夏の猛暑が過ぎ去り、愛犬とのお出かけが楽しい秋。しかし、この過ごしやすい季節こそ、犬の体調管理に一層の注意が必要な時期です。人間が季節の変わり目に体調を崩しやすいように、犬もまた、秋特有の環境変化によって様々な病気のリスクにさらされています。
その主な理由は、「激しい寒暖差」と「夏の疲労蓄積」です。日中と朝晩の気温差は自律神経の乱れを招き、夏の間に消耗した体力が回復しきれていないと免疫力も低下しがちになります。その結果、普段なら乗り越えられる不調が、大きな病気へと発展してしまうのです。
今回は、特に秋に発症・悪化しやすい犬の病気をランキング形式でご紹介し、その原因と対策を詳しく解説します。
この記事でわかること
- 秋という季節が犬の体に与える影響と、病気が増える理由
- 獣医師が選ぶ、秋に特に注意すべき病気ランキングTOP3
- 各病気の具体的な症状、原因、家庭でできる予防・対策法
- 見逃してはいけない「すぐに病院へ行くべき」危険なサイン
- ランキング以外の秋の健康トラブルと、よくある質問
【獣医師が解説】秋に注意したい犬の病気ランキング TOP3

数ある不調の中でも、特に動物病院での遭遇率が高い3つの病気について見ていきましょう。
第1位:胃腸炎(嘔吐・下痢)
季節の変わり目に最も多く見られるのが、嘔吐や下痢を主症状とする胃腸炎です。
原因
夏の暑さで低下した胃腸機能が回復しないまま、秋の寒暖差によるストレスにさらされることが最大の原因です。体が冷えることで血行が悪くなり、消化機能がさらに低下します。また、夏バテから回復して食欲が急に戻り、食べ慣れないものを食べたり、急に食事量が増えたりすることも胃腸への大きな負担となります。
こんな症状に注意!
- 繰り返し吐く、または下痢をする
- 食欲がなく、ぐったりしている
- お腹を触られるのを嫌がる、お腹を丸めて震えている
- よだれが多い、頻繁に口をクチャクチャさせる
嘔吐物や便に血が混じる、1日に何度も吐き続ける、ぐったりして動けないといった場合は、脱水症状が急速に進行する危険があるため、すぐに動物病院を受診してください。
家庭でできる予防と対策
まずは体を冷やさないことが第一です。暖かい寝床を用意し、室温を一定に保ちましょう。食事は消化の良いフードを選び、1回の量を減らして回数を増やすなど、胃腸に負担をかけない工夫が大切です。症状が軽い場合は半日ほど食事を抜いて胃腸を休ませることも有効ですが、子犬やシニア犬、持病のある犬の場合は獣医師に相談してください。
第2位:関節疾患(椎間板ヘルニアなど)
気温が下がってくると、人間と同じように犬も関節の痛みを訴えることが増えます。
原因
気温の低下による血行不良で、筋肉や関節周辺が硬直しやすくなります。また、夏場の運動不足で筋力が低下しているところに、涼しくなって急に活動量が増えることで、関節に過度な負担がかかります。特にシニア犬や、ダックスフンド、コーギーなどの犬種は椎間板ヘルニアのリスクが高いため注意が必要です。
こんな症状に注意!
- 歩き方がぎこちない、足を引きずる
- ソファや階段などの段差を嫌がるようになる
- 立ち上がるのに時間がかかる、朝起きた時の動きが特に悪い
- 抱っこしようとするとキャンと鳴く、体を触られるのを嫌がる
急に立てなくなった、足が完全に麻痺している、体を丸めて激しく震えている場合は、椎間板ヘルニアなどが重症化している可能性があります。緊急を要するため、夜間であってもすぐに動物病院へ連絡してください。
家庭でできる予防と対策
フローリングなどの滑りやすい床には、カーペットやマットを敷いて足腰への負担を減らしましょう。散歩前には軽いマッサージなどで筋肉をほぐすことも効果的です。また、肥満は関節への最大の敵。適切な体重管理を心がけ、必要に応じてグルコサミンやコンドロイチンなどの関節用サプリメントを取り入れるのも良いでしょう。
第3位:泌尿器系疾患(膀胱炎・尿石症)
寒くなると飲水量が減るため、おしっこのトラブルが増加します。
原因
飲水量が減ると尿が濃くなり、細菌が繁殖しやすくなったり(膀胱炎)、尿中のミネラル成分が結晶化しやすく(尿石症)なったりします。また、寒さでトイレを我慢しがちになることも、膀胱内で細菌が増える一因です。
こんな症状に注意!
- 何度もトイレに行くが、少ししか尿が出ない(頻尿)
- 排尿時に痛そうに鳴く、力んでいる
- 尿の色が濃い、キラキラしたものが混じる、血が混じる(血尿)
- トイレ以外の場所で粗相をしてしまう
特に危険なのは、結石が尿道に詰まってしまう「尿道閉塞」です。おしっこが全く出ない状態が半日以上続くと、尿毒症を起こし命に関わります。元気がない、嘔吐、お腹が張っているなどの症状が見られたら、一刻も早く病院へ向かってください。
家庭でできる予防と対策
いつでも新鮮な水が飲めるように、水飲み場を複数設置しましょう。ドライフードをお湯でふやかしたり、ウェットフードを活用したりして食事から水分を補給するのも非常に効果的です。また、散歩の時間を確保し、排尿を我慢させない環境づくりも大切です。
TOP3以外にも!秋に気をつけたい健康トラブル
- 皮膚トラブル:夏の間に受けた紫外線ダメージや、秋の乾燥、換毛期などが重なり、フケやかゆみ、皮膚炎が悪化することがあります。
- 呼吸器疾患:空気が乾燥し始めると、ウイルスが活発になり、「ケンネルコフ」のような呼吸器の感染症にかかりやすくなります。
- ノミ・マダニ:涼しくなっても活動は続きます。草むらに入ることが増える秋こそ、予防・駆除を徹底しましょう。
犬の秋の病気に関するよくある質問
- Q1. 人間でいう「秋バテ」のような症状は犬にもありますか?
- A1. はい、あります。
夏の疲れが抜けきらず、寒暖差による自律神経の乱れが加わることで、「なんとなく元気がない」「食欲にムラがある」「よく寝ている」といった、人間でいう秋バテに似た症状が見られることがあります。ただし、これらの症状は病気の初期サインでもあるため、長く続く場合は一度診察を受けることをお勧めします。 - Q2. シニア犬(老犬)が秋に特に気をつけるべき病気は何ですか?
- A2. 特に関節疾患と、心臓や腎臓などの持病の悪化です。
シニア犬は体温調節機能や免疫力が低下しているため、寒暖差の影響を非常に受けやすいです。体が冷えることで関節痛が悪化したり、血行不良が心臓や腎臓に負担をかけたりすることがあります。保温を徹底し、定期的な健康診断で持病の状態をしっかり管理してあげましょう。 - Q3. 関節や泌尿器系の健康維持におすすめのサプリメントはありますか?
- A3. 獣医師への相談が前提ですが、有効な成分はあります。
関節にはグルコサミンやコンドロイチン、緑イ貝抽出物などが、泌尿器系にはクランベリー抽出物などが健康維持に役立つとされています。しかし、犬の状態や体質によって合う・合わないがあり、病気の治療薬ではありません。自己判断で与える前に、必ずかかりつけの獣医師に相談し、愛犬に合ったものを選ぶようにしてください。
まとめ:季節の変わり目は愛犬のサインを見逃さないで
秋は犬にとって過ごしやすい季節である一方、様々な病気のリスクが潜んでいます。今回ご紹介したTOP3の病気は、いずれも日々の生活の中での予防が非常に重要です。
「食事・運動・水分補給」のバランスを急に変えず、徐々に秋の気候に体を慣らしていくことを意識しましょう。そして何より、愛犬の少しの変化に気づけるよう、日頃からよく観察し、コミュニケーションをとることが大切です。気になる症状があれば、自己判断せずに早めに動物病院に相談してください。