獣医師
島田 真美
ペット栄養管理士 / NRサプリメントアドバイザー / 帝京科学大学非常勤講師
こんにちは島田です。
毎年、春先になると「狂犬病の予防注射」のお知らせがくるので、「狂犬病」という病名を見たり聞いたりしたことはあると思います。
しかし、実際にどのような症状があらわれるのか、どれくらい危険なのかまで把握している人は少ないのではないでしょうか。
今回は、狂犬病について、どのような病気で、どのようにして感染するのかなどを詳しく解説します。
狂犬病ってどんな病気?
狂犬病は脳神経に炎症を起こす神経系のウイルス性人獣共通感染症です。
おもに狂犬病ウイルスを保有する動物に咬まれたり、引っ掻かれたりすることで感染します。
海外旅行中に犬に咬まれて帰国後に発症した例をのぞくと、日本国内での狂犬病の感染者は1957年以降発生しておらず、ほぼ根絶された状態と言えます。
しかし、世界的には感染の心配がほとんどない清浄地域は数えるほどしかなく、WHOの推計によれば2017年に59,000人が亡くなっているとのこと。
現代においてもいまだに脅威でありつづけているおそろしい病気なのです。
人の場合、狂犬病の発症初期には、発熱や食欲不振、喉の痛み、咳といった風邪のような症状が見られます。
その後強い不安や興奮、錯乱、幻覚などがあらわれ、のどの筋肉が痙攣を起こすために水が飲めなくなる恐水発作などの神経症状がおきます。
そして、最終的には昏睡状態から呼吸停止となってほぼ100%が死に至ります。
狂犬病の感染経路と潜伏期間
狂犬病は、発病した動物の唾液中のウイルスが咬まれた傷などから体内に侵入することで感染します。
また、粘膜からも感染しますので、目や口、すり傷などを舐められることでも感染する可能性があります。ほかに、角膜移植によって人から人へ感染した例も報告されています。
体内に侵入したウイルスは神経を伝って脊髄、そして脳に移動して増殖し、唾液腺から体外に排出されるようになります。
感染してから発症するまでの潜伏期間は、ウイルスが侵入した場所が脳に近いほど短くなります。
早ければ10日ほど、平均的には1〜2か月と言われています。ただし、数か月(まれに1年以上)経ってから発症した例もあるようです。
犬以外も狂犬病になる?
名前に犬が含まれるうえに、日本では予防接種が義務づけられているのが犬だけということもあり、犬の病気というイメージを持っている人も多いかもしれません。
しかし、狂犬病は人を含むすべてのほ乳類に感染しうるのです。
世界的に見ると人への感染源はおもに犬ですが、猫も例外ではありません。ヨーロッパではキツネ、北米ではアライグマやスカンク、中南米ではコウモリ、マングースなどからの感染も見られます。
そのほか、人への感染源とはなりにくいですが、牛や馬、豚といった家畜にも狂犬病は感染します。
また、2002年にペルーからボリビアへ輸入されたペット用のハムスターが狂犬病に感染していた例もあります。
そして、狂犬病発症後の死亡率は人と同じくほぼ100%とされています。
なお、鳥類や爬虫類には感染しません。
【まとめ】
世界的に見れば、狂犬病はいまだに猛威を振るいつづけている病気です。
さまざまな動物に感染し、発症すれば人も動物もほぼ100%死亡します。
日本では1957年以降感染は確認されていませんが、旅行者が海外で感染して亡くなっています。
輸入されたハムスターが狂犬病に感染していたボリビアの例を見ても、海外から国内に持ち込まれる可能性はゼロではありません。
韓国のように一度は根絶に成功しながら再び汚染国となった例もあります。
狂犬病は決して過去の病気ではなく、今も人や動物の命を脅かしつづけている病気なのです。