犬の狂犬病はどんな病気?感染経路・症状から致死率まで獣医師が徹底解説

毎年、愛犬の狂犬病予防接種のお知らせが届くたびに、「狂犬病ってどんな病気?」と疑問に思う飼い主さんは多いでしょう。幸い、日本では長年発生が確認されていませんが、世界的には未だに多くの命を奪っている恐ろしい病気です。

この記事では、獣医師監修のもと、狂犬病の基本的な知識から、感染のメカニズム、致死率が高い理由まで、飼い主さんが知っておくべき情報を網羅的に解説します。

 

このコンテンツを読むことで、以下の内容が理解できます。

  • 狂犬病の症状と致死率がほぼ100%である理由
  • 犬が狂犬病に感染する経路と潜伏期間
  • 犬以外の動物も感染するのか?
  • なぜ日本では狂犬病予防接種が義務付けられているのか

正しい知識を持つことが、愛犬の命を守る第一歩です。狂犬病の現実を理解し、予防の重要性を再認識しましょう。

 

狂犬病の症状と恐ろしい致死率

 

狂犬病は、狂犬病ウイルスに感染することで発症する、神経系のウイルス性感染症です。感染すると、脳や脊髄に重い炎症を引き起こします。

 

発症後の主な症状

狂犬病ウイルスに感染後、潜伏期間を経て発症すると、以下のような段階的な症状が現れます。

  1. 前駆期(1~3日):初期の段階で、犬の場合は性格の変化や食欲不振、落ち着きがない、咬みつこうとするなどの行動異常が見られます。人では、発熱、食欲不振、頭痛、喉の痛みなど、風邪のような症状が中心です。
  2. 狂躁期(1~7日):ウイルスが脳神経を侵し始め、強い興奮状態に陥ります。犬は攻撃的になり、人や動物に無差別に咬みついたり、ものを破壊したりします。特徴的な症状として、のどの筋肉が痙攣し、水を飲もうとすると発作を起こす「恐水症」、光や音に過剰に反応する「恐光症」が見られることがあります。
  3. 麻痺期(1~10日):徐々に全身の筋肉が麻痺し始め、最終的には昏睡状態に陥り、呼吸停止によって死に至ります。

発症してからの致死率はほぼ100%です。狂犬病に対する有効な治療法は存在せず、発症すると回復することはできません。このため、何よりも「発症させない」ための予防が重要視されるのです。

 

狂犬病の感染経路と潜伏期間

 

狂犬病ウイルスは、主に感染した動物の唾液中に存在します。感染経路と潜伏期間について、詳しく見ていきましょう。

主な感染経路

狂犬病の感染経路は、以下のようなものが考えられます。

  • 咬傷(こうしょう):感染した動物に咬まれることで、傷口からウイルスが体内に侵入します。これが最も一般的な感染経路です。
  • 引っ掻き傷:感染した動物に引っ掻かれ、傷口に唾液中のウイルスが入ることでも感染します。
  • 粘膜感染:目や口、鼻などの粘膜からウイルスが侵入することでも感染する可能性があります。

体内に入ったウイルスは、神経を伝ってゆっくりと脳に到達します。このウイルスが脳に到達するまでの期間が「潜伏期間」です。

 

潜伏期間はどれくらい?

狂犬病の潜伏期間は、ウイルスが体内に侵入した部位によって大きく異なります。

  • 短期間(10日〜数ヶ月):ウイルスが脳に近い、顔や頭部、首などを咬まれた場合、潜伏期間は短くなります。
  • 長期間(数ヶ月〜1年以上):手足の先端など、脳から遠い場所を咬まれた場合、ウイルスが神経を移動するのに時間がかかるため、潜伏期間が長くなることがあります。

潜伏期間中は症状が出ないため、飼い主さんが気づかないうちに感染が進んでいる可能性があります。この間にも、ウイルスは徐々に脳へと向かっていくのです。

 

犬以外も狂犬病になる?

 

「狂犬病」という名前から犬だけの病気と思われがちですが、実は人を含むすべての哺乳類が感染する可能性があります。鳥類や爬虫類には感染しません。

世界的に見ると、人への感染源は主に犬ですが、その他にも以下のような動物が感染源となることがあります。

  • ペット:猫、ハムスター、フェレットなど
  • 野生動物:キツネ、アライグマ、スカンク、コウモリなど
  • 家畜:牛、馬、豚など

近年では、日本に輸入されたハムスターから狂犬病ウイルスが検出された事例もあり、海外からウイルスが持ち込まれるリスクはゼロではありません。このため、犬以外の動物も感染しうるという事実を認識しておくことが重要です。

 

狂犬病に関するよくある質問

 

Q1. 日本は狂犬病清浄国なのに、なぜワクチンが必要なのですか?

日本は幸い、1957年以降国内での狂犬病発生がありません。しかし、海外では依然として多くの感染者が報告されており、ウイルスが海外から持ち込まれるリスクが常に存在します。日本が狂犬病清浄国でいられるのは、飼い主さん全員が犬にワクチンを接種することで、国内でのウイルス蔓延を防いでいるからです。これは「集団免疫」の考え方に基づいた公衆衛生上の重要な取り組みであり、法律で義務付けられています。

 

Q2. 狂犬病ワクチンは、猫にも打つべきですか?

日本では猫への狂犬病ワクチン接種は法律で義務付けられていません。しかし、猫も狂犬病に感染する可能性があります。特に、外に出る機会の多い猫は、ウイルスを持った野生動物と接触するリスクがあるため、任意でのワクチン接種を検討することをおすすめします。判断に迷う場合は、かかりつけの獣医師に相談してください。

 

Q3. 狂犬病はどのような経路で感染しますか?

最も一般的なのは、感染した動物に咬まれることです。唾液中のウイルスが、傷口から体内に侵入します。引っ掻かれたり、唾液が粘膜に付着したりすることでも感染するリスクがあります。

 

Q4. 狂犬病に感染したら治療法はありますか?

残念ながら、狂犬病は一度発症すると有効な治療法がなく、ほぼ100%死に至ります。しかし、発症前の潜伏期間中に、複数回にわたるワクチン接種(曝露後ワクチン)を行うことで、発症を予防できる可能性があります。

 

まとめ

 

狂犬病は、一度発症すれば有効な治療法がなく、致死率がほぼ100%という非常に危険な病気です。日本の清浄国としての地位は、犬への予防接種義務によって守られており、これは私たちが狂犬病という脅威から身を守るための大切な防波堤となっています。

決して「過去の病気」ではなく、いつ持ち込まれてもおかしくない現実の脅威です。愛犬への年に一度のワクチン接種は、愛犬自身だけでなく、人や社会全体を守るための重要な責任であることを改めて認識しましょう。

 

 

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