「ピンポーン♪」
玄関のチャイムが鳴った瞬間、愛犬が猛然と吠え立てる。
「ごはんの準備を始めると、足元でワンワン!」
「散歩中、他の犬を見かけるたびに、リードを引っ張って吠えかかってしまう…」
愛犬との暮らしはかけがえのないものですが、こうした「無駄吠え」に頭を悩ませている飼い主さんは、決して少なくありません。
ある調査では、犬を飼っている人の約8割がしつけに悩んだ経験があり、その中でも「吠え」は「トイレ」に次いで2番目に多い悩みとなっています1。
また、別の調査では、飼い主の約半数が愛犬の鳴き声に困った経験があると回答しています 3。
「ご近所の目が気になる…」
「どうしてうちの子だけ?」
「しつけが間違っているのかな…」
そんな不安や焦りから、つい「静かにしなさい!」と大きな声で叱ってしまうこともあるかもしれません。しかし、その対応が、かえって問題を悪化させているとしたら…?
実は、専門家の間では「犬にとって、完全に“無駄”な吠えは存在しない」というのが共通認識です 4。犬は、理由なく吠えているわけではありません。吠えは、彼らにとって大切なコミュニケーション手段。その声の裏には、喜び、不安、恐怖、警戒心など、様々な「気持ち」が隠されています。
この記事では、「無駄吠え」というレッテルを一度横に置き、愛犬が送るメッセージを正しく理解するための方法を、専門的な知見と具体的な事例を交えながら、どこよりも分かりやすく解説します。
この記事を最後まで読めば、あなたは…
- 愛犬がなぜ吠えるのか、その本当の理由がわかるようになります。
- 吠えに隠されたストレスサインを見抜けるようになります。
- 叱るのではなく、原因に合わせた正しい対処法を身につけられます。
- 愛犬との信頼関係を深め、穏やかで楽しい毎日を取り戻すことができます。
さあ、愛犬との「対話」を始める準備はできましたか?
第1章:あなたの愛犬はどのタイプ?吠える裏に隠された5つの本当の理由

犬の吠えは、すべて同じではありません。状況や声のトーンによって、その意味は大きく異なります。まずは、あなたの愛犬がどの理由で吠えているのか、じっくり観察してみましょう。
1. 警戒・縄張り意識:「ボクが家族を守るんだ!」
- よくある状況: 玄関のチャイム、来客、家の前を通る人や車、聞き慣れない物音
- 声の特徴: 低く、力強い吠え声が多い 4
- 犬の気持ち: 「怪しいヤツが来たぞ!」「ここはボクたちの縄張りだ!」
これは、犬が持つ最も本能的な吠えの一つです。犬は古くから、群れや縄張りを外敵から守る「番犬」としての役割を担ってきました 7。見知らぬ人や物音を「侵入者」とみなし、家族(群れの仲間)に危険を知らせ、追い払おうとして吠えるのです 9。
【事例】柴犬まる君(3歳)の場合
まる君は、宅配便の配達員さんが来ると、窓際まで走っていき、尻尾を立てて激しく吠え続けます。配達員さんが去っていくと、まる君は吠えるのをやめ、どこか得意気な顔。まる君の中では「ボクが吠えて、怪しい人を追い払ってやったぞ!」という成功体験が積み重なり、チャイムが鳴るたびに番犬スイッチが入ってしまうのです 10。
このタイプの吠えは、犬自身の経験によって強化されやすいのが特徴です。犬が吠える→対象(配達員など)が去る→「吠えたら追い払えた!」と学習する、というサイクルが生まれてしまいます 10。
2. 要求:「ねぇ、早く!お願い!」
- よくある状況: ごはんの準備中、散歩の時間、ケージから出してほしい時、飼い主が電話中など
- 声の特徴: 比較的甲高く、繰り返されることが多い 11
- 犬の気持ち: 「ごはんまだ?」「遊んで!」「出して!」
「吠えれば、良いことがある」と犬が学習してしまった結果、起こるのが要求吠えです 9。実はこの行動、飼い主さんが無意識のうちに教えてしまっているケースがほとんど。
【事例】トイプードルのココちゃん(1歳)の場合
ココちゃんは、飼い主さんがごはんの準備を始めると、キッチンで足元をクルクル回りながら「キャンキャン!」と吠え始めます。飼い主さんは「はいはい、今あげるからね」と言いながら、吠えているココちゃんにごはんをあげていました。この瞬間、ココちゃんは「吠えれば、ごはんがもらえる!」と学習してしまったのです 12。
吠えているのを静かにさせたくて、おやつをあげたり、遊んであげたり、あるいは「静かに!」と叱ったりすることさえ、犬にとっては「注目してもらえた!」というご褒美になり、要求吠えを強化してしまいます 14。
3. 恐怖・不安:「こわいよ!あっちへ行って!」
- よくある状況: 散歩中に他の犬や人に会った時、掃除機、雷、花火の音、動物病院など
- 声の特徴: 甲高い声や、唸り声が混じることもある 4
- 犬の気持ち: 「それ以上こっちに来ないで!」「この音が怖い!」
犬が自分にとって脅威だと感じる対象に対し、自分を守るために吠えることがあります 17。これは攻撃したいのではなく、「怖いから、距離をとってほしい」という防衛的な気持ちの表れです 5。
【事例】保護犬のソラ君(推定5歳)の場合
ソラ君は、散歩中に前から他の犬がやってくると、急に立ち止まり、体をこわばらせて吠え始めます。飼い主さんは恥ずかしくて、リードをぐいっと引っ張り「ダメでしょ!」と叱っていましたが、ソラ君の吠えはひどくなるばかり。実はソラ君は、怖い対象から逃げられない状況でさらに叱られることで、恐怖心が増幅してしまっていたのです 4。
特に、子犬の頃の「社会化期」に様々な人や音、環境に良い形で触れ合う経験が少ないと、成犬になってから恐怖による吠えが出やすくなります 4。このタイプの吠えに対して叱ることは、犬の不安を煽るだけで逆効果です 4。
4. 興奮・喜び:「うれしい!楽しい!大好き!」
- よくある状況: 飼い主の帰宅時、散歩に行く前、おもちゃで遊んでいる時、好きな人が来た時
- 声の特徴: 高く、弾むような声 3
- 犬の気持ち: 「おかえり!」「やったー!」「もっと遊ぼう!」
これはポジティブな感情の表れで、挨拶や遊びへの誘い、有り余るエネルギーの発散です 9。尻尾を大きく振ったり、体をくねらせたり、「プレイバウ(お辞儀のポーズ)」といった楽しそうなボディランゲージを伴うことが多いです 10。
【事例】ゴールデンレトリバーのルーク君(2歳)の場合
家族が帰宅すると、ルーク君は玄関まで全力疾走し、尻尾をちぎれんばかりに振りながら「ワンワン!」と大歓迎。嬉しさのあまりジャンプしたり、甘噛みしたりすることも。これは純粋な喜びの表現ですが、興奮レベルが上がりすぎると、飼い主の「おすわり」などの指示が耳に入らなくなり、思わぬ事故につながる可能性もあります 18。
喜びの表現自体は問題ありませんが、興奮を適切にコントロールできるよう導いてあげることが大切です。
5. 分離不安・孤独:「ひとりにしないで!どこへ行くの?」
- よくある状況: 飼い主が外出する準備を始めた時、留守番中
- 声の特徴: 甲高く、悲痛な遠吠えや鳴き声が続く 6
- 犬の気持ち: 「行かないで!」「助けて!」「パニック!」
これは単なる寂しがりや、わがままではありません。愛着のある飼い主さんから離れることへの極度の恐怖やパニック反応で、治療が必要な場合もある深刻な状態です 21。
この吠えは、多くの場合、以下のような他のサインを伴います。
- ドアや窓など出口付近を引っ掻いたり噛んだりする破壊行動 21
- トイレ以外の場所での粗相 21
- 落ち着きなくうろうろ歩き回る
- よだれを大量に垂らす 21
【事例】コロナ禍をきっかけに家族になったミックス犬のハナちゃん(4歳)の場合
飼い主さんの在宅勤務中はいつも一緒だったハナちゃん。しかし、出社が再開されると、留守番中に吠え続けるようになりました。帰宅すると、玄関のドアは傷だらけ、クッションは破かれ、トイレも失敗…。これは、飼い主さんへの当てつけではなく、一人にされることへの耐え難い苦痛の表れなのです 22。
生活環境の急な変化(引っ越し、家族構成の変化、飼い主の就労形態の変更など)が引き金になることもあります 24。
複数の気持ちが混ざっていることも
犬の吠えは、必ずしも一つの理由に断定できるわけではありません。例えば、来客時の吠えは、「縄張りを守る」という警戒心と、「知らない人が怖い」という恐怖心、そして「大好きな〇〇さんが来た!」という興奮が複雑に絡み合っている可能性があります 18。だからこそ、吠え声だけでなく、次章で解説する「声にならないサイン」にも目を向けることが、愛犬の心を深く理解する鍵となるのです。
第2章:声にならないサインを見逃さないで!犬のストレスシグナルを読み解く

犬は吠える前に、体を使ってたくさんのサインを送っています。これらは「カーミングシグナル」と呼ばれ、自分自身や相手を落ち着かせ、争いを避けようとするための平和的なボディランゲージです 25。これらの小さなSOSに気づくことができれば、吠えに発展する前に対処できるかもしれません。
静かなる対話:「カーミングシグナル」を覚えよう
愛犬が以下のような仕草を見せたら、それは「ちょっと今、緊張してるんだ」「これ以上は嫌だな」というサインかもしれません。
【図解】犬の主なカーミングシグナル

これらのサインは、犬がストレスを感じ始めた初期段階の重要な手がかりです 26。
体が示すSOS:ストレスレベルの見極め方
カーミングシグナルが無視され、ストレスがさらに強くなると、より分かりやすい身体的なサインが現れます。愛犬の状態を正しく把握するために、ストレスのレベルを3段階で見ていきましょう。
【表】ストレスレベル別・犬のボディランゲージ
| 体の部位 | 低ストレス(ちょっと不安) | 中ストレス(怖い!) | 高ストレス(パニック!) |
| 尻尾 | 自然な位置より少し下がる | 低い位置で固まる、または足の間に巻き込む 32 | 固く巻き込まれたまま動かない |
| 耳 | 少し後ろに引かれる | 後ろにぴったりと倒れる 33 | 頭に張り付くように倒れる |
| 体 | 少し身をかがめる | 姿勢を低くし、腰が引ける 35 | 震えが止まらない、うずくまる |
| 口 | 口を固く閉じる、あくび、鼻を舐める | 唇をきつく引き、歯を少し見せる、ハァハァと浅く速い呼吸(パンティング)33 | よだれが大量に出る、歯をむき出しにする |
| 目 | 目をそらす、まばたきが増える | 白目が見える(ホエールアイ)、瞳孔が開く 38 | パニック状態で見開く、一点を見つめる |
| 行動 | 地面の匂いを嗅ぐ、体を掻く | 隠れようとする、逃げようとする、吠える 39 | 破壊行動、粗相、自傷行為(体を舐め続けるなど)33 |
【事例】動物病院の待合室でのチワワのモカちゃん
待合室に入ったモカちゃんは、まず鼻をぺろっと舐めました(低ストレス)。他の犬の鳴き声が聞こえると、尻尾を足の間に巻き込み、小刻みに震え始めました(中ストレス)。診察室に呼ばれ、獣医師が近づくと、歯をむき出しにして「ウーッ」と唸り始めました(高ストレス)。
このように、犬のストレスは段階的にエスカレートします。低いレベルのサインに気づき、ストレスの原因から遠ざけてあげる(例:待合室の外で待つ)ことが、唸ったり吠えたりする前の一番の対策になるのです。
第3章:【原因別】今日からできる!吠えを減らすための具体的な7つのステップ

愛犬が吠える理由とストレスサインが分かったら、いよいよ実践です。ここでは、原因別に具体的な対処法を7つのステップで紹介します。大切なのは、家族全員でルールを統一し、根気強く続けることです 4。
対策1:【警戒吠え】「大丈夫だよ」を教える環境づくり
チャイムや来客への吠えは、多くの飼い主さんの悩み。ポイントは「警戒する必要がない」と犬に教えてあげることです。
- ステップ① 刺激を減らす
- 外が見える窓に目隠しシートを貼る、カーテンを閉めるなどして、犬が通行人などに反応する機会を減らします 41。
- 犬の寝床やケージを、玄関や窓から離れた静かな場所に移動させましょう 10。
- ステップ② 音に慣らす練習(チャイム編)
- 家族に協力してもらい、まずは一番小さい音量でチャイムを鳴らしてもらいます。
- 犬が吠える前に、「いい子だね!」と褒めて、特別なおやつをあげます 14。
- 吠えずにいられたら、少しずつ音量を上げていき、これを繰り返します。
- もし吠えてしまったら、音量を一段階前に戻します。焦らず、ゆっくり進めるのがコツです 14。
- この練習で、「チャイムが鳴る=大好きなおやつがもらえる!」という楽しい経験に上書きしていきます 46。
- ステップ③ 散歩中のすれ違い
- 他の犬や人が苦手な場合は、無理に近づけず、吠えずにいられる距離を保ちましょう 4。
- 相手が見えたら、吠える前におやつを見せて飼い主さんに注目させ、すれ違う間、褒めながらおやつを与え続けます 2。
- 「他の犬=怖いもの」から「他の犬が見えると、飼い主さんがおやつをくれる=嬉しいこと」へと印象を変えていきます 47。
対策2:【要求吠え】「静かにしていると良いことがある」と教える
要求吠えの対策は、心を鬼にして「無視」すること。しかし、ただ無視するだけではうまくいきません。正しい方法を学びましょう。
- ステップ① 徹底した「無視」を貫く
- 犬が要求して吠え始めたら、一切反応しません。目を合わせない、話しかけない、体に触れない。まるで犬がそこにいないかのように振る舞います 48。
- 注意点:消去バースト
無視を始めると、犬は「あれ?いつもの手で通じないぞ?もっと頑張らなきゃ!」と、一時的に吠えが激しくなることがあります。これを「消去バースト」と呼びます 14。ここで根負けして要求に応えてしまうと、「前より激しく吠えれば願いが叶う」と学習してしまい、逆効果です 15。一番つらい時期ですが、ここが踏ん張りどころです。
- ステップ② 静かになった瞬間を逃さず褒める
- 犬が吠えるのを諦め、一瞬でも静かになったタイミングで、「そう、いい子!」と優しく褒め、要求に応えてあげます(例:ケージから出す、遊んであげる)50。
- 息継ぎの一瞬でも構いません。「吠え止んだら、良いことが起きた」という経験を積ませることが重要です 50。
- ステップ③ 吠える以外の要求方法を教える
- 「吠える」の代わりに、「おすわり」や「アイコンタクト」をしたら要求が通る、という新しいルールを教えます 40。
- 例えば、ごはんの前に吠えそうになったら、すかさず「おすわり」と指示を出し、できたら褒めてごはんをあげます。「おすわりして静かに待っていると、ごはんがもらえる」と学習させていきましょう 54。
対策3:【恐怖・不安吠え】「ここは安全だよ」と伝える
怖いと感じている犬に必要なのは、しつけよりもまず「安心感」です。
- ステップ① 叱らず、まず避難
- 犬が怖がっている対象(他の犬、大きな音など)から、すぐにその場を離れ、安心できる距離をとってあげましょう 16。逃げ場がないと感じると、犬の恐怖は倍増します 16。
- 絶対に叱らないでください 4。叱られることで、「怖いもの+飼い主にも怒られる」という二重の恐怖を味わい、状況は悪化するだけです。
- ステップ② 安心できる場所を提供する
- 家の中に、犬がいつでも隠れられる「安全基地」を用意してあげましょう。クレートやケージに布をかけて薄暗くしてあげると、落ち着きやすいです 41。
- 雷や花火など、予測できる大きな音がする場合は、事前にその場所に誘導し、長く楽しめるおやつなどを与えておくと効果的です 16。
対策4:【興奮吠え】落ち着かせる習慣をつける
喜びの表現も、度を越すと問題になることがあります。興奮のスイッチをコントロールする方法を教えましょう。
- ステップ① 飼い主がまず落ち着く
- 犬が興奮している時、飼い主が「まあまあ!」「落ち着いて!」と甲高い声で言ったり、慌てて動いたりすると、犬は「飼い主さんも興奮してる!もっと盛り上がろう!」と勘違いしてしまいます 56。
- 飼い主さんはどっしりと構え、低い声でゆっくりと話すことを心がけましょう 56。
- ステップ② 「おすわり」や「フセ」でクールダウン
- 興奮が高まってきたら、「おすわり」や「フセ」といった、静かな行動を指示します。一つの姿勢をとることで、犬は一呼吸おき、冷静さを取り戻しやすくなります 56。
- これができるように、普段から落ち着いている時に練習を重ねておくことが重要です 56。
- ステップ③ 遊びを一旦中断する
- おもちゃ遊びなどで興奮がピークに達する前に、「オシマイ」などの合図で遊びを一旦中断します 56。
- 犬が落ち着いたら、また遊びを再開します。これを繰り返すことで、「興奮しすぎると、楽しい遊びが終わっちゃう」と犬が学び、自分で興奮をコントロールできるようになります 56。
対策5:【分離不安】専門家への相談も視野に
分離不安は、飼い主さんの努力だけで改善するのが難しい場合も多い、デリケートな問題です。まずは愛犬の状態をチェックし、必要であれば専門家の助けを借りましょう。
- ステップ① 分離不安セルフチェック
以下の項目に複数当てはまる場合、分離不安の可能性があります。獣医師やドッグトレーナーなどへの相談を検討しましょう 23。
【外出後30分以内の行動】 23
- [ ] 吠えたり、遠吠えし続けたりする
- [ ] ドアや家具などを破壊する
- [ ] トイレ以外の場所で粗相をする
- [ ] 同じ場所を行ったり来たりする
- [ ] よだれが大量に出ている
- [ ] 自分の手足や尻尾など、体を執拗に舐めたり噛んだりする
- 【帰宅後の行動】 23
- [ ] 過剰に興奮して、なかなか落ち着かない
- [ ] 嬉しさのあまり失禁してしまう
- [ ] 家の中で常に飼い主の後をついて回る
- ステップ② 家庭でできる初期対応
専門家の指導と並行して、家庭でできることもあります。- 外出・帰宅時の対応を見直す: 出かける時に「いい子にしててね」と感傷的になったり、帰宅時に「ただいまー!」と大騒ぎしたりするのはやめましょう。過剰な演出は、留守番を「特別なこと」だと犬に意識させ、不安を煽ります。あくまでもさりげなく、事務的に出入りするのがポイントです 62。
- 短時間の留守番練習: まずはゴミ出しに行く数分間から始め、「飼い主さんは必ず帰ってくる」という安心感を育てます 22。犬が吠えずに待てたら、静かに褒めてあげましょう。決して吠えている最中に戻ってはいけません 22。徐々に時間を延ばしていきます。
- エネルギーを発散させる: 留守番の前に、散歩や遊びで適度に疲れさせてあげると、留守番中にリラックスして眠りやすくなります 43。
対策6:【共通】運動と知的刺激で心を満たす
どんなタイプの吠えにも共通して有効なのが、十分な運動と、頭を使う遊びです。エネルギーが有り余っていたり、退屈していたりすることが、吠えの根本的な原因になっていることは少なくありません 9。
- 散歩の時間を少し延ばす、ドッグランで思い切り走らせる。
- 家の中におやつを隠して探させる「ノーズワーク」を取り入れる。
- おやつを詰めて遊べる知育トイを与える 64。
心と体が満たされれば、犬は落ち着き、吠える必要性が減っていきます。
対策7:【共通】叱り方を見直す
吠えに対して、感情的に「うるさい!」と叫ぶのは逆効果です。犬は「飼い主さんも一緒に吠えてくれてる!」と勘違いしたり 56、恐怖を感じて余計に吠えたりします 4。
もし「ダメ」を伝えるなら、低く、短く、毅然とした声で一度だけ伝えます。そして、吠えるのをやめた瞬間に褒める。「ダメ」で終わりにするのではなく、「静かにしたら褒められる」というポジティブな学習につなげることが大切です 47。
第4章:それでも悩んだら… よくあるお悩みQ&A

ここでは、飼い主さんからよく寄せられる質問にお答えします。
Q1. 要求吠えに「無視」を試していますが、前よりひどくなりました。本当に効果はあるの?
A1. それは「消去バースト」と呼ばれる現象で、無視が効き始めている証拠かもしれません 14。犬が「もっと頑張れば要求が通るはず」と、一時的に行動をエスカレートさせている状態です。ここで諦めずに無視を貫くことができれば、やがて「吠えても無駄なんだ」と学習し、吠えは収まっていきます。ただし、警戒吠えや恐怖吠えに対して無視は効果がありません 52。まずは吠えの原因を正しく見極めることが重要です。あまりに長期間続く場合や、ご近所への迷惑が心配な場合は、ドッグトレーナーなどの専門家に相談しましょう。
Q2. 吠え防止の首輪(振動やスプレーが出るもの)は使ってもいいですか?
A2. これらのグッズは、犬に不快な刺激を与えることで行動を抑制しようとするものです。しかし、なぜ吠えているのかという根本的な原因を解決しない限り、本当の意味での改善にはつながりません。特に、恐怖や不安で吠えている犬に使うと、さらに強いストレスを与えてしまい、別の問題行動(攻撃的になる、体を舐め壊すなど)を引き起こす可能性があります 6。使用する前に、まずはこの記事で紹介したような、犬の気持ちに寄り添った方法を試してみてください。どうしても改善が難しい場合は、自己判断でグッズに頼るのではなく、まずは獣医師や専門家に行動の相談をすることをお勧めします 14。
Q3. うちの子だけがこんなに吠えるのでしょうか…?
A3. そんなことはありません。冒頭でも触れたように、飼い主の約半数が犬の鳴き声に悩み 3、
約4割が無駄吠えに悩んだ経験があるという調査結果があります 68。あなたは一人ではありません。多くの飼い主さんが、あなたと同じように悩み、試行錯誤しています。大切なのは、一人で抱え込まず、正しい知識を学び、時には専門家の力も借りながら、愛犬と向き合っていくことです。
まとめ:吠えは「終わり」ではなく、「対話」の始まり

愛犬の「無駄吠え」について、ここまでじっくりと考えてきました。
もうお分かりいただけたように、犬の吠えは、私たちを困らせるための単なる「騒音」ではありません。それは、愛犬が必死に送っている「心の声」であり、私たちとの「対話」のきっかけなのです。
- チャイムに吠えるのは、「家族を守りたい」という健気な気持ちの表れかもしれません。
- ごはんを催促するのは、「あなたにもらえるごはんが、何よりの楽しみなんだ」という愛情の裏返しかもしれません。
- 他の犬に吠えるのは、「本当は怖いんだ、助けて」というSOSかもしれません。
これまで「うるさい」と感じていたその声が、少し違って聞こえてきませんか?
もちろん、社会で共に暮らす以上、吠えを放置することはできません。しかし、その解決策は、声を力でねじ伏せることではないはずです。
- 観察する(見る): なぜ吠えているのか?どんな気持ちなのか?愛犬の行動とボディランゲージに注意深く目を向ける。
- 理解する(聞く): 吠えの裏にあるメッセージに耳を傾け、共感する。
- 応える(対話する): その気持ちに寄り添い、原因に合った正しい方法で「こうすれば大丈夫だよ」と教えてあげる。
このプロセスこそが、吠えの問題を根本から解決し、愛犬との絆をより一層深めるための唯一の道です。
時間はかかるかもしれません。時には根負けしそうになる日もあるでしょう。でも、焦らないでください。あなたの愛犬は、あなたを信頼し、理解しようと一生懸命です。
この記事が、あなたの愛犬の「声」に耳を澄まし、より深く、温かい対話を始めるための一助となれば、これほど嬉しいことはありません。
参考文献リスト
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