犬の風邪、原因と症状を獣医が解説!こんな症状は要注意【早期発見が重要】

愛犬が頻繁にくしゃみをしていたり、咳が出ていたり、鼻水を垂らしていると「もしかして風邪?」と心配になりますよね。

「そもそも犬は風邪をひくの?」「風邪をひくのであればどういった症状なの?」など、飼い主さんには疑問が多いかもしれません。

犬も人間と同じように「風邪のような症状」を示すことがありますが、その背景には様々な原因が隠れていることがあります。安易な自己判断は、思わぬ病気を見逃してしまうことにも繋がりかねません。

この記事では、犬の「風邪」が具体的にどのような状態を指すのか、その主な原因と症状について、獣医師の視点から詳しく解説します。愛犬の異常にいち早く気づき、適切な対応を取るための参考にしてください。

 

この記事でわかること

  • 犬の「風邪」という言葉の正確な意味
  • 犬が風邪のような症状を示す主な原因となる病気
  • 犬の風邪の具体的な症状と見分け方
  • 見落としがちな要注意症状と、病院に連れて行くべきサイン
  • 風邪のような症状が出た場合の初期対応

 

犬の「風邪」とは?正式な病名ではないってホント?

 

そもそも「風邪」とは何なのでしょうか。人間の場合と同様、犬の「風邪」も、実は病名ではなく「症候名(症状を表す名前)」です。

人間でいう風邪は、主に上部気道(鼻やのどなど)にウイルスが侵入して生じる炎症を指します。犬の場合も同様に、くしゃみ、鼻水、咳といった上部気道炎の症状を総称して「風邪」と呼ぶことがあります。

しかし、犬が風邪の症状を示していたとしても、獣医師のカルテには「風邪」と書かれることはほとんどありません。多くの場合、原因となっているウイルスや細菌、具体的な病名(例:ケンネルコフ、犬ジステンパーなど)が正式な病名として記載されます。

ただし、飼い主さんへの説明では、専門用語では伝わりにくい場合があるため、獣医師がわかりやすくするために「風邪」という用語を使うこともあります。

 

 

犬の風邪の主な原因

 

犬の風邪のような症状は、人間と同じくウイルスや細菌などの病原体に感染したことで引き起こされます。

特に、以下のような犬は免疫力が弱まっていたり、まだ十分に発達していなかったりするため、病原体に感染しやすく、症状が強く出たり重症化したりするリスクが高い傾向があります。

  • 子犬:免疫システムが未熟なため
  • 老犬:加齢により免疫力が低下しているため
  • 基礎疾患のある犬:他の病気を抱えていることで免疫力が落ちているため(例:糖尿病、腎臓病、心臓病など)
  • ストレスがある犬:環境の変化や過度なストレスで免疫力が低下するため
  • 栄養状態が悪い犬:適切な栄養が不足していると免疫力が低下します

 

「寒いと風邪をひく」は本当?

「犬は寒さで風邪をひくのか?」という疑問をよく耳にしますが、厳密には「寒さで体が冷えることによって免疫力が下がり、ウイルスや細菌に感染しやすくなる」というのが正しい理解です。

体が冷えると血行が悪くなり、体全体の免疫機能が低下します。その結果、普段なら感染しないような弱い病原体にも感染してしまったり、すでに体内に潜んでいる病原体が増殖して発症したりするリスクが高まるのです。特に子犬、老犬、基礎疾患のある犬は、冷えによって持病が悪化する恐れもあるため、飼い主さんが温度管理に気を付けてあげることが大切です。

 

犬の風邪のような症状を引き起こす代表的な病原体・病気

犬の「風邪」の主な原因となる、代表的なウイルスや細菌、それに伴う病気をご紹介します。

  • ケンネルコフ(犬伝染性気管気管支炎):最も一般的な犬の呼吸器感染症で、いわゆる「犬の風邪」の代表格です。犬パラインフルエンザウイルス、犬アデノウイルス、犬ヘルペスウイルスなどのウイルスや、ボルデテラ・ブロンキセプティカ菌といった細菌の単独または混合感染によって引き起こされます。非常に感染力が強く、特にペットショップやブリーダーの犬舎、ペットホテル、ドッグランなど、犬がたくさん集まる場所で感染が広がりやすいのが特徴です。
  • 犬ジステンパー:非常に危険なウイルス性の病気で、特にワクチン未接種の子犬に多く見られます。初期症状は風邪に似ていますが、進行すると呼吸器症状の他に、消化器症状(下痢、嘔吐)や神経症状(痙攣、麻痺)、皮膚症状などを引き起こし、致死率が非常に高い病気です。感染力も非常に強いです。
  • 犬インフルエンザ:人間と同じく、インフルエンザウイルス(犬インフルエンザウイルス)によって引き起こされる呼吸器疾患です。発熱、咳、鼻水などの症状が見られます。
  • 犬アデノウイルス感染症:呼吸器型の症状として風邪に似た症状を引き起こすことがあります。
  • マイコプラズマ:細菌とウイルスの中間のような微生物で、呼吸器系の炎症を引き起こし、咳や鼻水が見られることがあります。
  • 気管虚脱:こちらは感染症ではありませんが、小型犬によく見られる病気で、気管がつぶれて呼吸困難や乾いた咳を引き起こします。風邪と症状が似ているため、区別が必要です。

 

 

犬の風邪の具体的な症状と見落としがちなサイン

 

犬の風邪の症状は、人間と同じく「咳」「くしゃみ」「鼻水」が主なものです。しかし、犬特有の症状や見落としがちなサインもあるため、注意が必要です。

 

1. 咳

犬の風邪の症状で最も多く見られるのが咳です。

  • 特徴:ケンネルコフでは、「ゲーッ」というえずくような咳や、「カッカッ」という乾いた咳が特徴的です。まるで喉に何かが詰まったような、吐きそうな仕草に見えることもあります。人間のような「コンコン」という咳とは異なるため、飼い主さんも最初は何の症状か気づきにくいことがあります。
  • 注意点:咳が続く場合は、単なる風邪ではなく、肺炎、心臓病、気管虚脱などの重篤な病気が原因である可能性もあります。特に、興奮時や運動後に咳が出やすい、夜中に咳き込む、舌の色が紫色になる(チアノーゼ)などの症状が見られる場合は、緊急性が高いです。

 

2. くしゃみ・鼻水

くしゃみや鼻水も、犬の風邪でよく見られる症状です。

  • 特徴:初期は透明でサラサラした鼻水が多いですが、鼻腔に細菌感染がある場合、粘り気のある黄色や緑色の膿のような鼻水が出ることがあります。くしゃみも連続して出ることがあります。
  • 注意点:鼻血が混じる、片方の鼻からだけ膿性鼻水が出る場合は、異物の混入や鼻腔内の腫瘍など、別の病気の可能性も考えられます。

 

3. 目やに

犬の場合は人間ほど多くはありませんが、風邪の症状として目やにの量が増えることがあります。

  • 特徴:目やにが粘り気を帯びていたり、量が多くてまぶたがくっついてしまい、目が開けにくいような状態になることもあります。目の周りの毛が汚れやすくなります。
  • 注意点:目の充血、まぶたの腫れ、まぶしそうにするなどの症状を伴う場合は、結膜炎や角膜炎など、目の病気を併発している可能性もあります。

 

4. 発熱

犬の平熱は人間よりも高く、通常38℃台です。熱が出ると39~40℃になることがあります。

  • 確認方法:犬の体温は肛門に体温計を入れて測るのが最も正確ですが、「自分でするのが怖い」という飼い主さんも多いでしょう。そのような場合は、耳の付け根や内側、足の付け根などを触ってみましょう。熱がある場合は、普段より熱くなっているのを感じられるはずです。普段から愛犬とのスキンシップをたくさんしていれば、体温の変化にも気づきやすいかと思います。
  • 注意点:熱が出ると、食欲や元気が減退することが多いです。ぐったりしている、震えている、呼吸が速いなどの症状を伴う場合は、高熱の可能性があります。

 

5. その他、見落としがちなサイン

上記以外にも、以下のようなサインが見られることがあります。

  • 元気がない、ぐったりしている:遊びたがらない、散歩に行きたがらないなど。
  • 食欲不振:フードを食べ残す、全く食べないなど。
  • 下痢や嘔吐:ウイルス感染などにより、呼吸器症状と消化器症状が同時に現れることがあります。
  • 扁桃腺の腫れ:喉の奥が腫れて、飲み込みにくそうにしたり、咳の原因になったりすることがあります。

 

 

愛犬に風邪のような症状が出た場合の初期対応と動物病院を受診する目安

 

愛犬に風邪のような症状が見られた場合、まずは落ち着いて以下の点を確認し、対応しましょう。

 

初期対応のポイント

  • 愛犬の様子をよく観察する:症状の具体的な内容(咳の種類、鼻水の色など)、頻度、食欲や元気の状態、排泄の様子などを詳しく観察し、記録しておきましょう。
  • 安静にさせる:愛犬がゆっくり休める静かで快適な環境を整え、無理な運動や興奮は避けましょう。
  • 温度・湿度管理:室温は犬が快適に過ごせる20〜25℃程度、湿度は50〜60%を目安に保ちましょう。乾燥している場合は加湿器を使用するなどして、喉や鼻の粘膜への負担を軽減します。
  • 水分補給を促す:いつでも新鮮な水が飲めるように準備し、こまめに水分を摂るように促しましょう。
  • 自己判断で薬を与えない:人間の薬は犬に有害な成分が含まれていることがあります。絶対に自己判断で薬を与えないでください。

 

これらの症状が見られたら、すぐに動物病院へ!

犬の風邪の症状は、単なる軽度のものから命に関わる重篤な病気のサインまで様々です。飼い主さんの判断で「風邪だろう」と放っておくのは非常に危険です。以下の症状が見られた場合は、できるだけ早く動物病院を受診してください。

  • 食欲がない、または全く食べない日が続く
  • 元気がない、ぐったりしている、呼びかけに反応が薄い、明らかに様子がおかしい
  • 鼻水に膿が混じっている、または血が混じっている
  • 咳が長引く(数日以上続く)、呼吸が苦しそう(肩で息をする、口を開けて呼吸する)、ゼーゼーと音がする
  • 高熱がある(平熱より明らかに高い)
  • 目やにがひどく、目が開けにくい
  • 下痢や嘔吐を伴う
  • 痙攣などの神経症状が見られる
  • 子犬や高齢犬、持病のある犬が症状を示している場合

早期発見、早期治療が愛犬の命を守ることに繋がります。躊躇せずに獣医師に相談しましょう。

 

 

よくある質問(FAQ)

 

Q1: 犬の風邪はうつりますか?

A1: **人間にはうつりません**が、犬同士の間では感染が広がる可能性が非常に高いです。特に、ケンネルコフなどの呼吸器系の感染症は、飛沫感染や接触感染で簡単に広がります。多頭飼いの場合は、一頭が風邪のような症状を見せたら、他の犬への感染を防ぐために隔離するなどの対策が必要です。

 

Q2: 子犬が風邪をひいた場合、特に注意することはありますか?

A2: 子犬は免疫力が未発達なため、大人よりも症状が重篤化しやすく、肺炎などに移行するリスクが高いです。また、ジステンパーウイルスなど、子犬にとって致命的な病気の可能性もあります。症状が軽度に見えても、必ず早めに動物病院を受診し、獣医師の指示に従ってください。

 

Q3: 犬が咳をしているのですが、ケンネルコフ以外にどんな病気が考えられますか?

A3: 咳の原因は多岐にわたります。ケンネルコフ以外では、心臓病(心臓肥大による気管圧迫)、気管虚脱、肺炎、アレルギー性気管支炎、フィラリア症、喉に異物が詰まっているなどが考えられます。咳の様子(乾いた咳か湿った咳か、頻度、出るタイミングなど)を詳しく獣医師に伝えましょう。

 

Q4: 犬が風邪をひいた場合、自宅でできるケアはありますか?

A4: 獣医師の指示に従うことが前提ですが、自宅では安静にさせ、適切な温度・湿度管理(室温20〜25℃、湿度50〜60%)、十分な水分補給、消化しやすい栄養価の高い食事を与えることが重要です。鼻水や目やにがあれば優しく拭き取り、寝床や食器を清潔に保ちましょう。自己判断で人間用の薬を与えるのは絶対に避けてください。

 

Q5: 犬の風邪予防には何が効果的ですか?

A5: 最も効果的なのは、ジステンパーやケンネルコフの一部に対応する「混合ワクチン」の定期的な接種です。その他、適切な温度・湿度管理、バランスの取れた食事、十分な休養、ストレスの軽減、清潔な生活環境の維持などが免疫力を高め、風邪の予防に繋がります。

 

 

まとめ

 

愛犬が頻繁にくしゃみをしたり、咳をしたり、鼻水を垂らしている場合、「風邪かな?」と心配になるのは当然のことです。

犬の「風邪」は人間と同じく症候名であり、その背景にはケンネルコフやジステンパーなど、様々な感染症が隠れている可能性があります。寒さで体が冷えることによって免疫力が低下し、ウイルスや細菌に感染しやすくなるため、特に子犬や老犬、持病のある犬は注意が必要です。

もし、愛犬に咳、くしゃみ、鼻水、目やに、発熱といった症状が見られ、特に食欲がない、元気がない、呼吸が苦しそう、膿性の鼻水が出るといった場合は、自己判断せずに、必ず早期に動物病院を受診してください。

愛犬の小さな変化に気づき、適切な対応をすることが、健康と命を守るために最も重要です。

 

 

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