犬が痙攣した時の【緊急対処法と注意点】獣医師監修の適切な対応と予防策

もし、突然、愛犬があなたの目の前で痙攣(けいれん)を起こしてしまったら、あなたはどのような行動をとりますか?

「大丈夫?」と大声で呼びかけたり、「この痙攣を止めないと」と愛犬の体をゆすったりしてパニックになってしまうのではないでしょうか。しかし、大きな声を出したり、体に強く触れたりすることで、無意識に噛んでしまうなどの思わぬ事故につながることもあります。

この記事では、愛犬が痙攣を起こした時に飼い主が落ち着いて適切に対処できるよう、具体的な方法と注意点を獣医師監修のもと詳しく解説します。また、痙攣の際に病院を受診するべき症状の目安や、予防策についてもご紹介します。

 

この記事を読めば、以下のことがわかります。

  • 愛犬が痙攣を起こしたときの具体的な対処法
  • 痙攣中に絶対にやってはいけないこと
  • 病院に連れて行くべき症状の判断基準
  • 痙攣の主な原因と予防策
  • 痙攣後の自宅でのケア方法

 


犬が痙攣(けいれん)を起こしたときの緊急対処法

 

愛犬が痙攣を起こした際、飼い主さんが最も優先すべきは、愛犬自身の安全確保です。慌てずに、以下の手順で冷静に対処しましょう。

 

1.安全な空間の確保と怪我の防止

痙攣中は意識がないため、家具などに頭や体をぶつけて怪我をする可能性があります。愛犬の周囲に危険なものがないか確認し、速やかに取り除きましょう。特に、頭部を保護するために、クッションや毛布などを置いてあげるのが効果的です。

  • 周囲の危険物を取り除く: 家具の角、尖ったもの、倒れやすいものなどを愛犬から遠ざけます。
  • 頭部や体の保護: 柔らかいクッションや毛布などで頭部や体を支え、打ち付けないようにします。ただし、犬を無理に押さえつけたり、痙攣を止めようと体をゆすったりしないでください。これは余計な刺激を与え、かえって症状を悪化させる可能性があります。

 

2.刺激を与えず静かに見守る

痙攣中は、脳が過剰に興奮している状態です。飼い主さんの声かけや接触は、さらに脳に刺激を与え、痙攣を助長する可能性があります。なるべく静かに、愛犬の様子を見守ることが大切です。

  • 大声で呼びかけない: 「大丈夫?」「どうしたの?」などと大声で呼びかけるのは避けましょう。
  • 体に触れない: 無意識に噛んでしまう危険性があるため、口周りを含め、体に触れるのは極力避けてください。特に、舌を噛まないようにと口の中に指を入れるのは非常に危険です。犬は舌を噛み切ることはほとんどありません。
  • 静かな環境を作る: テレビやラジオの音量を消し、部屋の照明を少し落とすなど、静かで落ち着いた環境を整えてあげましょう。

 

3.痙攣の状況を記録する

痙攣の様子を正確に獣医師に伝えることは、適切な診断と治療に繋がります。可能であれば、以下の点を記録しておきましょう。

  • 痙攣の開始時刻と終了時刻: 痙攣の持続時間は非常に重要な情報です。正確な時間を測りましょう。
  • 痙攣の具体的な症状: 全身性の痙攣か、体の一部だけか、手足の動き、意識の有無、よだれの量、失禁・脱糞の有無などを観察します。
  • 痙攣が起こる前後の様子: 何か変わったことがあったか、元気や食欲はあったかなど、気づいたことをメモしておきましょう。
  • 動画撮影: スマートフォンなどで痙攣の様子を動画で撮影できると、獣医師がより正確な情報を得られます。ただし、無理のない範囲で行ってください。

 


病院に連れて行くべき症状とタイミング

 

愛犬の痙攣は、緊急性の高い病気のサインであることも少なくありません。以下の症状が見られた場合は、速やかに動物病院を受診しましょう。

 

1.初めての痙攣の場合

今まで痙攣を起こしたことがない愛犬が突然痙攣した場合は、すぐに動物病院を受診してください。原因が特定されておらず、急性腎不全や肝不全、中毒など、緊急治療が必要な病気が隠れている可能性があるためです。

 

2.痙攣の持続時間と頻度

  • 5分以上痙攣が続く場合: 痙攣が5分以上続く場合は、「てんかん重積状態」と呼ばれ、脳に深刻なダメージを与える可能性があります。非常に危険な状態なので、一刻も早く動物病院へ連絡し、指示を仰ぎましょう。
  • 連続して痙攣が起こる場合: 痙攣が一旦収まった後、短時間で再度痙攣を繰り返す場合も危険です。連続的な痙攣は脳への負担が大きく、早急な治療が必要です。

 

3.痙攣後の状態が悪い場合

痙攣がおさまった後も、以下のような症状が見られる場合は、迷わず動物病院を受診してください。

  • 意識が戻らない、ぼーっとしている
  • 呼びかけに反応しない
  • 呼吸が荒い、不規則
  • 嘔吐や下痢が続く
  • 歩き方がおかしい、ふらつく

痙攣が起きるたびに脳がダメージを受けることもあります。少しでも不安な症状があれば、獣医師に相談することが重要です。

 


犬の痙攣(けいれん)の主な原因と予防法

 

犬の痙攣の原因は多岐にわたり、それぞれ適切な対処法や予防法が異なります。主な原因とそれぞれの予防策について見ていきましょう。

 

1.てんかん

てんかんは、脳の異常な電気信号によって繰り返し痙攣発作が起こる病気です。遺伝的な要因や脳の病変(腫瘍、炎症など)が原因となる場合があります。

  • 特発性てんかん: 明確な原因が見つからないてんかんです。遺伝的要因が考えられています。
  • 症候性てんかん: 脳腫瘍、水頭症、脳炎、脳梗塞など、脳の構造的な異常や病気が原因で起こります。

 

【予防法・対処法】
てんかんは完全に予防することが難しい病気ですが、発作の頻度や重症度を軽減するための治療が可能です。

  • 抗てんかん薬の投与: 獣医師の指示に従い、処方された抗てんかん薬を決められた用量・間隔で確実に投与することが重要です。薬の効果が切れると反動で大きな痙攣が起きる可能性があるため、自己判断で投薬を中止したり、量を減らしたりしないでください。薬を切らさないように注意し、残量が少なくなったら早めに動物病院を受診しましょう。
  • 定期的な健康チェック: てんかんの症状が現れた場合は、早期に獣医師の診察を受け、適切な診断と治療を開始することが大切です。

 

2.中毒

有害な物質を誤って摂取してしまった場合にも、痙攣を起こすことがあります。

  • 誤飲・誤食: 殺虫剤、農薬、人間の薬、チョコレート、タマネギ、キシリトールなど、犬にとって有毒な物質を口にしてしまうケースです。

【予防法・対処法】
中毒による痙攣は、予防が可能です。

  • 有害物質を犬の届かない場所に保管: 家庭内の洗剤、医薬品、観葉植物、人間の食べ物など、犬にとって危険なものは全て手の届かない場所に保管しましょう。
  • 散歩中の拾い食い防止: 散歩中は、道端に落ちているものを拾い食いしないよう、常に注意を払い、リードを短く持つなどの対策を取りましょう。
  • 万が一の誤食時: 何かを誤食した疑いがある場合は、吐かせようとせずに、速やかに動物病院へ連絡し、指示を仰ぎましょう。摂取した物質が分かっている場合は、その情報も伝えてください。

 

3.代謝性疾患

体の代謝機能に異常が生じることで、脳の機能に影響を与え、痙攣が起こることがあります。

  • 低血糖: 糖尿病の治療中のインスリン過剰投与や、子犬の飢餓などで血糖値が極端に下がると痙攣を起こすことがあります。
  • 肝不全・腎不全: 肝臓や腎臓の機能が低下すると、体内の毒素が排出されずに脳に蓄積し、痙攣の原因となることがあります。
  • 電解質異常: 体内のミネラルバランスが崩れると、神経伝達に異常が生じ痙攣につながることがあります。

 

【予防法・対処法】
代謝性疾患による痙攣は、基礎疾患の管理が重要です。

  • 定期的な健康診断: 定期的な健康診断で、肝臓や腎臓の機能、血糖値などをチェックし、早期に異常を発見することが大切です。
  • 適切な食事管理: 獣医師の指導のもと、疾患に応じた療法食を与えたり、適切な栄養管理を行うことで、病気の進行を遅らせることができます。
  • 病気の早期治療: 基礎疾患がある場合は、獣医師の指示に従い、適切に治療を行うことが痙攣の予防に繋がります。

 

4.感染症

特定の感染症が脳に影響を与え、痙攣を引き起こすことがあります。

  • 犬ジステンパーウイルス感染症: 脳炎を引き起こし、痙攣を含む神経症状を呈することがあります。
  • 狂犬病: 非常に危険な感染症で、痙攣を含む神経症状が見られます。

 

【予防法・対処法】
感染症による痙攣は、ワクチン接種で予防できる場合があります。

  • 定期的なワクチン接種: 犬ジステンパーウイルス感染症など、ワクチンで予防できる感染症については、獣医師と相談し、適切なワクチンプログラムで予防接種を受けましょう。
  • 衛生管理: 常に清潔な環境を保ち、感染症のリスクを低減することも重要です。

 

5.その他の原因

  • 水頭症: 脳に髄液が過剰に溜まる病気で、脳を圧迫し痙攣を引き起こすことがあります。先天的な場合と後天的な場合があります。
  • 脳腫瘍: 脳にできた腫瘍が脳を圧迫したり、電気信号を乱したりすることで痙攣を引き起こします。
  • 熱中症: 重度の熱中症では、体温の上昇により脳に異常が生じ、痙攣を起こすことがあります。

 

【予防法・対処法】
これらの原因に対しては、早期発見・早期治療が重要です。

  • 異常な行動や症状に注意: ふらつき、元気がない、食欲不振など、普段と違う様子が見られたら、早めに動物病院を受診しましょう。
  • 適切な温度管理: 夏場の散歩時間や室内温度に注意し、熱中症を予防しましょう。

 


痙攣(けいれん)後の自宅でのケア

 

痙攣がおさまった後も、愛犬は一時的に混乱したり、疲労困憊したりすることがあります。安心して休ませてあげられるよう、以下の点に注意してケアしましょう。

 

  • 安静にさせる: 痙攣後は疲労困憊しているため、静かで落ち着ける場所でゆっくりと休ませてあげましょう。無理に触ったり、話しかけたりせず、回復するまで見守ります。
  • 体温調節: 痙攣によって体温が上昇することがあります。体が熱い場合は、濡らしたタオルなどで体を冷やしてあげましょう。ただし、急激な冷却は避け、様子を見ながら行ってください。
  • 水分補給: 痙攣中に口の周りが泡立つなどして水分が失われることがあります。落ち着いて意識がはっきりしたら、少量ずつ水を与えて脱水状態を防ぎましょう。
  • 食事: 意識が回復し、食欲があれば、普段通りの食事を与えても構いません。ただし、一度にたくさん与えず、少量ずつ与えて様子を見ましょう。
  • 異常がないか観察: 痙攣後もふらつき、元気がない、食欲不振、嘔吐、下痢などの異常が見られる場合は、すぐに動物病院に連絡してください。

 


よくある質問(FAQ)

 

Q1:犬が痙攣しているとき、口の中に指を入れてもいいですか?

A1:絶対にやめてください。愛犬が舌を噛むことを心配される方もいますが、犬は舌を噛み切ることはほとんどありません。それよりも、飼い主さんが噛まれて大怪我をする危険性が非常に高いです。痙攣中は犬も意識がないため、反射的に噛んでしまうことがあります。

 

Q2:痙攣中に意識はありますか?

A2:通常、痙攣中は意識がありません。飼い主さんの呼びかけに反応したり、周囲を認識したりすることはできません。そのため、無理に話しかけたり触ったりせず、静かに見守ることが重要です。

 

Q3:痙攣が終わった後、すぐに動物病院に連れて行くべきですか?

A3:初めての痙攣の場合や、痙攣が5分以上続いた場合、または短時間に繰り返す場合は、すぐに動物病院を受診してください。痙攣が短時間で収まり、その後意識がはっきりして元気であれば、念のため翌日など改めて受診し、獣医師に相談することをおすすめします。

 

Q4:てんかんの犬は、一生薬を飲み続ける必要がありますか?

A4:てんかんの種類や重症度によりますが、多くの場合、生涯にわたる投薬が必要になります。投薬を中断すると、発作が再発したり、悪化したりする可能性があります。獣医師の指示に従い、自己判断で投薬を中止しないようにしましょう。

 

Q5:痙攣中に排泄してしまうのは普通ですか?

A5:はい、痙攣中は意識がないため、排泄を我慢できずに失禁・脱糞してしまうことがあります。これは痙攣発作によく見られる症状の一つです。落ち着いてから片付ければ問題ありません。

 


まとめ

 

愛犬が初めて痙攣を起こしたときは誰でも驚いてしまい、落ち着いて適切に対処するのは難しいと思います。しかし、痙攣はどんな犬にも起こり得ます。

この先のもしもに備えて、痙攣を起こしたときに愛犬に何をしてあげられるか、飼い主としてどう行動すればいいのかを事前に知っておくことが大切です。

この記事で紹介した対処法や注意点を頭に入れておき、万が一の際には冷静に対応できるように準備しておきましょう。そして、わからないことや心配なことがあれば、いつでも獣医師に相談することをおすすめします。

 

 

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