愛犬がしきりに頭を振ったり、後ろ足で耳を激しく掻いたりする姿は、見ていてとてもつらいものですよね。その行動、犬によく見られる皮膚病のひとつ「外耳炎(がいじえん)」のサインかもしれません。
外耳炎は、強いかゆみや痛みを伴い、一度なるとクセになりやすく、再発を繰り返す厄介な病気です。しかし、日頃の正しいケアで発症リスクを大きく減らすことができます。
この記事では、犬の外耳炎の症状や原因から、ご家庭でできる最も重要な予防法「正しい耳掃除」のやり方、そして再発させないための日常の注意点まで、獣医師の視点から網羅的に解説します。
この記事でわかること
- 犬の外耳炎の具体的な症状と根本的な原因
- 外耳炎になりやすい犬種や耳の形の特徴
- 獣医師が教える正しい耳掃除のやり方とNG例
- シャンプーや耳毛の処理など、日常生活で気をつけるべきこと
- 外耳炎の基本的な治療法と早期発見のポイント
まずは敵を知ろう!犬の外耳炎とはどんな病気?
予防法を知る前に、まずは外耳炎がどのような病気なのかを理解しておきましょう。
こんなサインを見逃さないで!外耳炎の主な症状
外耳炎になると、以下のようなサインが見られます。初期症状のうちに気づいてあげることが大切です。
- 頻繁に頭を振る、ブルブルさせる
- 耳や首の周りをしきりに掻く、家具にこすりつける
- 耳から酸っぱいような、独特の臭いがする
- 耳垢(みみあか)の量が急に増える(黒、茶色、黄色など)
- 耳の中が赤く腫れている
- 耳に触られるのを嫌がる、触ると痛がって鳴く
- 首が傾いている(重症化のサイン)
なぜ繰り返す?外耳炎を引き起こす原因
外耳炎は、耳の中で細菌やマラセチアという真菌(カビの一種)が増殖したり、耳ヒゼンダニ(耳ダニ)が寄生したりすることで炎症が起こります。しかし、これらが増殖する背景には、根本的な原因が隠れています。
- 高温多湿な環境:犬のL字型に曲がった耳道は、湿気がこもりやすく、細菌や真菌にとって絶好の繁殖場所です。特に梅雨時期は要注意です。
- アトピー・アレルギー:食物アレルギーやアトピー性皮膚炎を持つ犬は、皮膚のバリア機能が弱く、耳にも炎症が起こりやすい傾向があります。
- 間違った耳掃除:綿棒でゴシゴシこするなど、間違ったケアで耳道を傷つけると、そこから炎症が起こります。
- その他:シャンプー時の水の侵入、異物、腫瘍などが原因となることもあります。
あなたの愛犬は大丈夫?外耳炎になりやすい犬の特徴
特定の犬種や特徴を持つ犬は、構造的に外耳炎になりやすい傾向があります。
- 垂れ耳の犬種:
耳が垂れていることで耳道が塞がれ、通気性が悪く湿気がこもりやすいため。
(例:アメリカン・コッカー・スパニエル、キャバリア、ゴールデン・レトリーバー、ダックスフンドなど) - 耳道に毛が多い犬種:
耳毛が密集していると、通気性を妨げ、汚れや湿気が溜まりやすいため。
(例:トイ・プードル、シーズー、マルチーズなど) - アレルギー体質の犬:
皮膚炎の一環として、耳のトラブルを併発しやすいため。
(例:柴犬、フレンチ・ブルドッグ、ウェスト・ハイランド・ホワイト・テリアなど)
これらの特徴を持つ愛犬と暮らしている場合は、特に日頃からのケアが重要になります。
【最重要】犬の外耳炎を予防する正しい耳のケア方法
外耳炎予防の要は、「耳の中を清潔で乾燥した状態に保つこと」です。そのための具体的なケア方法を見ていきましょう。
①正しい耳掃除のやり方と頻度(週1回が目安)
間違った方法は逆効果です。正しい手順をマスターしましょう。
【用意するもの】
- コットン(ティッシュは破れやすいので避ける)
- 犬用のイヤークリーナー(洗浄液)
【耳掃除の手順】
- イヤークリーナーを注ぐ:
犬の頭を優しく固定し、耳の中にイヤークリーナーをたっぷりと注ぎ入れます。溢れるくらいでOKです。 - 耳の付け根をマッサージ:
耳の付け根(耳の穴の下あたり)を、外側から「クチュクチュ」と音がするように30秒ほど優しく揉み込みます。これにより、中の汚れが浮き上がります。 - 犬にブルブルさせる:
一度手を放し、犬が自分で頭をブルブルッと振るのに任せます。遠心力で、浮き上がった汚れと洗浄液が外に出てきます。 - 汚れを拭き取る:
指にコットンを巻きつけ、耳の入口やヒダなど、見える範囲の汚れだけを優しく拭き取ります。
【絶対にやってはいけないNGケア!】
- 綿棒の使用:耳の奥に汚れを押し込んだり、耳道を傷つけたりする危険性が非常に高いです。絶対にやめましょう。
- ゴシゴシ擦る:デリケートな皮膚を傷つけ、炎症を悪化させる原因になります。
- アルコールや水での洗浄:犬の耳には刺激が強すぎます。必ず犬用のイヤークリーナーを使用してください。
②シャンプー・水遊びでの注意点
シャンプーの際に耳に水が入ると、多湿の原因になります。シャンプー前に、水を吸わないようワセリンなどを塗ったコットンを耳の入口に軽く詰めてガードするのがおすすめです。もし水が入ってしまったら、洗浄液を使わずに上記の手順④(コットンで拭き取る)を行い、しっかりと乾かしてください。
③耳の通気性を保つ工夫
耳毛が多い犬種は、定期的にトリミングサロンや動物病院で耳毛の処理をしてもらうと、通気性が良くなり、外耳炎の予防につながります。ただし、抜きすぎは皮膚への刺激になることもあるため、やりすぎには注意が必要です。専門家と相談しながら行いましょう。
もし外耳炎になってしまったら?基本的な治療法
どんなに気をつけていても、外耳炎になってしまうことはあります。「耳が赤い」「臭いがする」など、異常に気づいたら、自己判断で市販薬を使ったりせず、できるだけ早く動物病院を受診しましょう。
動物病院での治療は、主に以下の2つが基本となります。
- 耳の洗浄:まず、薬の効果を高めるために、専用の器具を使って耳道内の耳垢や膿をきれいに洗浄します。
- 点耳薬の投与:原因となっている細菌や真菌、炎症を抑えるための薬を耳の中に投与します。1日1〜2回の点耳を自宅で続けるのが一般的ですが、動物病院で処置すると1〜2週間効果が持続するタイプの薬もあります。
外耳炎は症状が良くなっても、原因菌が残っているとすぐに再発します。獣医師の指示があるまで、根気よく治療を続けることが非常に重要です。
犬の外耳炎予防に関するよくある質問(Q&A)
Q1. 耳掃除はどのくらいの頻度ですればいいですか?
A. 耳に問題がない健康な犬であれば、1〜2週間に1回程度が目安です。やりすぎはかえって耳を傷つける原因になります。ただし、外耳炎になりやすい犬種や、過去に治療歴がある場合は、獣医師の指示に従ってください。
Q2. 耳垢の色で病気はわかりますか?
A. 耳垢の色や状態は、原因を推測する手がかりになります。
・黒く乾燥した耳垢:耳ヒゼンダニ(耳ダニ)の感染が疑われます。
・茶色〜黄色のベタベタした耳垢:マラセチアという真菌の増殖が考えられます。
・黄色い膿のような耳垢:細菌感染が疑われます。
ただし、これらはあくまで目安です。正確な診断は動物病院での検査が必要です。
Q3. 耳毛は自宅で抜いてもいいですか?
A. 専用の器具(鉗子)やパウダーを使えば自宅でも可能ですが、慣れていないと皮膚を傷つけたり、犬に痛みを与えて耳掃除嫌いにさせてしまったりする可能性があります。安全のため、基本的にはトリミングサロンや動物病院などのプロにお任せすることをおすすめします。
まとめ:正しい予防ケアで、つらい“耳のかゆみ”から愛犬を救おう
犬の外耳炎予防のポイントは、「①正しい方法で定期的に耳を洗浄し、②清潔で乾燥した状態を保ち、③日々の観察で異常の早期発見に努めること」です。
特に、間違った耳掃除は良かれと思ってやったことが逆効果になりかねません。この記事で紹介した正しいケアを実践し、愛犬を再発を繰り返すつらい外耳炎から守ってあげてください。
もし、少しでも「いつもと違うな」と感じることがあれば、迷わずかかりつけの動物病院に相談しましょう。