【獣医師監修】犬の糖尿病の対策|食事・運動・インスリン治療の全て。予防法と緊急時の対処法も解説

「最近、お水をたくさん飲むようになった」
「食欲はあるのに、なんだか痩せてきた気がする」
「動物病院で糖尿病の可能性を指摘された…」

愛犬のそんな変化に、不安を感じていませんか?犬の糖尿病は、一度発症すると生涯にわたるケアが必要になる病気です。治療や管理は飼い主さんにとって大きな負担に感じるかもしれません。

しかし、正しい知識を持って適切な対策を行えば、糖尿病であっても愛犬との穏やかで幸せな毎日を続けることは十分に可能です。

 

この記事では、犬の糖尿病の「対策」に焦点を当て、飼い主さんが知っておくべき全てを網羅的に解説します。

この記事でわかること

  • 犬の糖尿病の基本的な仕組みと原因
  • 見逃してはいけない糖尿病の初期サイン(症状)
  • 治療の3本柱「インスリン・食事・運動」による具体的な対策
  • 命に関わる「低血糖」などの緊急時の対処法
  • 糖尿病にならないために今日からできる予防策

 

犬の糖尿病とは?インスリン不足で高血糖が続く病気

 

犬の糖尿病をひとことで言うと、「血液中の糖分(血糖)の濃度が高い状態が慢性的に続く病気」です。食事で摂った糖分をエネルギーとして細胞に取り込むために不可欠な「インスリン」というホルモンの働きが悪くなることで発症します。

インスリンがうまく働かないと、細胞はエネルギー不足に陥り、血液中には使いきれなかった糖が溢れてしまいます。この高血糖状態が、全身に様々な悪影響を及ぼすのです。

 

【サインを見逃さないで】犬の糖尿病でみられる主な症状

 

糖尿病の対策は、まず初期症状に気づくことから始まります。以下のサインが見られたら、早めに動物病院を受診しましょう。

 

  • 多飲多尿(水をたくさん飲み、おしっこをたくさんする)
    最も代表的な初期症状です。血液中の過剰な糖を尿として排出しようとするため、尿の量が増え、脱水を防ぐために水をたくさん飲むようになります。
  • たくさん食べるのに痩せる(体重減少)
    糖をエネルギーとして利用できないため、体は筋肉や脂肪を分解してエネルギー源にしようとします。そのため、食欲は旺盛なのに体重が減っていくという特徴的な症状が見られます。
  • 元気がない・疲れやすい
    エネルギー不足により、散歩に行きたがらなくなったり、ぐったりしている時間が増えたりします。
  • 白内障
    糖尿病の合併症として非常に多く見られます。急に目が白く濁り始め、進行すると失明に至ります。

 

これらの症状を放置すると、嘔吐や下痢、脱水などを引き起こし、最終的には命に関わる「糖尿病性ケトアシドーシス」という危険な状態に陥ることがあります。

 

犬の糖尿病の治療と対策|3つの柱

 

犬の糖尿病治療は、「インスリン療法」「食事療法」「運動療法」の3つを柱として、血糖値を安定させることが目標となります。生活が一変するように感じるかもしれませんが、一つひとつが愛犬の健康を守るための大切な対策です。

 

① インスリン療法:自宅での注射が基本

犬の糖尿病では、不足しているインスリンを注射で補う「インスリン療法」が治療の中心となります。これは、飼い主さんが毎日1〜2回、自宅で愛犬に注射をする必要があります。

「自分にできるだろうか…」と不安に思うかもしれませんが、獣医師や動物看護師が丁寧に指導してくれるので、ほとんどの飼い主さんが実践できるようになります。

【インスリン投与の重要ポイント】

  • 適切な量を守る:インスリンの量が多すぎると命に関わる「低血糖」を、少なすぎると高血糖を招きます。獣医師に指示された量を正確に投与することが極めて重要です。
  • 決まった時間に投与する:通常、食事の直後など、毎日決まった時間に投与します。
  • 注射部位:首の後ろや背中など、皮膚がつまみやすく痛みを感じにくい場所を選びます。毎回少しずつ場所をずらすのがコツです。
  • インスリン製剤の管理:冷蔵庫で保管し、使用前は激しく振らずに優しく混ぜるなど、製品ごとの正しい取り扱い方法を守りましょう。

 

② 食事療法:血糖値のコントロール

食事は血糖値に直接影響するため、インスリン療法と並行して厳格な管理が求められます。

【食事管理の重要ポイント】

  • 療法食を与える:糖尿病の犬には、食後の血糖値の急上昇を抑えるために、食物繊維が豊富で、糖質や脂質が調整された「糖尿病用療法食」が推奨されます。食物繊維が多いと満腹感も得やすいため、体重管理にも繋がります。
  • 時間と量を守る:インスリンの効果と連動させるため、「毎日決まった時間に、決められた量」を与えることが鉄則です。食事量は必ず計量カップやスケールで正確に測りましょう。
  • 間食は原則禁止:おやつは血糖値を不安定にする最大の原因です。家族全員でルールを共有し、原則として与えないようにします。どうしても必要な場合は、必ず獣医師に相談してください。
  • 食べムラへの対応:食事を食べてくれないと、インスリン注射後に低血糖を起こす危険があります。食べムラがある場合は、療法食の種類を変えたり、少し温めたりする工夫が必要ですが、自己判断で食事内容を大きく変えず、まずは獣医師に相談しましょう。

 

③ 運動療法:適度な運動を習慣に

適度な運動は、糖の消費を促し血糖値を下げる効果が期待できます。また、肥満の予防やストレス解消にも繋がります。

【運動の重要ポイント】

  • 毎日同じくらいの運動量を:散歩のコースや時間をなるべく一定にし、日によって運動量が大きく変わらないようにすることが理想です。激しすぎる運動は低血糖を招くため禁物です。
  • 運動のタイミング:インスリン注射の直前・直後の激しい運動は避けてください。血糖値が急激に下がりすぎる危険があります。
  • 体調を観察しながら:その日の愛犬の体調をよく見て、無理のない範囲で行いましょう。

 

【重要】知っておくべき緊急時の対策

 

糖尿病の管理で最も注意すべきなのが「低血糖」です。飼い主さんが症状と対処法を知っておくことが、愛犬の命を救います。

 

低血糖の症状と応急処置

インスリンが効きすぎたり、食事をきちんと食べなかったりした時に、血糖値が下がりすぎてしまう状態です。

【低血糖のサイン】

  • ぐったりして元気がない
  • 足元がふらつく、震える
  • 不安そうに鳴いたり、落ち着きがなくなる
  • 重症化すると、痙攣(けいれん)を起こし、昏睡状態に陥る

 

【応急処置】
これらのサインが見られたら、すぐに応急処置として糖分を補給します。ブドウ糖そのものや、砂糖水、ガムシロップ、はちみつなどを、少量指に取り、歯茎や舌の裏に塗りつけてください。意識がない場合は無理に飲ませようとせず、すぐに動物病院に連絡し、指示を仰ぎましょう。

 

今日からできる!愛犬を糖尿病にさせないための予防対策

 

遺伝的な要因もありますが、生活習慣を見直すことで糖尿病のリスクを下げることが可能です。

  1. 肥満にさせない体重管理:肥満はインスリンの働きを悪くする最大の原因です。食事やおやつの与えすぎに注意し、適正体重を維持しましょう。
  2. バランスの取れた食事:人間の食べ物や高脂肪・高カロリーのおやつは避け、総合栄養食を適切な量与えましょう。
  3. 適度な運動の習慣化:毎日の散歩などで、定期的に体を動かす習慣をつけましょう。
  4. 避妊手術の検討(メスの場合):メス犬は発情後のホルモンの影響でインスリンの効きが悪くなり、糖尿病を発症することがあります。若いうちの避妊手術は、このタイプ(黄体期糖尿病)の糖尿病リスクを大幅に軽減できます。
  5. 定期的な健康診断:症状が出る前に病気を発見するためにも、特に7歳を過ぎたシニア期からは年に1〜2回の健康診断を受けましょう。

 

犬の糖尿病に関するよくある質問(Q&A)

 

Q1. 療法食をどうしても食べてくれません。どうしたらいいですか?

A. まずはかかりつけの獣医師に相談することが第一です。自己判断で一般食に戻すのは危険です。獣医師は、他のメーカーの糖尿病用療法食を試したり、ウェットフードタイプを混ぜたり、特定の一般食と組み合わせてカロリー計算を行うなどの代替案を提案してくれます。

 

Q2. インスリン注射は痛いですか?犬は嫌がりませんか?

A. インスリン注射に使う針は非常に細く、犬が痛みを感じにくい首の後ろの皮膚などに注射するため、ほとんどの犬は強い痛みを感じません。注射の際に特別なおやつを与えたり、たくさん褒めたりして「注射=良いことがある」と関連付けると、スムーズに受け入れてくれることが多いです。

 

Q3. 糖尿病になったら、もうおやつは一切あげられませんか?

A. 血糖値を安定させるため、原則としておやつは禁止となります。しかし、犬にとっておやつが大切なコミュニケーションツールであることも事実です。どうしても与えたい場合は、獣医師に相談し、糖尿病用の低カロリーなおやつなどを、1日の総カロリーに含めた上で、時間と量を厳守して与えるなどの指導を受けるようにしましょう。

 

Q4. 糖尿病と診断された後の寿命はどのくらいですか?

A. 血糖値が安定し、合併症もなく良好に管理できれば、健康な犬と変わらない寿命を全うすることも十分に可能です。ただし、コントロールがうまくいかなかったり、重い合併症を発症したりすると寿命に影響が出ることもあります。飼い主さんの日々のケアが非常に重要になります。

 

Q5. 治療をすれば糖尿病は治りますか?

A. 残念ながら、ほとんどの犬の糖尿病は完治することのない病気です。そのため、生涯にわたるインスリン投与と食事管理が必要になります。ただし、避妊手術をしていないメス犬が発情に関連して一時的に発症した糖尿病の場合、早期に避妊手術を行うことでインスリンが不要になるケースもあります。

 

まとめ:正しい知識と対策で、糖尿病と上手に付き合おう

 

愛犬が糖尿病と診断されると、毎日のインスリン注射や厳格な食事管理など、飼い主さんの生活は大きく変わります。しかし、それは愛犬の健康で穏やかな時間を守るための大切な日課です。

不安なことや困ったことがあれば、一人で抱え込まずに、かかりつけの獣医師とよく相談しながら、愛犬にとって最適な治療と対策を続けていきましょう。正しいケアを継続することで、糖尿病はコントロールできる病気です。

 

 

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