あなたは「痙攣(けいれん)」を起こした犬を目の当たりにしたことはありますか?
突然目の前で愛犬が痙攣を起こすと、ほとんどの飼い主さんはパニックになったり、動揺してしまったりするのではないでしょうか。犬の痙攣は年齢を問わず元気な犬にも突然起こることがあります。場合によっては命の危険さえあるため、適切に対処できるよう心構えをしておく必要があります。
この記事では、犬の痙攣とはどういうものか、そして犬が痙攣を起こす主な原因、具体的な症状、いざという時に飼い主が知っておくべきことについて、獣医師監修のもと詳しく解説します。
この記事を読めば、以下のことがわかります。
- 犬の痙攣の基本的な症状と種類
- 犬が痙攣を起こす主な病気や状態
- てんかん以外の痙攣の原因とその特徴
- 痙攣の原因を特定するための検査
- 日頃から愛犬の痙攣に備える方法
犬の痙攣(けいれん)とは?その種類と症状
「痙攣」とは、犬の意志とは無関係に筋肉が収縮する現象を指します。脳の異常な電気活動が原因で起こることが多く、症状は多岐にわたります。
1.部分発作(局所性てんかん発作)
体の特定の一部に症状が現れる痙攣です。
- 顔面や口元のピクつき: 口角が引きつったり、顔の一部が細かく震えたりします。よだれを垂らすこともあります。
- 手足の震え: 片方の手足だけが震えたり、硬直したりすることがあります。
- 異常な行動: 落ち着きなく部屋をうろつく、一点を見つめる、宙を噛むような仕草をする、ハエを追いかけるような行動(フライバイト)などがみられることがあります。
部分発作の場合、飼い主が気づきにくいこともありますが、これらの異常な行動が繰り返される場合は注意が必要です。
2.全般発作(全身性てんかん発作)
全身に症状が現れる痙攣で、飼い主が最も認識しやすいタイプです。
- 意識の消失: 突然意識を失い、倒れ込みます。
- 全身の硬直と震え: 体が硬直し、四肢を突っ張らせたり、バタバタと痙攣させたりします。泳ぐような動きや、自転車をこぐような動きをすることもあります。
- その他の症状: よだれを大量に流す、失禁(おしっこを漏らす)、脱糞(うんちを漏らす)、呼吸が荒くなるなどの症状が見られることがあります。
全般発作は、通常数十秒から数分で収まりますが、痙攣が5分以上続く場合は「てんかん重積状態」と呼ばれ、脳に深刻なダメージを与える危険性が高いため、緊急の処置が必要です。
3.発作後の症状(発作後症状)
痙攣発作が終わった後も、一時的に以下のような症状が見られることがあります。
- 意識朦朧: ぼーっとしていて、飼い主の呼びかけに反応しないことがあります。
- ふらつき・歩行困難: 立てない、まっすぐ歩けない、旋回するなどの症状が見られます。
- 一時的な視力・聴力障害: 周囲が見えにくくなったり、音が聞こえにくくなったりすることがあります。
- 過食・過飲: 発作後に異常に空腹や喉の渇きを感じることがあります。
これらの症状は数分から数時間続くことがあり、回復には個体差があります。愛犬が完全に回復するまで、静かに見守ることが大切です。
犬の痙攣(けいれん)の主な原因になる病気
犬が痙攣を起こす原因は多岐にわたりますが、大きく分けて脳に由来するものと脳以外に由来するもの(脳以外の全身の病気)に分類されます。ここでは、主な原因となる病気や状態について解説します。
1.脳に由来する痙攣の原因
脳そのものの異常が原因で痙攣が起こるケースです。
てんかん発作
痙攣の発作が、慢性的に、繰り返し起こるのが「てんかん」です。犬の痙攣の原因として最も多いものの一つです。
- 特発性てんかん(原発性てんかん): 脳に構造的・解剖的な異常がないにもかかわらず発作が起きるてんかんです。脳の機能にだけ異常が起きる病気で、遺伝的な原因が強く疑われています。ボーダーコリー、ゴールデン・レトリーバー、ラブラドール・レトリーバー、ビーグルなどに多く見られます。通常、生後6ヶ月から5歳くらいの若い犬で初めて発作が見られることが多いです。
- 症候性てんかん(二次性てんかん): 脳腫瘍、脳炎、脳梗塞、水頭症など、脳の構造的な異常や病気が原因で起こるてんかんです。これらの基礎疾患を治療しないと、痙攣は繰り返されます。
脳の炎症・腫瘍
脳に炎症が起きる病気や、腫瘍ができることで痙攣が引き起こされることがあります。
- 脳炎・髄膜脳炎: 感染症(ウイルス、細菌、真菌など)や自己免疫疾患によって脳やその周囲の膜に炎症が起こる病気です。痙攣以外にも、ふらつき、意識障害、視力障害など様々な神経症状が見られます。
- 脳腫瘍: 脳内に腫瘍ができることで、周囲の脳組織を圧迫したり、異常な電気信号を発生させたりして痙攣を引き起こします。高齢の犬で繰り返し痙攣が起きる場合、脳腫瘍の可能性が高まります。痙攣の他にも、性格の変化、視力障害、歩行障害、意識状態の低下などの症状が見られることがあります。
水頭症
脳室内に脳脊髄液が過剰に溜まり、脳を圧迫することで様々な神経症状を引き起こす病気です。チワワ、マルチーズ、トイ・プードル、パグなど、特定の犬種に多く見られる先天性の病気です。
- 症状: 痙攣の他に、元気がない、徘徊、知能の低下、視力障害、頭部の異常な膨らみ(特に子犬期)などの症状が見られることがあります。
2.脳以外に由来する痙攣の原因(代謝性疾患、中毒、感染症など)
脳そのものに異常がなくても、全身の病気や外部からの影響が脳に影響を与え、痙攣を引き起こすことがあります。
代謝の異常
老廃物を代謝し排泄するための臓器(肝臓や腎臓)の機能が低下すると、体内に毒素が過剰に溜まってしまい、脳に影響を与えて痙攣などの神経症状が引き起こされることがあります。
- 低血糖: 血糖値が極端に低くなることで、脳に十分なエネルギーが供給されず、痙攣を起こすことがあります。特に、子犬の飢餓や、糖尿病の治療中のインスリン過剰投与などで見られます。
- 肝不全・腎不全: 肝臓や腎臓の機能が低下すると、本来排出されるべき有害物質(アンモニアなど)が血液中に蓄積し、脳に毒性を示して痙攣を引き起こします。
- 電解質異常: 体内のカルシウム、カリウム、ナトリウムなどのミネラルバランスが崩れると、神経の興奮伝達に異常が生じ、痙攣につながることがあります。
中毒
犬にとって有害な物質を誤って摂取してしまった場合にも、痙攣を起こすことがあります。
- 食品: チョコレート(テオブロミン)、コーヒーや紅茶(カフェイン)、キシリトール、タマネギ・ネギ類(アリルプロピルジスルフィド)、アボカド(ペルシン)など。
- 家庭用品: 殺虫剤、農薬、不凍液(エチレングリコール)、保冷剤、人間の薬(特に痛み止めや抗うつ剤)、洗剤、タバコなど。
- 植物: ユリ、アジサイ、スズランなど、犬にとって有毒な植物もあります。
誤飲・誤食の可能性があれば、すぐに動物病院に連絡し、摂取した物質や量を正確に伝えることが重要です。
感染症
特定の感染症が脳に影響を与え、痙攣を引き起こすことがあります。
- 犬ジステンパーウイルス感染症: 犬ジステンパーウイルスに感染すると、呼吸器症状や消化器症状の後に、脳炎を引き起こし、痙攣を含む様々な神経症状を呈することがあります。重篤な病気ですが、混合ワクチンの接種によって予防が可能です。
- 狂犬病: 非常に危険な感染症で、痙攣を含む神経症状(攻撃的になる、麻痺など)が見られます。日本では発生していませんが、海外渡航歴のある犬や、野生動物との接触があった場合は注意が必要です。
- トキソプラズマ症、真菌症など: これらも稀に脳炎を引き起こし、痙攣の原因となることがあります。
熱中症
重度の熱中症では、体温が異常に上昇することで脳に大きなダメージが生じ、痙攣や意識障害を起こすことがあります。特に、短頭種(フレンチブルドッグ、パグなど)や、肥満の犬、高齢犬、子犬は注意が必要です。
痙攣の原因を特定するための検査
愛犬が痙攣を起こした場合、原因を特定するために獣医師は様々な検査を行います。適切な治療のためには、正確な診断が不可欠です。
- 問診: 痙攣の様子(持続時間、症状、頻度)、発生した状況、過去の病歴、投薬歴、誤飲・誤食の可能性など、詳細な情報を獣医師に伝えます。可能であれば、痙攣中の動画を見せることも非常に有効です。
- 身体検査・神経学的検査: 全身の状態、意識レベル、反射、姿勢、歩様などを詳しくチェックし、神経学的異常の有無を確認します。
- 血液検査・尿検査: 肝臓、腎臓の機能、血糖値、電解質バランス、炎症の有無などを調べ、代謝性疾患や感染症の可能性を探ります。
- 画像診断(X線、超音波検査): 胸部や腹部の異常、門脈シャントなどの代謝性疾患の可能性を評価します。
- MRI/CT検査: 脳の構造的な異常(脳腫瘍、脳炎、水頭症など)を詳細に評価するために最も有効な検査です。専門施設での実施となります。
- 脳脊髄液検査: 脳炎や髄膜炎が疑われる場合に、脳脊髄液を採取して炎症細胞や感染の有無を調べます。
【まとめ】愛犬の痙攣に備えるために
犬の痙攣の原因は非常に多岐にわたり、老化にともなってリスクは高くなります。愛犬が突然痙攣を起こした時にパニックにならず、適切に対応するためには、日頃からの心構えと情報収集が重要です。
- 愛犬の異変にいち早く気づけるよう、日頃から行動や様子を観察しましょう。
- 万が一痙攣が起きた際には、犬が痙攣した時の【緊急対処法と注意点】を参考に、まずは愛犬の安全を確保し、冷静に状況を記録してください。
- どんな痙攣であっても、早めに獣医師に相談し、適切な診断と治療を受けることが何よりも大切です。
わからないことや心配なことがあれば、かかりつけの獣医師に相談し、愛犬の健康を守るための最善策を見つけてください。