【獣医師監修】犬の目が白いのは白内障?原因、症状、治療法、費用まで徹底解説

「なんだか愛犬の目が白っぽくなった気がする…」
「最近、夜の散歩を嫌がったり、よく物にぶつかったりする…」

もし愛犬にそんな変化が見られたら、それは「白内障(はくないしょう)」のサインかもしれません。

犬の白内障は、進行すると失明に至る可能性のある病気です。しかし、早期に発見し、適切な対応をすることで、愛犬のQOL(生活の質)を維持することは十分に可能です。

 

この記事では、犬の白内障について、飼い主さんが知っておくべき情報を網羅的に解説します。

この記事でわかること

  • 犬の白内障がどんな病気なのか、そのメカニズム
  • 目が白く見える他の病気「核硬化症」との見分け方
  • 白内障の具体的な原因(遺伝、老化、病気など)
  • 見逃したくない初期症状から末期までの進行ステージ
  • 治療法の選択肢(点眼薬、サプリ、手術)と費用の目安
  • 白内障と診断された後の自宅でのケア方法

 

犬の白内障とは?水晶体が白く濁る目の病気

 

犬の白内障とは、目の中にある「水晶体」という組織が、何らかの原因で白く濁ってしまう病気です。

 

水晶体の役割と白内障のメカニズム

水晶体は、人間の眼でいうとカメラのレンズのような役割を担っています。透明な水晶体は、光を集めて厚みを変えることでピントを調節し、網膜(フィルムの役割)に鮮明な像を映し出しています。

しかし、白内障になると、この透明であるべき水晶体が白く濁ってしまいます。例えるなら、すりガラス越しに物を見ているような状態です。そのため、網膜にうまく光が届かなくなり、視力が徐々に低下していきます。進行すると、最終的には失明に至ることもあります。

 

【重要】白内障と間違えやすい「核硬化症」との違い

シニア犬の目が白っぽく見える場合、白内障ではなく「核硬化症(かくこうかしょう)」であるケースも非常に多いです。この二つは見た目が似ていますが、全く異なる状態です。

 

白内障核硬化症
原因水晶体のタンパク質が変性し、白く濁る(病気)水晶体が加齢により硬く、密度が高くなる(生理的な老化現象)
見た目白さがまだらだったり、部分的に濃かったりする。ビー玉のような濁り。全体的に青白く、均一に濁って見える。
視力への影響視力が低下し、進行すると失明する。視力への影響はほとんどない。(ピント調節機能はやや低下)
治療進行抑制の点眼薬や、視力回復のための外科手術が必要。基本的に治療は不要。

 

飼い主さんが見た目だけで判断するのは非常に困難です。目が白いと感じたら、自己判断せずに必ず動物病院で診察を受けましょう。

 

犬の白内障の主な原因

 

白内障の原因は一つではなく、様々です。大きく「遺伝性」のものと、生まれた後に何らかの原因で発症する「後天性」のものに分けられます。

 

遺伝性・若年性白内障

遺伝的な要因で、生まれつき、あるいは若いうちに発症する白内障です。6歳以下で発症した場合は「若年性白内障」とも呼ばれます。

遺伝性の場合、進行が非常に速いことが多く、わずか数週間〜数ヶ月で失明に至るケースも珍しくありません。

【遺伝的に白内障のリスクが高いとされる犬種】

  • トイ・プードル
  • ミニチュア・シュナウザー
  • 柴犬
  • シー・ズー
  • アメリカン・コッカー・スパニエル
  • ボストン・テリア
  • シベリアン・ハスキー
  • ミニチュア・ダックスフンド など

これらの犬種を飼っている場合は、若いうちから定期的に目のチェックをすることが重要です。

 

後天性白内障

生まれた後、何らかの原因によって発症する白内障です。

  • 加齢(老年性白内障)
    最も多い原因です。6歳頃から見られ始め、進行は比較的ゆっくりなことが多いです。
  • 糖尿病
    犬の白内障を引き起こす代表的な病気です。高血糖の状態が続くと水晶体に糖が蓄積し、急激に白内障が進行します。糖尿病の犬は、ほぼ100%白内障を合併すると言われており、非常に注意が必要です。
  • 目の外傷
    他の犬との喧嘩、物に目をぶつける、自分で目を掻き壊すなどのケガによって水晶体が傷つき、白内障を発症することがあります。
  • 他の目の病気
    緑内障(眼圧が上がる病気)や進行性網膜萎縮(網膜が機能しなくなる病気)、ぶどう膜炎(目の中の炎症)など、他の目の病気が原因で引き起こされることもあります。

 

【見逃さないで】犬の白内障の進行度と症状

 

白内障は進行性の病気です。初期段階では気づきにくいため、愛犬のささいな変化を見逃さないことが大切です。

 

初期症状:飼い主も気づきにくい変化

水晶体の一部が点状、あるいは線状に白く濁り始めます。この段階では視力への影響はほとんどなく、行動にも変化は見られないため、飼い主さんが気づくのは難しいかもしれません。

  • なんとなく瞳の奥が白っぽく見える
  • 明るい場所で目を細めることがある

 

中期症状:行動に変化が現れる

水晶体の濁りが広がり、視力が明らかに低下してくる段階です。物にぶつかるなど、行動の変化に気づきやすくなります。

  • 夜の散歩を嫌がる、暗い場所で動きたがらない
  • 小さな段差でつまずく、階段の上り下りをためらう
  • 物にぶつかることが増える
  • 急に触ると、びっくりして吠えたり噛んだりすることがある
  • 音に対して以前より敏感になる

 

末期症状:失明と合併症のリスク

水晶体全体が完全に白く濁り、光をほとんど通さなくなった状態です。この段階では、犬は視力をほぼ失っています(失明)。

  • 壁伝いに歩く
  • ほとんど動かなくなる
  • ぶどう膜炎や緑内障などの痛みを伴う合併症を引き起こすことがある

末期になると、白内障そのものによる視力低下だけでなく、重篤な合併症を引き起こすリスクが高まるため、そうなる前の対処が非常に重要です。

 

犬の白内障の治療法|点眼・サプリ・手術

 

白内障と診断された場合、どのような治療法があるのでしょうか。まずは動物病院で正確な診断を受けることが第一歩です。

 

動物病院での診断方法

動物病院では、スリットランプ(細い光を当てて目の内部を詳細に観察する機器)などを用いて、水晶体の濁りの程度や範囲、他の目の病気がないかを詳しく検査します。

 

内科治療:進行を遅らせる点眼薬・サプリメント

一度濁ってしまった水晶体を、点眼薬やサプリメントで元の透明な状態に戻すことはできません。

内科治療の目的は、あくまでも「白内障の進行を遅らせること」です。初期の白内障や、何らかの理由で手術ができない場合に選択されます。

  • 点眼薬:水晶体のタンパク質が変性するのを抑える成分が入った薬を定期的に使用します。
  • サプリメント:抗酸化作用のある成分(ビタミンC, E、ルテインなど)を含むサプリメントで、水晶体の酸化を防ぎ、進行を緩やかにすることが期待されます。

 

外科治療:視力回復を目指す手術

白内障によって失われた視力を取り戻すための唯一の根本的な治療法は、外科手術です。

手術では、濁った水晶体を超音波で砕いて取り出し、代わりに人工の眼内レンズを挿入します。手術が成功すれば、大幅な視力の回復が期待でき、愛犬のQOLを劇的に改善できる可能性があります。

ただし、手術は全身麻酔が必要であり、術後の点眼や定期検診が欠かせません。また、網膜の機能が正常であることなど、手術に適しているかどうかの詳しい検査が必要です。

 

治療にかかる費用は?

治療費は、病院や治療内容によって大きく異なります。あくまで一般的な目安として参考にしてください。

  • 内科治療(点眼薬など):月々数千円〜1万円程度
  • 外科手術:片目あたり30万円〜60万円程度(術前検査、手術、入院、術後ケアなどを含む)

手術は高額になりますが、ペット保険が適用される場合もありますので、加入している場合は確認してみましょう。

 

白内障と診断されたら|愛犬のためにできること

 

白内障と診断されても、悲観する必要はありません。飼い主さんのサポートで、愛犬は快適に過ごすことができます。

視力が低下した犬への自宅でのケア

  • 家具の配置を変えない:犬は家具の配置を記憶して移動します。模様替えはなるべく避け、床に物を置かないようにしましょう。
  • 危険な場所への対策:階段や段差がある場所にはゲートを設置するなど、転落防止の対策をしましょう。
  • 声かけを大切に:急に触ると驚かせてしまうため、触る前に必ず名前を呼んで優しく声をかけてあげましょう。
  • 散歩は安全なコースで:慣れた道を選び、障害物がないか飼い主さんが先に確認してあげると安心です。

 

白内障の予防と進行を遅らせるために

遺伝性や加齢による白内障を完全に予防することは困難です。しかし、リスクを減らし、進行を遅らせるためにできることもあります。

  • 紫外線対策:強い紫外線は白内障のリスクを高める可能性があります。日差しの強い時間帯の散歩を避けたり、犬用のゴーグルを活用したりするのも良いでしょう。
  • バランスの取れた食事:抗酸化物質が豊富な、質の良いフードを与えましょう。
  • 定期的な健康診断:目のチェックだけでなく、糖尿病などの全身疾患の早期発見にも繋がります。

犬の白内障に関するよくある質問(Q&A)

 

Q1. 白内障は目薬で治りますか?

A. 残念ながら、一度白く濁ってしまった水晶体を点眼薬で元の透明な状態に戻すことはできません。白内障治療で使われる点眼薬は、あくまで病気の進行を遅らせることを目的としています。視力を回復させるには外科手術が必要です。

 

Q2. 手術の費用はどのくらいかかりますか?

A. 費用は病院の設備や手術内容によって大きく異なりますが、一般的には術前検査から術後ケアまで含めて、片目あたり30万円~60万円程度が目安となります。高額になるため、ペット保険の適用範囲を確認したり、病院に事前に相談したりすることをおすすめします。

 

Q3. 白内障を予防できるサプリメントはありますか?

A. 白内障を完全に予防できると科学的に証明されたサプリメントは、現在のところありません。ただし、ビタミンCやビタミンE、ルテインといった抗酸化成分を含むサプリメントは、水晶体の酸化ストレスを軽減し、白内障の進行を緩やかにする効果が期待されています。

 

Q4. 片目だけでも白内障になりますか?

A. はい、なります。目をぶつけたなどの外傷が原因の場合は片目だけに発症することがあります。しかし、遺伝性や加齢、糖尿病が原因の場合は、発症時期に差はあっても、最終的に両目とも白内障になることがほとんどです。

 

Q5. 人間用の白内障の目薬を使ってもいいですか?

A. 絶対にやめてください。人間と犬では薬の成分や濃度、吸収率が異なります。人間用の薬を使用すると、効果がないばかりか、目に深刻なダメージを与えてしまう危険性があります。必ず、動物病院で犬用に処方された薬を使用してください。

 

まとめ:愛犬の目の変化に気づいたら、すぐに動物病院へ

 

犬の白内障は、早期発見と早期治療が何よりも重要です。特に若年性の白内障は進行が速く、あっという間に視力を失ってしまうこともあります。

「歳のせいかな?」と自己判断せず、

「目が白っぽく見える」
「物にぶつかるようになった」

といった少しでも気になる変化があれば、すぐに動物病院を受診してください。愛犬のかけがえのない視力を守るために、飼い主さんが一番の発見者になってあげましょう。

 

 

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