「良かれと思って」が逆効果に? 犬との旅行で初心者がやりがちな 「しつけの落とし穴」と専門家のアドバイス

愛犬との旅行。想像するだけでワクワクしますよね。

  • 「景色の良い場所を一緒にお散歩したい」
  • 「素敵なドッグカフェでランチを楽しみたい
  • 「旅館で一緒にリラックスしたい」


そんな夢を描いて準備を始めたものの、いざ当日になると「こんなはずじゃなかった」という現実に直面する飼い主様は、実は少なくありません。

  • 「車の中でずっと鳴き続けて、家族みんながぐったり…」
  • 「カフェで他の犬に吠えかかってしまい、慌ててお店を出た…」
  • 「宿泊先で何度も粗相(そそう)をしてしまい、掃除と謝罪で終わってしまった…」


そして、そんな時、私たちはつい「良かれと思って」NGな対応をとってしまいがちです。

「ダメでしょ!」と大声で叱る。

「恥ずかしい」とリードを強く引く。

「かわいそう」と鳴いている犬をすぐクレートから出す。

残念ながら、これらの「その場しのぎの対応」は、問題を解決するどころか、

愛犬の不安や恐怖を科学的に増大させ、飼い主様への信頼を損ねている可能性があります。

 

この記事では、なぜあなたの「しつけ」が逆効果になってしまうのか、その行動学的な理由と、専門家が推奨する「本当に愛犬が安心する」ための科学的なアプローチを、具体的な5つのNG事例と共にご紹介します。

この記事を読めば、あなたは「力で押さえつける」飼い主ではなく、「愛犬のSOSを理解し、守ってあげる」飼い主へと変わることができます。

目次


第1章:大前提となる「旅行の科学」 — なぜ愛犬は「問題行動」を起こすのか?

 

私たちがまず知るべき最も重要な事実は、「犬にとって、旅行や移動は本質的にストレスである」ということです 。

人間にとって「非日常の楽しみ」である旅行は、犬の視点から見れば「日常の安全基地を離れ、未知の刺激(音、匂い、人、場所)にさらされる」という、非常にストレスフルな体験です。

 

科学的エビデンス:移動が引き起こす「ストレスホルモン」

実際に、犬のストレスレベルを科学的に測定した研究が複数存在します。

2020年に発表されたある研究では、自動車での短時間の輸送であっても、犬の唾液に含まれるストレスホルモン(コルチゾール)の濃度が輸送中に有意に上昇したことが報告されています 。

さらに、このコルチゾール濃度は、輸送時間が長引くにつれて(例えば1時間目よりも2時間目)上昇し続ける傾向が示されました 。これは、犬が移動環境に簡単には「慣れない」ことを示唆しています。

 

「問題行動」は「SOSサイン」である

飼い主様が目にする「問題行動」— 吠える、引っ張る、粗相する、震える — は、多くの場合、犬の「反抗」や「わがまま」ではありません。

それらは、この高コルチゾール状態(=生理的ストレス)や、新しい環境に対する「不安」「恐怖」から発せられる、彼らなりの「SOSサイン」なのです 。

しかし、多くの飼い主様がこの「SOS」を「悪いこと」と誤解し、そのSOSを「罰」によって止めようとしてしまいます。この瞬間から、信頼関係の崩壊が始まります。

次の章からは、私たちがやりがちな5つの具体的なNG対応を見ていきましょう。


第2章:良かれが仇に… 旅行先でやりがちなNG対応5選と専門家の処方箋

 

【NG対応 1】 興奮して吠える・威嚇する犬を「大声で叱る・慌てて逃げる」

《よくある失敗ストーリー》

「ドッグカフェに入った瞬間、愛犬が隣の席のワンちゃんに『ワン!』と吠えてしまった。周りの視線が突き刺さり、パニックになった私は『ダメでしょ!静かに!』と大声で叱りつけ、慌ててお店から逃げ出してしまった…」

これは、飼い主様が最も陥りやすい失敗の一つです。しかし、この対応は3つの理由で問題を悪化させます。

 

【NGである科学的理由】

  1. 飼い主のパニックが犬の不安を増幅させる
    犬は、不安な状況で飼い主の表情や声のトーンを見て、「その対象が安全か危険か」を判断する習性があります(社会的参照)。飼い主がパニックになり甲高い声で叱ると 3、犬は「やはり、あの犬(場所)は危険な存在なのだ!」と確信し、恐怖心が正当化され、吠えはさらに悪化します。
  2. 「叱責」が「恐怖」と関連付けられる
    犬が対象物(例:他の犬)に注目した瞬間に、飼い主が「大声で叱る」という不快な刺激を与えると、犬の脳内では「他の犬」=「飼い主の怒声(嫌なこと)」という最悪の関連付け(古典的条件付け)が起こります 4。これにより、「他の犬を見ると嫌なことが起きる」と学習し、恐怖や攻撃性がさらに増大します。
  3. 「慌てて逃げる」ことが吠えを「成功」させてしまう
    「吠える」→「飼い主が慌ててその場から逃げる」→「(結果的に)怖い対象が遠ざかる」
    これは犬にとって、「吠えれば、怖いものを追い払える」という「学習の成功体験」となってしまいます(負の強化)。この学習が成立すると、犬は今後、苦手なものに遭遇するたびに、それを遠ざけようと(成功体験に基づき)吠えるようになります。

 

【専門家が推奨する正しい対策】

  • その場での対処法(マネジメント)
    叱らず、慌てず、飼い主が「盾」になってください。愛犬と対象物の間に静かに立ち、「大丈夫だよ」と冷静に声をかけながら、Uターンして静かにその場を離れましょう。犬が吠えずにいられる安全な距離(閾値=いきち)を保つことが最優先です。あなたの冷静な態度こそが、犬にとっての「安全」の証となります。
  • 根本的な解決策(事前の準備)
    • [原因が「恐怖」の場合]
      「怖いもの」の感情を「良いもの」に書き換えるトレーニング(拮抗条件付け)を行います。旅行のずっと前から、散歩中などに他の犬や人が遠くに見えたら、吠える前に、すかさず特別なおやつを与えます 。これを繰り返し、「他の犬(人)=美味しいおやつがもらえる!」というポジティブな予測に情動を変化させます。
    • [原因が「興奮(遊んで!)」の場合]
      「吠える」以外の静かな行動を強化します 3。興奮しそうになったら「お座り」や「伏せ」をさせ、静かにできた瞬間にご褒美を与えます。「吠えるより静かに待つ方が良いことがある」と教えましょう。

 

【NG対応 2】 車や宿のクレートで鳴く犬を「かわいそう」とすぐに出す

《よくある失敗ストーリー》

「旅行の朝、車に乗せようとクレートに入れた途端、『クーン、キャンキャン!』と鳴き始めた。高速道路でも鳴き止まず、かわいそうになって、つい助手席で抱っこしてしまった。宿でも同じだった…」

この「優しさ」が、実は愛犬の不安を固定化させています。

 

【NGである科学的理由】

  1. 「要求吠え」を飼い主が強化している
    これは学習理論(オペラント条件付け)における、最悪のタイミングでの「報酬」です。
    (1) 犬が「鳴く・吠える」(行動)
    (2) 飼い主が「かわいそう」とクレートから出す(結果=報酬)
    (3) 犬は「鳴けば(吠えれば)出してもらえる」と完璧に学習する
    一度この学習が成立すると、犬は要求を通すため、より激しく、より長く鳴き続けるようになります。
  2. クレートへの「負の関連付け」が固定化される
    そもそも犬が鳴いているのは、クレートが「安全で快適な場所」としてポジティブに認識されていないためです 5。その不安な状態で「鳴く→出られる」という経験を繰り返すと、「クレート=閉じ込められる不快な場所、鳴いて脱出すべき場所」という認識が確定し、二度とクレートに入ってくれなくなります。

 

【専門家が推奨する正しい対策】

  • その場での対処法(マネジメント)
    • 重要:まずは「医学的要因」の確認を!
      単なる「要求」ではなく、「車酔い」、「暑さ(熱中症)」、「排泄がしたい」といった生理的な苦痛を訴えている可能性を最優先で確認してください。
    • [「要求吠え」と判断した場合]
      心を鬼にして、「声かけをしない」「目を合わせない」ことを徹底します 。そして、犬が鳴き止んだ瞬間(たとえそれが息継ぎの1秒間であっても)を見計らって、「静かだね」と優しく声をかけ、クレートの扉を開けます。「静かになったら出られる」と教えることが重要です。また、クレートをタオルなどで覆い、視覚的な刺激を遮断すると落ち着きやすくなる場合もあります 。
    • 注意: 本当のパニック(分離不安)を起こしている場合は、無視することでトラウマが悪化します。その場合は専門家への相談が必要です 。
  • 根本的な解決策(事前の準備)
    これが99%の解決策です。旅行の数週間~数ヶ月前から、クレートを「罰の場所」ではなく「最高に安全で快適な隠れ家」として教える「クレートトレーニング」を行います 。

    • ステップ例:
      1. クレートの中でおやつや食事を与える。
      2. クレートの中でリラックスして寝る習慣をつける。
      3. 扉を閉める時間を数秒から始め、徐々に延ばす。
        この準備なしに、旅行当日いきなり犬をクレートに閉じ込めるのは、準備運動なしに100m走を全力疾走させるようなものです。

 

【NG対応 3】 嫌がる犬を「社会化のために」と無理やり触れ合わせる

《よくある失敗ストーリー》

「うちの子は怖がりだから、慣れさせようと思ってドッグランに連れて行った。案の定、隅で震えていたけど、『ほら、ご挨拶は?』と無理やり他の犬に近づけようとしたら、急に唸りだしてしまった…」

これは「社会化」に関する、最も危険で悲しい誤解です。

 

【NGである科学的理由】

  1. それは「社会化」ではなく「感作(かんさ)」
    「社会化」とは、犬自身のペースで「ポジティブで安全な経験を積み重ねる」プロセスです 8。
    犬が嫌がっている(恐怖を感じている)のに、その苦手な刺激(他の犬、人混み)に無理やりさらし続ける行為は「洪水法(フラッディング)」と呼ばれます 。これは社会化ではなく、その刺激に対する恐怖をさらに強め、過敏に反応するようにしてしまう「感作(かんさ)」という真逆のプロセスです。
  2. 犬の「やめて!」というSOSサインを無視している
    犬は恐怖やストレスを感じると、その場を収めようとして、様々なボディランゲージ(カーミングシグナル)を発します。

    • あくびをする(眠くないのに) 
    • 目をそらす、顔を背ける 
    • 鼻や口を舐める(リップリック) 
    • 体をブルブルと振る 
    • しっぽが下がる、足の間に巻き込む
      NG対応は、これらの犬が発する「やめてほしい」「怖い」という明確なSOSサインを、飼い主が「社会化のため」という大義名分で無視している状態です。
  3. 「攻撃」か「無気力」に追い込んでいる
    SOSを無視され続け、逃げ場がないと犬が判断した時、犬が取りうる最後の手段は2つです。
    (a) 攻撃(Fight): 自分を守るため、相手を威嚇・攻撃する(吠える、唸る、噛みつく)。
    (b) 学習性無力(Freeze): 何をしてもこの恐怖から逃れられないと諦め、無反応・無気力になる。これは「慣れた」のではなく、精神的にシャットダウンした極度のストレス状態です。

 

【専門家が推奨する正しい対策】

  • その場での対処法(マネジメント)
    愛犬のボディランゲージを学び、「嫌がっているサイン」を少しでも見せたら、即座にその場を離れ、愛犬を物理的に守ってください。無理に挨拶させる必要は一切ありません。「他の犬と仲良く遊ぶこと」が社会化のゴールではなく、「他の犬や人がいても、パニックにならず、冷静に(無視して)やり過ごせること」が重要な目標です。
  • 根本的な解決策(事前の準備)
    犬のペースで、無理なくポジティブな経験を積ませます。

    • 対犬/人: 相手が「気にならない」安全な距離(例:公園のベンチから遠くの犬を眺める)からスタートし、落ち着いていられたら褒めます 。
    • 対環境(カフェ、車): 旅行のための環境馴化も同様です 。いきなり長距離移動やカフェでの滞在を目指すのではなく、最初は「カフェの前を通り過ぎるだけ」「車に乗ってエンジンをかけるだけ」から始め、短時間の滞在から徐々に時間を延ばしていきます 。

 

【NG対応 4】 宿泊先やカフェでの「粗相・マーキング」を感情的に叱る

《よくある失敗ストーリー》

「宿泊先の部屋に入った途端、ベッドの脚にマーキング!『こらー!』と叫んで鼻先をこすりつけようとしたら、今度は見えないところで粗相するようになってしまった…」

これも、しつけとして180度逆効果な対応です。

 

【NGである科学的理由】

  1. 「排泄行為」自体を罰と関連付けてしまう
    犬は、「(場所が悪いのではなく)飼い主の前で排泄する(行為)」自体を叱られた、と学習します。その結果、犬は飼い主の罰(叱責)を避けるため、飼い主の「見えない場所」(例:家具の陰、別の部屋)を選んで隠れて排泄するようになります。問題は解決しないどころか、より悪化・潜伏化します。
  2. 根本原因である「不安」を悪化させている
    特に室内や慣れない訪問先でのマーキングは、縄張り主張よりも「不安」や「ストレス」が原因である可能性が高いと獣医師は指摘しています 2。犬は、慣れない環境や他の犬の匂いが残る場所で不安を感じ、自分の匂いをつけることで「自分を落ち着かせよう(セルフ・カーミング)」としているのです。
    この不安な状態の犬を感情的に叱れば、犬の不安はさらに増大し、不安を解消するために、さらにマーキングを繰り返すという最悪の悪循環に陥ります。

 

【専門家が推奨する正しい対策】

  • その場での対処法(マネジメント)
    • 叱らない、騒がない: 失敗しても、感情的にならず、黙って静かに片付けます 。匂いが残ると同じ場所で繰り返すため、酵素系の消臭剤で匂いを徹底的に消去してください。
    • 物理的予防(マナー): カフェや宿泊先の共有スペースなど、粗相が許されない場所では、犬のしつけレベルに関わらず、マナーベルトやおむつを着用させます 。これは犬のしつけの問題以前に、飼い主の「公衆衛生上のマナー」の問題です。皮膚炎を防ぐため、パッドはこまめに交換しましょう 。
  • 根本的な解決策(事前の準備)
    • 安全な場所の提供や事前に排泄を済ませること: 宿泊先では、自宅から持参したクレートやベッド、おもちゃを設置し、犬が安心して休める「場所」を作ってあげることが不安の軽減につながります 。また、いきなり施設に入るのではなく、周辺を散歩するなどし、外で排泄を済ませることも有効です。
      その際は必ず排泄処理を行うようにしましょう。
    • 医療的確認: (第3章で詳述)環境変化によるストレスが引き金となり、膀胱炎(ぼうこうえん)を発症している可能性もゼロではありません 。頻尿や粗相が続く場合は、しつけの問題と決めつけず、獣医師に相談しましょう。

 

【NG対応 5】 興奮してリードを引っ張るのを「罰(力)」で抑制する

《よくある失敗ストーリー》

「旅行先は刺激が多いせいか、リードをグイグイ引っ張って大変。『しつけのために』と、チョークチェーン(引くと首が締まる首輪)を使ったり、リードを強く引き戻したりして『ダメ!』と教えているが、一向に治らない…」

これは、犬の行動と福祉に深刻な悪影響を及ぼすため、専門家が最も強く反対する対応の一つです。

 

【NGである科学的理由】

  1. 犬の福祉(ウェルフェア)の著しい低下とストレスの増大
    米国獣医行動学会(AVSAB)をはじめとする多くの専門機関が、罰(嫌悪刺激)に基づくトレーニングが犬の福祉に悪影響を与えるとして明確に反対しています。
    2020年に発表された学術研究では、罰ベースの訓練を受けた犬は、報酬ベースの犬と比較して、訓練中により多くのストレス関連行動(例:口唇を舐める、あくび)を示し、訓練後の唾液コルチゾール(ストレスホルモン)の増加率も有意に高かったことが報告されています。力ずくで引く行為は、犬のストレスレベルを科学的に増大させます。
  2. 長期的な心理的ダメージ(悲観的認知バイアス)
    罰の使用は、犬の長期的な心理状態にも影響を与えます。2021年の研究では、罰ベースの訓練を受けている犬は、そうでない犬に比べ、物事を悪い方へ予測しやすい「悲観的」な心理状態(不安傾向)にあることが示されました。
  3. (NG対応1と同様)最悪の「負の関連付け」
    多くの場合、罰(首の苦痛)は、犬が「引っ張った」瞬間ではなく、「他の犬を見た」「子供の甲高い声がした」瞬間に与えられます。その結果、犬は「引っ張ったこと」と「苦痛」を関連付けるのではなく、「他の犬」や「子供」、「特定の場所」と「苦痛」を関連付けて学習します。これにより、それらの対象を見るたびに恐怖や不安を感じ、先制的に吠えたり攻撃的になったりするなど、問題行動が劇的に悪化するリスクがあります。

 

【専門家が推奨する正しい対策】

  • その場での対処法(マネジメント)
    • 道具の変更: まず、チョークチェーンやスパイクカラー(突起のついた首輪)の使用をやめます。犬の首(気管、頸椎、神経)に負担がかからない、Y字型ハーネス(胴輪)の使用が強く推奨されます。
    • 「木になる」: 犬がリードを強く引いたら、飼い主は叱ったり引き返したりせず、ただ「木のように」その場で立ち止まります。犬がリードを緩めた瞬間(または飼い主を振り返った瞬間)に褒め、再び歩き出します。これを繰り返すことで、犬は「リードが張っている状態では前に進めない」ことを学習します(罰ではなく「報酬の消失」の応用です)。
  • 根本的な解決策(事前の準備)
    旅行に行く「前」に、自宅の室内や庭、日々の散歩など、刺激の少ない場所から「リーダーウォーク(リードが緩んだ状態で歩く)」のトレーニングを行います。「飼い主の横を歩くと、良いこと(おやつ、褒め言葉)が起こる」とポジティブに関連付ける(陽性強化)ことで、犬は自ら飼い主の横を歩くことを選択するようになります。

 


【早見表】NG対応と専門家の推奨対策

 

やりがちなNG対応 (例) NGである科学的理由 (犬の心理) 推奨される「その場の対処」 (応急処置) 推奨される「根本的対策」 (事前の準備)
(1) 吠えたのを大声で叱る 飼主のパニックが犬の不安を増幅させ(社会的参照)、叱責が「恐怖」を悪化させる 。 飼主が冷静にUターンし、犬が吠えずに済む距離まで静かに離れる [恐怖] カウンターコンディショニング(対象=おやつ)。

[興奮] 代替行動(お座り)の強化 。

(2) クレートで鳴くのをすぐ出す 「鳴けば出られる」という要求行動を、飼い主が報酬を与えて強化している 。 声をかけず(強化せず)、タオル等で覆い落ち着くのを待つ。静かになった瞬間に出す クレートを「安全な場所」にするポジティブなクレートトレーニングを日常的に行う 。
(3) 嫌がるのを無理に触らせる 「社会化」ではなく「洪水法(フラッディング)」。恐怖を悪化(感作)させ、トラウマを作る 。 犬のストレスサイン(あくび、目をそらす等 )を読み、即座に犬をその場から離し守る 犬のペースで「ポジティブな経験」を積ませる。短時間から徐々に慣らす 。
(4) 粗相・マーキングを叱る 「排泄行為」自体を罰と捉え、隠れてするようになる。根本原因の「不安」を悪化させる 。 叱らず、黙って片付ける。訪問先ではマナーベルト/おむつを着用する(マナー) 。 不安軽減(クレート持参等 )。頻発する場合は膀胱炎などを疑い、必ず動物病院で検査する 。
(5) 引っ張るのを力で引く 「飼い主=苦痛」「他犬=苦痛」と関連付け、恐怖と攻撃性を悪化させる。 引かれたら即座に「立ち止まる」。犬がリードを緩めたら進む。ハーネスを使用する。 報酬ベースの「ルースリード・ウォーキング」訓練を、旅行前に完了させておく 。

 


第3章:見落とされる「医学的」な罠 — それ、本当に「しつけ」の問題ですか?

 

「車で騒ぐ」「宿で粗相する」… 私たちはこれを「しつけ」の問題と決めつけがちです。しかし、専門家は「まず医学的な問題を疑うべき」と警鐘を鳴らします。

 

事例1:車で騒ぐのは「わがまま」ではなく「車酔い」

「うちの子、車でいつもソワソワして、よだれを垂らして、落ち着きなく鳴くんです。しつけがなってないんでしょうか?」

その行動、「車酔い(乗り物酔い)」の典型的な症状かもしれません。

あるペット保険会社の調査によれば、犬の外出中の病気・ケガで最も多かったのは、なんと「乗り物酔い(63%)」でした 。次いで「嘔吐・下痢(23%)」です 。

犬は「気持ち悪い」と言葉で伝えられません。そのため、その不快感が「ソワソワする」「鳴く」「よだれ」といった「行動のSOS」として現れるのです 7。

これを「しつけ」の問題と勘違いして叱れば、犬にとっては「体調が悪いのに怒られる」という二重の苦痛になります。

 

事例2:宿泊先での粗相は「不安」ではなく「病気」

「旅行先でだけ、何度も少量のおしっこ(粗相)をします。不安からくるマーキングですよね?」

その可能性もありますが、「ストレス性膀胱炎(ぼうこうえん)」などの病気の可能性も強く疑うべきです。

獣医師によれば、環境変化によるストレスが引き金となり、膀胱炎を発症することがあります 。膀胱炎になると、常に残尿感があるため、少量ずつ何度も排泄する(=マーキングのように見える)行動が出ることが多いのです 。

 

【専門家からのアドバイス】

旅行中や旅行後に、愛犬の行動や体調に異変(粗相、下痢、嘔吐、過度なパンティングなど)が見られた場合、「しつけ」の問題と決めつける前に、必ず動物病院を受診してください。医学的な問題を解決しない限り、しつけやトレーニングは一切効果がありません。


第4章:「その日」に慌てないために。「3ヶ月前」から始める準備リスト

 

ここまで読んでお分かりの通り、犬との旅行の成否は「当日の対応力」で決まるのではありません。「その日を迎えるまでの、事前準備」ですべてが決まります。

「今度の連休」に旅行したいなら、もう準備は間に合いません。「次の夏休み」「次の年末年始」の成功を目指し、今日から「楽しい練習」を始めましょう。

 

【3ヶ月前】クレートトレーニングを開始する

  • 目標: クレートを「罰の部屋」から「世界一安全な場所」に変える。
  • 方法: (NG対応2参照) クレートの中でだけ特別なおやつやご飯をあげ、扉を開けたまま寝床として使わせることから始めます 。焦りは禁物です。

 

【2ヶ月前】「車」に慣れる練習を開始する

  • 目標: 「車=怖い場所」から「車=楽しい場所(または寝る場所)」に変える。
  • 方法: いきなり長距離移動をせず、ステップを踏みます 。
    1. エンジンをかけない車の中で、クレートに入っておやつを食べる。
    2. エンジンをかけるだけ。すぐ降りる。
    3. 家の周りを1分だけドライブする。
    4. 5分ドライブして、楽しい公園に行く。
      「車に乗ると必ず病院に連れて行かれる」という関連付けを避け、「車に乗ると良いことがある」と教えることが重要です。

 

【1ヶ月前】「場所」に慣れる練習を開始する

  • 目標: カフェや人混みなど、「非日常」の刺激に鈍感になる(中立になる)。
  • 方法: (NG対応3参照) いきなり満席のテラス席に座らせてはいけません 。
    1. カフェの「前」を通り過ぎるだけ(落ち着いていたら褒める)。
    2. カフェから離れた場所で、テラス席の様子を「見る」だけ。
    3. 空いている時間に、テラス席の端で5分だけお茶をする。
      犬がリラックスしている(あくびやパンティングをしていない)状態で、少しずつ滞在時間を延ばしていきます 。

 

【1週間前】動物病院で健康チェック

  • 目標: 医学的な不安を取り除く。
  • 方法: かかりつけの獣医師に旅行の計画を伝え、健康状態をチェックしてもらいます。特に車酔いが心配な場合は、酔い止めの薬を処方してもらうと、犬も人間も格段に楽になります。

 

【旅行当日の持ち物】

  • 必須アイテム:
    • 普段使っているクレート、ベッド、おもちゃ(自分の匂いがする安全基地) 
    • マナーベルト、おむつ(公共の場での必須マナー) 
    • 粗相用の消臭スプレー、大量のペットシーツ、タオル
    • 酔い止め薬(処方された場合)


結論:旅行の成功とは「愛犬が飼い主を信頼し続けること」

 

愛犬との旅行は、素晴らしい経験です。しかし、それは犬の習性や心理を無視して、人間の都合を押し付けて良いという意味ではありません。

「吠えないこと」「粗相しないこと」をゴールにするのではなく、「愛犬が不安な時、飼い主であるあなたを安全な場所として信頼し、安心して過ごせること」をゴールに設定してください。

そのためには、罰で押さえつける「リアクション(反応)」ではなく、愛犬のSOSを理解し、守り、導く「準備(プレパレーション)」が不可欠です。

 

今度の週末、まずは近所の公園のベンチで、「落ち着いて周りを眺める練習」から始めてみませんか?その小さな一歩の積み重ねが、いつか最高の旅行体験につながるはずです。

 

 

 

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