。
関連する病気:脂漏症(しろうしょう)、アレルギー性皮膚炎、膿皮症、マラセチア皮膚炎など。

 

原因② 口:生臭い・腐ったようなニオイ

顔を近づけたときに口から不快なニオイがする場合、そのほとんどは歯周病が原因です。歯に付着した歯垢(プラーク)の中で細菌が繁殖し、生ゴミのような悪臭を放ちます。
関連する病気:歯周病、歯肉炎、口腔内腫瘍など。

 

原因③ 耳:酸っぱい・甘ったるいニオイ

耳を頻繁に掻いたり、頭を振ったりする仕草と共に、耳の奥から酸っぱいような、あるいは甘ったるいようなニオイがしたら外耳炎のサインです。垂れ耳の犬種は耳の中が蒸れやすく、特に注意が必要です。
関連する病気:細菌性外耳炎、マラセチア性外耳炎、耳ダニ感染症など。

 

原因④ 肛門腺:魚が腐ったような強烈なニオイ

犬のお尻の左右には、強いニオイの分泌物を溜める「肛門腺」という袋があります。通常は排便時に一緒に排出されますが、溜まりすぎると、ふとした瞬間に漏れ出て強烈な悪臭を放ちます。お尻を床にこすりつける「お尻歩き」は、肛門腺が溜まっているサインの一つです。
関連する病気:肛門腺炎、肛門腺破裂など。

 

原因⑤ 涙やけ:鉄っぽい・発酵したようなニオイ

目の周りの毛が常に涙で濡れている「涙やけ」。この湿った環境で細菌が繁殖すると、鉄サビのような、あるいは発酵したような独特のニオイを放つことがあります。
関連する病気:流涙症、鼻涙管閉塞、眼瞼内反症など。

 

原因⑥ 食事や腸内環境:便のニオイや体臭の変化

ドッグフードが体質に合っていないと、消化不良を起こして腸内環境が悪化し、おならや便が臭くなるだけでなく、体臭そのものに影響を与えることがあります。質の悪い油分が多いフードも皮脂の酸化を招き、ニオイの原因になります。

 

原因⑦ 加齢:独特の油っぽいニオイ

シニア犬になると、人間と同じように新陳代謝が低下します。これにより皮膚のターンオーバーが遅くなり、古い皮脂が酸化しやすくなるため、「加齢臭」と呼ばれる独特の油っぽいニオイが出やすくなります。

 

いつもと違うニオイは病気のサインかも?病院へ行くべきニオイの種類

 

「なぜか臭う」と感じた時、それが単なる生理現象なのか、病気のサインなのかを見分けることが重要です。以下のような「いつもと違うニオイ」に気づいたら、早めに動物病院を受診しましょう。

  • アンモニア臭(ツンとする刺激臭)
    口や体からアンモニアのようなニオイがする場合、尿をうまく排出できていない腎臓病や尿毒症の可能性があります。
  • 甘酸っぱいニオイ(アセトン臭)
    果物が腐ったような、あるいは除光液のような甘酸っぱいニオイは、糖尿病が進行してケトアシドーシスという危険な状態に陥っているサインかもしれません。
  • 急に強くなった口臭・腐敗臭
    単なる歯周病だけでなく、口腔内の腫瘍が壊死(えし)を起こしている可能性も考えられます。
  • 膿のような生臭いニオイ
    皮膚から膿のニオイがする場合は重度の皮膚感染症が、避妊手術をしていないメス犬の陰部からであれば子宮蓄膿症という命に関わる病気の可能性があります。

 

犬のニオイに関するよくある質問(Q&A)

 

Q1. シャンプーしてもすぐ臭くなるのはなぜですか?

A1. いくつか原因が考えられます。シャンプー後のドライが不十分で、生乾きの状態から雑菌が繁殖しているケースが非常に多いです。また、皮膚病(特に脂漏症)が隠れていて皮脂の分泌が過剰になっている可能性もあります。シャンプーの頻度や種類が合っていないことも考えられるため、一度獣医師に相談することをおすすめします。

 

Q2. 子犬でも体臭はありますか?

A2. はい、子犬にも特有の体臭があります。「パピー臭」などと呼ばれ、成犬とは違う甘いような匂いがすることがあります。これは健康な子犬の正常なニオイです。ただし、下痢をしている、皮膚が赤いなど他の症状と共に不快なニオイがする場合は、何らかのトラブルが考えられます。

 

Q3. 特定の犬種は臭いやすいと聞きましたが本当ですか?

A3. はい、犬種によってニオイが出やすい傾向はあります。シーズーやコッカー・スパニエルなどの皮脂分泌が多い犬種や、パグやフレンチ・ブルドッグなど皮膚のシワが多い犬種、ダックスフンドなどの垂れ耳の犬種は、構造的に汚れや湿気が溜まりやすく、ニオイが発生しやすいと言えます。

 

まとめ:ニオイは愛犬の健康を映す鏡

 

「犬のニオイはなぜするのか?」という疑問について、その仕組みから具体的な原因まで解説しました。

犬のニオイは、健康な証である生理現象の場合もあれば、体調の変化を知らせるサインでもあります。いわば「愛犬の健康状態を映す鏡」のようなものです。

日頃から愛犬の体を撫でたり、口や耳の中をチェックしたりする習慣をつけ、「いつものニオイ」を把握しておくことが大切です。そして、「あれ?」と少しでも違和感を覚えたら、この記事を参考に原因を探り、迷わず動物病院に相談してください。ニオイの変化にいち早く気づくことが、愛犬の健康を守る第一歩です。

 

 

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