「チャイムが鳴ると吠え続ける」「散歩中に他の犬を見て興奮する」「ごはん前の催促が止まらない」
こうした“よくある吠えのお悩み”に疲れてしまう飼い主さんは少なくありません。周囲への配慮や、対応の難しさに悩んでしまうこともあるでしょう。しかし、吠えることは犬にとって大切なコミュニケーションのひとつであり、その時の気持ちや経験が反映されています。
この記事では、獣医行動学に基づき、吠えの背景を深く掘り下げながら、飼い主さんと愛犬の負担が少ない実践的な対策方法をご紹介します。
◆この記事でわかること
- 犬が吠える本当の原因と、その背後にある気持ち
- 大声で叱るなど、逆効果になる対応と、その理由
- チャイム吠え、要求吠えなど、シーン別の具体的なトレーニング手順
- 専門家のサポートが必要な危険なサインと、病院に相談すべき目安
愛犬はなぜ吠えるのか?まずは原因を見極めよう
対策を始める前に、まずは“どんな気持ちで吠えているのか”を知ることが大切です。犬の吠えは、大きく分けて「感情的な吠え」と「学習性の吠え」の2種類に分類できます。ご自身の愛犬の行動と照らし合わせてみてください。
吠えのタイプ別:愛犬の気持ちの翻訳
| 吠えるタイミング | 愛犬の様子・ボディランゲージ | 考えられる原因(学術的分類) | 犬の気持ち(翻訳) |
|---|---|---|---|
| チャイム・来客時 | 毛が逆立つ、尻尾が高い、玄関へダッシュ | 警戒・縄張り性攻撃 | 「怪しいやつが来た!怖い!あっち行け!」 |
| 散歩中の他犬・人 | 相手を凝視する、リードを引っ張る | 恐怖性攻撃 / 欲求不満 | 「怖いから近づくな!」または「遊びたいのに近づけない!」 |
| 食事前・遊び中 | 飼い主を見る、飛び跳ねる、高い声 | 要求吠え(学習性) | 「早くちょうだい!こっち見て!吠えれば貰えるんでしょ?」 |
| 留守番中 | 遠吠え、破壊行動、震え、過度なよだれ | 分離不安 | 「独りにしないで!パニックで死んじゃう!」 |
| 夜中・単調な吠え | 壁に向かって吠える、徘徊、トイレの失敗 | 認知機能不全(CCD) | 「ここがどこかわからない…不安だ…」 |
特に重要なのは、多くの飼い主さんが「強く出ている行動」と受け取りがちな警戒吠えの背景には「不安」や「恐怖」が隠れている場合がほとんどだという点です。「怒っている」のではなく「怖くて吠えてしまう」ケースが多いと理解できると、対策の方向性が大きく変わります。
無駄吠え対策で“やらない方がいいこと”と科学的な根拠
以前主流だった方法の中には、現代の行動学では「逆効果になりやすい」と指摘されているものがあります。愛犬の信頼関係を損なわないためにも、これらの対応は避けましょう。
1.大声で叱る・体罰を与える
- 飼い主さんが興奮して声を出すと、犬には「一緒に吠えている」ように見えることがあります。結果的に興奮が強くなる場合があります。
- マズル(口元)をつかむなどの罰(懲罰)は、恐怖から一時的に静かになっても不安そのものは解決されません。長期的なストレスや、家族に対する攻撃行動につながる可能性が指摘されています。
- また、叱られた犬は「吠えるのをやめる」のではなく、「飼い主さんの前では吠えるのを控える」ようになるだけで、根本的な問題解決にはなりません。
2.すべての吠えを“無視すればよい”と考える
- 無視が有効なのは、ごはんの催促など「吠えれば望みが叶う」と学習した要求吠えに限られます。
- 警戒や恐怖から吠えている場合、無視しても不安はなくならず、犬は「助けてもらえない」と感じてより強い不安を抱き、吠えがエスカレートする可能性があります。
原因別・シーン別に見る、今日からできる具体的な吠え対策
吠えの対策は、愛犬が「なぜそうしているのか」に合わせて進めるポジティブトレーニング(罰ではなくご褒美で教える方法)が基本です。
ケース①:チャイムが鳴ると吠えてしまう(警戒吠え)
■考え方:「チャイム=怖い(不安)」から、「チャイム=良いことが起きる」に、徐々に印象を変えていく系統的脱感作と拮抗条件付けを行います。
- Step 1:スマホでチャイム音を録音します。
- Step 2:愛犬がリラックスしている時に、ギリギリ吠えない程度の小さな音量で再生します。
- Step 3:音が鳴ったらすぐ、愛犬にとって特別なおやつ(ジャーキーなど)を連続であげます。
- Step 4:吠えない範囲で、少しずつ音量を上げていく練習を繰り返します。(吠えたら音量を下げて仕切り直します)
■来客時のマネージメント(対処法):練習の途中では、本番の来客時に吠えてしまうのは自然です。その際は、玄関から離れた場所(サークルやクレート内など)に特別なおやつやおもちゃを撒き、注意をそらす・別の行動に誘導することを意識しましょう。吠える場所から隔離するのも有効です。
ケース②:散歩中に他の犬や人を見ると吠える(恐怖・興奮)
■考え方:苦手な対象と適切な距離をとり、安心できるスペースを確保します。その上で、「刺激を見る=ご褒美がもらえる」という条件付けを行います。
- Step 1:相手の犬や人などを遠くで見つけたら(愛犬がまだ吠えていない距離)、すぐに愛犬に注目させます。
- Step 2:名前を呼んでアイコンタクトを求めても良いですし、ターゲットを見ていない状態ならひたすらおやつを連続で与え続けます。
- Step 3:刺激を見る→飼い主を見る→報酬(おやつ)、という流れで、スムーズに通過する練習を繰り返します。
■ポイント:吠え始めてからでは手遅れです。吠える前に、興奮しない距離(安全圏)を見つけることが成功の鍵です。距離が近すぎて吠えてしまったら、すぐにUターンしたり、物に隠れたりして、その場を離脱します。
ケース③:要求が通らないと吠える(要求吠え)
■考え方:「吠えても望みは叶わない」「静かにしていると良いことがある」と学習させます。
- Step 1:愛犬が吠えている間は、視線も声も向けず完全に反応しない(無視)を徹底します。
- Step 2:一瞬でも静かになったら、すかさず「よし!」などと声をかけて褒め、望む行動(ごはんをあげる、遊んであげるなど)を叶えるか、ご褒美を与えます。
- Step 3:静かに待てる時間を少しずつ伸ばしていきます。
■注意点:要求吠えが学習されるのは、吠えた後に飼い主が根負けして要求を叶えてしまうからです。一旦無視を始めたら、吠えがエスカレートする「消去バースト」という現象が起きることがありますが、ここで折れずに一貫した態度をとることが重要です。
それでも改善しない場合は?専門家のサポートが必要なケース
吠えの背景に強い不安や心因的な疾患が関わっている場合、自宅でのトレーニングだけでは限界があります。以下の症状が見られる場合は、かかりつけの獣医師や獣医行動診療科認定医に相談しましょう。
- 分離不安:留守番中にパニック(過剰なよだれ、自傷行為、破壊行動、排泄の失敗)がみられる。
- 高齢性認知機能不全(CCD):夜鳴きが長時間続く、徘徊がみられる、今までできていたトイレの失敗が増えた。
- 攻撃行動が強い場合:家族や見知らぬ人に対し、咬みつきを伴う強い攻撃行動がある。
- 全般的な不安:環境の変化に異常に敏感で、常に緊張している様子が見られる。
近年は、社会化不足や過去のトラウマなど、環境要因で不安が強くなりやすい犬も増えています。飼い主さんの接し方が悪いわけではなく、背景には複数の要因が重なっていることが多いので、一人で抱え込まず専門家を頼ることで、飼い主さんも犬も楽になります。
よくある質問(Q&A)
Q1. 「無駄吠え」という言葉は使ってもいいですか?
A1.獣医学的には、犬の吠えは全て「何らかの理由や要求を伝えるための行動」であり、「無駄」な吠えはありません。「過剰な吠え」や「問題となる吠え」といった表現を使い、吠えの背景にある愛犬の気持ちに目を向けることが重要です。
Q2. 吠えるのをやめさせるのに「しつけグッズ」を使ってもいいですか?
A2.電気ショック首輪や大きな音が出る缶など、「罰」や「嫌悪刺激」を与えるタイプのグッズは推奨されません。これは、犬の不安を増強させ、恐怖や攻撃行動を引き起こす可能性があるためです。安全で効果的な対策は、ポジティブトレーニング(ご褒美で教える方法)と環境管理です。
Q3. 子犬の頃から無駄吠えを予防する方法はありますか?
A3.はい。最も重要なのは、「社会化」と「適切な学習」です。生後3週齢から16週齢の社会化期に、様々な人、犬、音、環境に慣れさせることが重要です。また、要求吠えを予防するために、子犬のうちから「静かに待てたらご褒美」という学習を意識的に行いましょう。
Q4. 吠えやすい環境を整えるにはどうすればいいですか?
A4.愛犬がリラックスできる場所(クレートやサークル)を作り、外の刺激を遮断することが基本です。具体的には、窓に目隠しフィルムや遮音カーテンを貼る、テレビやラジオで環境音を流す(外の音を紛らわせる)、家具の配置を変えて刺激が見えにくい場所を居住スペースにする、などが有効です。
まとめ:愛犬が伝えようとしているサインに気づいてあげよう
吠えをすぐにゼロにするのは難しいものです。ですが、愛犬がどんな気持ちで吠えているのかを知ろうとするだけで、行動は少しずつ変わっていきます。
今日から始めたい3つの行動
- 吠え方の“理由”に目を向ける:「無駄吠え」とひとまとめにせず、「怖くて吠えているのか」「期待して吠えているのか」と“背景の気持ち”で見てあげる。
- まわりの環境を少し整える:外の物音や人・車など、吠えやすくなるきっかけを減らすために、カーテンを閉める、散歩ルートを変えるなど、刺激を受けにくい環境づくりをする。
- 一人で抱え込まない:つらい時や不安な時は、専門家(獣医師や認定行動診療医)に相談する。早めに頼ることで、飼い主さんも犬も楽になります。
愛犬が伝えようとしているサインに気づいてあげることが、穏やかな毎日への最初の一歩です。