犬の白内障は治る?進行度別の治療法(手術・点眼薬)と費用を徹底解説

犬の白内障は、目の中のレンズである水晶体が白く濁り、視力が徐々に低下する病気です。最終的には失明に至るリスクもあるため、飼い主様にとって「治るのか?」「どう治療すればいいのか?」は最も大きな関心事でしょう。

 

この記事は、獣医師監修のもと、白内障の治療法を深く掘り下げ、飼い主様が最善の選択をするために必要なすべての情報を提供します。

  • 犬の白内障は「治る」のか「治らない」のか、治療の目的。
  • 白内障の進行度別の具体的な治療方法(内科・外科)。
  • 視力回復を目指す外科手術の詳細や費用目安、リスク。
  • 白内障の犬と安全に暮らすための自宅でのケア方法

 

犬の白内障とは?進行度別の症状と「治る」治療の目的

 

白内障の進行は、一般的に以下の段階に分けられ、治療の目的も進行度によって変わります。

 

白内障は「早期発見」と「進行を遅らせる」ことが重要

残念ながら、一度濁ってしまった水晶体を内科的な治療(点眼薬など)で元通りに「治す」ことはできません。内科的治療の目的は、あくまで病気の進行をできる限り遅らせることと、合併症を防ぐことです。

進行度水晶体の状態視力への影響
初期(初発白内障)水晶体の一部が濁り始めるほとんど影響なし。早期発見の段階。
未熟期水晶体の半分以上が濁る視力が徐々に低下。暗い場所で物にぶつかるなど。
成熟期水晶体の全体が白く濁り、光を通さない光を感じる程度になり、ほぼ失明状態
過熟期(末期)濁った水晶体が縮んだり溶けたりするレンズとしての機能が完全に失われる。合併症のリスク大

 

犬の白内障の治療法:内科的治療と外科手術

 

犬の白内障の治療は、大きく「内科的治療」と「外科手術」の2つに分けられます。

 

1. 内科的治療(点眼薬・サプリメント)

内科的治療は、初期〜未熟期の段階で選択される治療法で、白内障の進行スピードを緩やかにし、目の炎症や合併症を予防する目的で行われます。

  • 点眼薬:抗白内障薬(チオプロニンなど)の点眼薬を使用します。これは水晶体の酸化を防ぎ、濁りの進行を遅らせる効果を期待しますが、進行を止めることはできません。
  • 抗炎症薬の点眼:白内障の進行に伴い、目の内部に炎症(ブドウ膜炎など)が起こることがあります。この合併症を防ぐために、抗炎症作用のある点眼薬も併用されます。
  • サプリメント:内服または食事に混ぜるサプリメントで、水晶体の老化に関わる抗酸化成分(ビタミンE、アントシアニン、アスタキサンチン、ルテインなど)を補給し、進行を遅らせる補助的な役割を担います。

内科的治療は、犬の負担が少ない反面、視力の回復は見込めないことを理解しておく必要があります。

 

2. 外科手術(視力回復を目指す唯一の治療法)

外科手術は、濁った水晶体を取り除き、人工のレンズを挿入することで視力の回復を目指す唯一の治療法です。

手術の適用とタイミング

手術は、濁り始めの初期段階ではなく、視覚障害が生活に支障をきたし始める未熟期〜成熟期のごく初期に検討されます。濁りが進みすぎた過熟期では、手術の難易度や合併症のリスクが高くなります。

  • 手術の適応基準:全身麻酔に耐えられる健康状態であること、網膜や視神経に異常がなく、手術によって視力が回復する見込みがあること、などが厳しく判断されます。
  • 手術の内容:超音波の機械を使って濁った水晶体を細かく砕いて吸引し、その代わりに人工の眼内レンズ(IOL)を挿入します。

 

手術の難易度と費用

犬の白内障手術は非常に高度な技術を要するため、眼科専門の獣医師がいる限られた動物病院や専門施設でのみ実施されています。

  • 費用目安:片目あたり30万円〜50万円程度が目安ですが、術前検査や術後の投薬管理を含めるとさらに高額になる場合があります。
  • リスク:全身麻酔のリスクに加え、術後にブドウ膜炎、緑内障、網膜剥離などの合併症を引き起こすリスクがあります。術後も長期にわたる点眼と定期的な検診が不可欠です。

 

白内障の犬と安全に快適に暮らすための注意点

 

手術の有無にかかわらず、視力が衰えた愛犬がストレスなく安全に暮らせるよう、飼い主様が環境を整えることが非常に重要です。

 

自宅でできる安全対策(ホームケア)

犬が慣れた環境を急に変えないことが最大の配慮です。

  • 部屋の模様替えをしない:家具の配置、食器やトイレの位置など、慣れた場所を変えないことで、犬は記憶と触覚を頼りに生活できます。
  • 段差・危険箇所の解消:階段や玄関などの段差、ソファからの落下を防ぐため、スロープを設置したり、クッションを置いたりして対策します。
  • 滑り止め対策:フローリングの床は滑りやすく危険です。滑り止めマットやカーペットを敷き、安全に歩けるようにしましょう。
  • 危険な場所の制限:キッチンやベランダなど、危険な場所には柵(サークル)を設置し、立ち入りを制限します。

 

愛犬への接し方と散歩の注意点

  • 触れる前に必ず声をかける:視覚が衰えると、不意に触られたり抱き上げられたりすることに強く驚き、パニックになることがあります。必ず名前を呼ぶなど声かけをしてから優しく触りましょう。
  • 大きな音を立てない:聴覚が研ぎ澄まされるため、急な大きな音は強いストレスになります。
  • 散歩は継続:散歩は気分転換や運動のために重要です。ただし、人や車の多い危険な場所は避け、リードを短く持って危険から守りましょう。不安がる場合は、慣れたコースや抱っこでの移動を取り入れてください。

 

犬の白内障に関するよくある質問(Q&A)

 

Q1. 白内障を予防する確実な方法はありますか?

残念ながら、白内障を完全に予防する確実な方法はありません。 老化や遺伝が主な原因であるためです。しかし、糖尿病や目の怪我(外傷)が原因で起こる白内障は、糖尿病の適切な管理や、目を怪我から守る対策でリスクを減らすことができます。特に糖尿病を持つ犬は、定期的な眼科検診が必須です。

 

Q2. 白内障の初期症状に気づくポイントは何ですか?

初期の段階では、目の濁りは獣医師でないと発見しにくい場合があります。飼い主様が気づきやすい症状としては、「暗い場所で物にぶつかるようになった」、「ボールやおもちゃを見つけにくそうにしている」、「散歩中に足元の段差をためらう」など、視力のわずかな低下による行動の変化です。また、瞳の真ん中がうっすらと白や青白く見えることもあります。

 

Q3. 白内障手術後の視力は完全に元に戻りますか?

手術で視力はある程度回復しますが、完全に健康な状態に戻るわけではありません。挿入する人工レンズは人間の遠近調節機能(ピントを合わせる機能)がないため、以前と同じクリアな視力には戻らないことが一般的です。しかし、ほとんどの犬は日常生活を送る上で十分な視覚を取り戻し、QOL(生活の質)が大幅に向上します。

 

Q4. 白内障と核硬化症の見分け方を教えてください。

老齢の犬の瞳孔が青白く見えるのは、「白内障」ではなく「核硬化症(かくこうかしょう)」である場合が多いです。核硬化症は水晶体の老化によるもので、視力に大きな影響はありません。見た目だけで判断するのは難しいため、必ず動物病院で専門的な検査を受け、診断してもらう必要があります。

 

まとめ:早期発見と適切な治療選択が愛犬の未来を左右する

 

犬の白内障は、内科的治療で治る病気ではありませんが、早期に発見し、適切な治療と自宅でのケアを行うことで、愛犬のQOL(生活の質)を高く維持することが可能です。

視力回復を目指す場合は外科手術が唯一の選択肢となりますが、手術の適応には厳格な基準があります。まずは定期的な眼科検診を受け、初期段階で発見すること。そして、愛犬の進行度、健康状態、飼い主様の負担を考慮した上で、獣医師と治療方針をじっくり相談してください。

 

 

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