【獣医師監修】犬の災害準備完全ガイド|愛犬を守る防災グッズと避難時の行動チェックリスト

地震、台風、豪雨…いつどこで起こるかわからない自然災害。私たち人間だけでなく、愛犬にとっても大きな脅威です。災害時、混乱した状況下では行政の支援はまず人命が優先され、ペットのための物資や情報は後回しになりがちです。

つまり、大切な愛犬の命を守れるのは、飼い主であるあなただけなのです。いざという時に慌てず、愛犬と共に安全に避難するために、日頃から正しい知識を持って備えておくことが何よりも重要です。この記事では、獣医師の視点から本当に必要な災害準備を網羅的に解説します。

 

この記事でわかること

  • 災害時の避難の基本原則「同行避難」と避難先の確認方法
  • 【チェックリスト付】すぐに持ち出す物と備蓄しておくべき防災グッズ
  • 日頃から絶対にやるべき4つの備え(健康管理・迷子対策・しつけ)
  • 災害発生直後にとるべき具体的な行動
  • 避難所でのトラブルを避け、愛犬のストレスを和らげる方法

 

大原則は「同行避難」!避難場所とルールを事前に確認しよう

 

まず知っておくべきは、環境省が推進する「同行避難」という考え方です。これは「災害発生時に、飼い主が飼育しているペットを連れて避難所まで安全に避難すること」を指します。

決して「ペットを置いて逃げる」という選択をしてはいけません。

ただし、注意点として「同行避難」は「同伴避難(避難所で人とペットが同じ空間で過ごすこと)」を意味するわけではありません。多くの避難所では、衛生面やアレルギーへの配慮から、人の居住スペースとペットの飼育スペースは分けられます。このことを念頭に置き、事前の準備を進めましょう。

 

STEP1:ペット受け入れ可能な避難場所を確認する

全ての避難所がペットを受け入れてくれるわけではありません。お住まいの自治体(市区町村)のウェブサイトや窓口で、ペットの同行避難が可能な避難所を必ず確認しておきましょう。ハザードマップと照らし合わせ、自宅からの安全な避難経路を複数シミュレーションしておくことが重要です。

 

STEP2:在宅避難の可能性も考える

自宅が安全で、ライフラインも確保できる場合は、住み慣れた家で避難生活を送る「在宅避難」も有効な選択肢です。特に、環境の変化に弱い犬にとっては、在宅避難の方がストレスが少ない場合もあります。自宅の耐震性を確認し、十分な備蓄をしておきましょう。

 

【チェックリスト付】愛犬のための防災グッズを準備しよう

 

防災グッズは、緊急時にすぐ持ち出せる「一次持ち出し袋」と、自宅に備蓄しておく「二次備蓄品」に分けて準備するのがポイントです。

 

すぐに持ち出す!一次持ち出し袋(3日分が目安)

リュックサックなど両手が空くカバンにまとめ、すぐに持ち出せる場所に保管しておきましょう。

  • フード・飲料水(最低3日分):食べ慣れたドライフードや、すぐに与えられるウェットフードなど。
  • 常備薬・療法食:持病のある子は、最低でも1週間分はすぐに持ち出せるように。
  • 食器:折りたたみ式のシリコンボウルなどが便利。
  • 首輪・リード(ハーネス):迷子札を装着したもの。伸びないタイプのリードが安全です。
  • キャリーバッグやクレート:避難所での愛犬の居場所になります。布製より頑丈なプラスチック製が推奨されます。
  • ペットシーツ・排泄物処理袋:多めに準備しましょう。
  • 各種書類のコピー:
    • 狂犬病予防注射済票、ワクチン接種証明書
    • かかりつけ動物病院の診察券
    • 愛犬の写真(飼い主と一緒に写っているものと、愛犬単体のもの)
    • マイクロチップの登録証明書
  • タオル・ウェットティッシュ:体を拭いたり、ケージの掃除に使ったりと万能です。

 

自宅に備蓄!二次備蓄品(1週間分以上)

すぐに持ち出す必要はありませんが、ライフラインの復旧が遅れた場合に備えてストックしておきましょう。フードなどは、普段使う分を少し多めに買っておき、使った分だけ買い足す「ローリングストック法」で備蓄すると、賞味期限切れを防げます。

  • フード・飲料水(1〜2週間分以上)
  • 予備のトイレ用品(ペットシーツ、消臭スプレーなど)
  • 予備の常備薬
  • ケア用品(ブラシ、爪切り、シャンプータオルなど)
  • おもちゃ・おやつ:ストレス緩和に役立ちます。
  • ガムテープ、油性ペン、新聞紙:ケージの補修や情報伝達、防寒対策など多用途に使えます。

 

平常時こそ大切!いざという時に備える4つの習慣

 

災害は突然やってきます。日頃からの備えが、愛犬とあなた自身の運命を分けます。

 

①健康管理と情報の一元化

避難所では多くの動物が集まるため、感染症のリスクが高まります。狂犬病予防接種と混合ワクチンの接種は飼い主の義務であり、愛犬を守るための最低限のマナーです。ノミ・ダニの予防も忘れずに行いましょう。また、愛犬の持病、アレルギー、普段の様子などをまとめた「ペット手帳」のようなものを作成しておくと、避難先で獣医師の診察を受ける際に役立ちます。

 

②迷子対策の二重ロック(迷子札+マイクロチップ)

災害の混乱で愛犬とはぐれてしまうケースは後を絶ちません。連絡先を明記した迷子札を首輪につけるのはもちろんのこと、体内に入れる個体識別票であるマイクロチップの装着を強く推奨します。首輪が外れても、マイクロチップがあれば身元が判明し、再会できる可能性が格段に高まります。(※2022年6月から犬猫へのマイクロチップ装着・登録が義務化されています)

 

③クレート(ハウス)トレーニング

避難所では、愛犬はクレートやケージの中で過ごす時間が長くなります。「閉じ込めて可哀想」ではなく、「愛犬だけの安心できる空間」だと認識させることが重要です。日頃からクレートの中で食事をさせたり、寝かせたりして、落ち着いて過ごせるように慣らしておきましょう。

 

④基本的なしつけと社会化

避難所でのトラブルを避けるため、基本的なしつけは必須です。

  • 「おすわり」「待て」「おいで」などの基本的な指示に従える。
  • むやみに吠えない。
  • 他の人や犬に対して過度に怯えたり、攻撃的になったりしない。

子犬の頃から多くの人や犬、物音に慣れさせておく「社会化」も非常に重要です。

 

【発生時】災害が起きたらまず何をすべきか

 

実際に災害が発生したら、パニックにならず、落ち着いて行動しましょう。

  1. 身の安全を確保する:まず飼い主さん自身の安全が第一です。丈夫なテーブルの下などに隠れましょう。
  2. 犬を確保する:揺れが収まったら、犬がパニックで逃げ出さないように、すぐにリードをつけるか、キャリーバッグに入れます。
  3. 火の元と避難経路の確認:火の始末をし、ドアや窓を開けて避難経路を確保します。
  4. 情報を収集し、避難を判断:テレビやラジオ、自治体の防災無線などで正確な情報を得て、避難が必要かどうかを判断します。

 

避難所での過ごし方とトラブル回避のコツ

 

慣れない避難所生活は、犬にとっても飼い主にとっても大きなストレスです。周囲への配慮を忘れず、少しでも快適に過ごせるよう工夫しましょう。

  • 決められたルールを守る:排泄場所や時間など、避難所ごとに定められたルールを必ず守りましょう。
  • 衛生管理を徹底する:排泄物は速やかに片付け、こまめにブラッシングをして抜け毛の飛散を防ぎましょう。
  • 愛犬の心のケア:できるだけ一緒にいる時間を作り、優しく声をかけたり、体を撫でたりして安心させてあげましょう。安全な場所でおもちゃで遊ぶなど、気分転換も大切です。

 

犬の災害準備に関するよくある質問(Q&A)

 

Q1. フードや水は具体的にどのくらい備蓄すればいいですか?

A. 最低でも1週間分、できれば2週間分以上あると安心です。フードはドライフードが長期保存に適しています。水は、犬が1日に飲む量(体重1kgあたり約50mlが目安)を参考に計算し、人間用の備蓄とは別に用意しておきましょう。

 

Q2. 持病があって薬が欠かせません。どう準備すればいいですか?

A. かかりつけの獣医師に災害時のことを相談し、可能であれば予備の薬を処方してもらいましょう。お薬手帳に薬の名前や投与量を正確に記録し、一次持ち出し袋に必ず入れてください。複数の動物病院の連絡先を控えておくことも重要です。

 

Q3. 車で避難する場合(車中泊)の注意点はありますか?

A. 夏は熱中症、冬は一酸化炭素中毒や凍結に最大限の注意が必要です。エンジンをかけっぱなしにせず、こまめに換気を行いましょう。また、長時間同じ姿勢でいるとエコノミークラス症候群のリスクが高まるため、定期的に車外の安全な場所で体を動かすようにしてください。

 

まとめ:”やりすぎ”はない。今日から始める防災が愛犬を守る

 

災害準備において、「やりすぎ」ということは決してありません。この記事で紹介した準備を「面倒だ」と感じるかもしれませんが、その一手間が、災害という非日常の中で愛犬の命とあなたの心を守るための最も確実な方法です。

愛犬の防災は、飼い主の責任です。大切な家族の一員である愛犬と共に、困難を乗り越えるために。ぜひ、今日から一つでも多くの準備を始めてください。

 

 

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